マニアック評価vol155
2012年8月にF10型5シリーズにもユーロ6対応、ポスト新長期規制に対応したクリーンディーゼルを搭載した「523d Blue Performance」のセダンとツーリングが発売された。
5シリーズに搭載されるクリーンディーゼルは3シリーズにも搭載した2.0Lの直列4気筒ターボエンジンと同じもので、X5に搭載しているディーゼルとは異なる。出力は135Kw(184ps)/4000rpm、380Nm/1750-2750rpmというスペックで320dと全く同じ出力だ。6気筒3.5Lクラスのガソリンエンジンに匹敵するパワーで、5シリーズに見合った出力を備えている。
ミッションもBMWのモデルに多く搭載されるZF製の8速ATで、エンジンのスタート/ストップ機能など環境対応技術も数多く採用しているモデルだ。JC08モードの燃費は16.6km/Lで、3シリーズだと車重の違いで19.4km/Lとなる。ちなみに523dの車両重量は1750kgで、320dは1550kgと200kgの違いがある。またミッションのギヤ比は各ギヤとも全く同一ではあるものの、ファイナルでは523dが2.929、320dが2.813となっており、車重差を補う分523dはローギヤードになっている。
実際の試乗では、523dブルーパフォーマンスのMスポーツをテストした。3シリーズは現行のF30型となって、一クラス上の上質感を備え、5シリーズとの差がなくなってきた印象がある。もちろん、ボディサイズが違うために大きさの違いは分かるのだが、乗り味では3シリーズでも上質なしっとりとした走りが味わえる。それでいてスポーティな走りは確保されているというのが3シリーズの印象。F10型5シリーズはボディサイズの大きさや車格的にスポーティな走りよりは、より上質で大人びた走りというのが持ち味。だが、Mスポーツではサスペンションもノーマルより締め上げられ、車高も下げているため高級感を出しながらもスポーティに走るという芸当ができる。
そのため、ハンドリングは軽快で3シリーズとの違いが判らないほどにスポーティでもある。メルセデスのEクラスと比較しても身軽にコーナーをクリアしていく。バケットタイプのシートのホールド性も高く、肌触りがよく、太めのレザーステアリングを気持ちよく扱える。
エンジンは新世代の2.0L直噴ディーゼルターボで圧縮比16.5。PM(すす)にはDPFで対応し、NOxにはNSCという新しいタイプのNOx吸蔵還元触媒を使用している。これがX5に搭載したディーゼルと大きく異なる部分で、尿素水を使ったSCRアドブルーはある程度の走行距離で尿素水を補充する必要があったが、今回のNSC採用によりメンテナンスフリーとなった。もちろん、アイドリングストップや減速エネルギー回生システムも搭載し、平成27年度燃費基準に対して+20%達成している。
エンジンをかけるとディーゼルらしいガラガラとした音がするが、車内では遮音性が高いため、それほどディーゼル音は聞こえてこない。このあたりも320dとの違いかもしれない。ゆっくりとアクセルを開けてみる。以前のBMWのようなペダルの重さはない。適度な重さを維持しながら開度を広げる。
1500rpmも回れば、次々にシフトアップが行われエンジン音は大きくならない。60km/h程度まで車速が上がればトップギヤの8速にシフトされていて、エンジン回転は1200rpm程度を示す。低回転を維持しながらの走行はすこぶる滑らかで、上質感、しっとり感を味わう。そして信号でとまれば即座にエンジンは停止し、車内は静粛な空気が漂うのだ。
パドルシフトを使い元気に走行してみる。エンジンのレスポンスはディーゼルだとは思えぬほど軽快に反応する。マニュアルシフトでエンジンを引っ張る。5800rpmでレッドゾーンになるが、そこまで回す意味がないほどトルクフルに加速する。ヒステリックに高回転まで回すとうより、できる限り低い回転で速く走るという、インテリジェンスな新しいスポーツドライブ領域がそこにはある。したがってスポーティイメージのMスポーツというグレードにディーゼル搭載モデルにも存在する理由がそこにあるわけだ。
サスペンションはこれまでのガソリン車とおなじように標準でスポーツ、コンフォート、エコプロの3つのモードがあり、オプションでさらに2つのモードがプラスされスポーツ+とコンフォート+がある。スイッチを押すだけで、サスペンションの制御、エンジンレスポンスやシフトタイミング、パワーステアリングのアシスト量の制御などが行われ、エコプロモードでは、最大20%もの燃料消費を低減できることなどはガソリン車と同等となる。
車両価格はセダン、ツーリングともに、直列4気筒のガソリンエンジンを搭載した523iより+23万円でセダンが633万円、ツーリングが663万円となっている。国内の乗用車ではディーゼル比率が極めて低く、もともとガソリンエンジンよりCO2の少ないディーゼルエンジンの普及が望まれていた。さらに燃料コストもガソリンよりは安価で、そして低燃費であるため今後のシェア拡大は間違いないと思う。