【BMW】Specialist 海外試乗 スポーツカー好きも満足させるアクティブハイブリッド3 レポート:菰田潔

マニアック評価vol130
F30型3シリーズのセダンにハイブリッドが誕生した。いち早くミュンヘンで試乗して来たので、車両解説をしながら試乗インプレッションをお届けしよう。

 

BMWのハイブリッドは、これまでアクティブハイブリッド7、アクティブハイブリッドX6、アクティブハイブリッド5の3車種だった。今回そこにアクティブハイブリッド3が加わった。アクティブハイブリッド7(7シリーズ)は4.4L・V8型ターボエンジンと電気モーターを合体させATと組み合わせたパラレル式で、走るときには必ずエンジンが掛かりEV走行はできないタイプ。

 

アクティブハイブリッドX6(その名の通りX6)は、4.4L・V型8ターボエンジンにメルセデス・ベンツとGMとBMWで共同開発したハイブリッド用の動力分割機構を内蔵したトランスミッションを搭載する。2モーターのシリーズパラレル方式で、走行中でも60km/h以下ならエンジン停止も可能。そして、発進から60km/hまでなら条件が揃えばEV走行も可能だ。しかしこれは非常にコストが高いハイブリッドシステムで、これからのBMWには採用しないだろう。

アクティブハイブリッド5(5シリーズセダン)は3.0Lの直列6気筒ターボエンジンに電気モーターを組み合わせたパラレル式。8速ATのトルクコンバータ部分を電気モーターに置き換え、スペース効率も良い。当面この方式がBMWのハイブリッド車には採用されるはずだ。このZF製のユニットは最初からモーターを組み込んだハイブリッドモジュールを盛り込んだ設計だったのだ。その2台目がアクティブハイブリッド3だ。つまりアクティブハイブリッド5のパワートレーンがほとんどそのままアクティブハイブリッド3に搭載されたのだ。

BMWはここ数年「Efficient Dynamics」を謳っているが、もちろんハイブリッド車でもこの思想は貫かれている。効率と走りの両立という意味だ。BMWは「燃費は良いけど、走りはごめんなさい」というクルマは造りたくないという。だから単なるハイブリッドではなくアクティブハイブリッドというネーミングになっているし、実際カタログのトップパフォーマンスカーと位置付けられ、シリーズの他モデルより速く、そして燃費もよくなっている。

新しい3シリーズ(F30型)はボディ設計が始まる時点で、アクティブハイブリッド3を造ることが決まっていたから、リチウムイオン電池を収納するスペースも考慮されていた。アクティブハイブリッド5はリヤシートのバックレスト裏にリチウムイオン電池がレイアウトされ、トランクスペースが狭くなっているが、アクティブハイブリッド3は電池をトランクの床下に埋めることができ、床の高さが標準車より5cmほど高くなるだけなのでラゲッジスペースはノーマルと見た目の差はほとんどない。BMWのデータではトランク容量は90L減って、390Lになったという。

アクティブハイブリッド5では60km/hまでだったEV走行も、アクティブハイブリッド3ではバッテリーが良い状態なら最高75km/hで2km〜3kmの距離が走行可能になる。アクティブハイブリッド5よりアクティブハイブリッド3の方が車重が195kg軽いためだ。とはいってもアクセルペダルの操作を丁寧にやらないとエンジンが掛かってしまう。

ATセレクターの横のドライビング・パフォーマンス・コントロールのスイッチでECOPROを選ぶとEVモードで走れる可能性が高くなる。ペダルのゲインが下がりアクセル操作が自動的に丁寧になるからだ。

ハイブリッド車で燃費を良くするために、無理矢理EVモードで走ることがそれほど大きな効果はないそうだ。EVモードで走れる距離は長くないし、これで走っていてリチウムイオンバッテリーがなくなったら、必要のないときにエンジンが掛かってガソリンを使いながら充電を始める可能性もある。だから発進加速のときに、走る力と発電する力の両方をいっぺんにエンジンの動力を使う方が効果的なのだ。そのためBMWのアクティブハイブリッドにはEVモードにするためのスイッチはない。

夜中にそーっと家に帰るには、リチウムイオンバッテリーに充分な充電をするような運転をしておき、家の近所からはEVモードが使える状態にしておかなくてはならない。

アクティブハイブリッド3は走行スピードが160km/h以下なら、アクセルペダルを戻してコースティング(惰性走行)状態になるとエンジンがクラッチにより切り離されて停止する。このときはリチウムイオンバッテリーにほんの少しの充電はしているが、エンジンブレーキも効かずほとんど惰性で走っている状態なのでスピードはなかなか落ちない。エンジンが停止し燃料を1滴も使わない状態を保ったまま何100メートルも走る感触は気持ちがいい。

パワートレーンはエンジン、電気モーター、8ATという順番で並んでいるが、エンジンと電気モーターの間には電子制御クラッチがあり、コンピューターからの指示により自在に断続が可能だ。さらに電気モーターと8ATの関係も、8ATの中にクラッチがあるからここでも断続が可能なので、さまざまなシチュエーションでエンジンと電気モーターの出番をコントロールできるのだ。

緩やかにアクセルペダルを踏み込んで発進した場合には、電気モーターだけで加速するEVモードになる。このときにはエンジンは停止しているからエンジンと電気モーターの間のクラッチが切れていることも理解できるだろう。もう少しアクセルペダルを踏み込むとエンジンがかかり、エンジンの力をメインとした加速をしていく。このとき電気モーターが加速のアシストをすることもあるし、リチウムイオンバッテリーが少ない場合には発電することもある。

アクセルペダルを深く踏み込んだ場合には、エンジン+電気モーターの両方の力を使って強烈な加速力が味わえる。車重が335iより130kg重くなっているが、それにも増してエンジン+電気モーターの合成トルクは450Nmと強いので加速力は向上しているのだ。0-100km/hは335iが5.5秒だがアクティブハイブリッド3では5.3秒に短縮している。

今エンジンが掛かっているのか、電気モーターは駆動しているのか、発電しているのか、いまクルマの惰性で発電しているのかなど、どんな状況で走っているのかを知りたくなる。その状態がアニメーションでiDriveのモニターに映し出される。走りながらでも見て理解することができるから、さらなるEfficientなドライビングをするために役に立つだろう。

アクティブハイブリッド3は、走行中エンジンが止まったり掛かったりを頻繁に繰り返すことになる場合もあるが、エンジンが掛かるときの音と振動のストレスは全くない。これは通常のスターターモーターを使っていないからだ。普通は発電機として使っているエンジンの前側にあるベルト駆動のモーターを再始動のときはスターターモーターとして使うのだ。エンジンがまるで自ら回りだしたかのような、音と振動のない始動なのだ。これは日産セレナでも使っている手法だ。

では通常のスターターモーターは、というとちゃんとオリジナルのまま装備している。エンジンがコールド状態からのスタートなどベルト駆動では難しいときも考えられるので、最初の始動は通常のスターターモーターを使用するという。

アクティブハイブリッド3の乗り心地は多少硬めになる。試乗車は225/45R18 81Yのピレリ・チンチュラートP7を履いていたが、このサイズの軽荷重での空気圧が前2.4/後2.6 barだからかもしれない。重量が増えた分というより燃費性能を良くするためだろう。それでも先代の3シリーズより乗り心地が改善されている新型だから、大きなマイナスではないと思う。

アクティブハイブリッド3の主要なマーケットはドイツ本国ではなく、US、日本、中国だそうだ。信号待ちや街中の加減速が多い道路状況にこのシステムがマッチしているからだろう。ちなみに日本仕様ではこれまで最強の335iはカタログから落とされ、アクティブハイブリッド3に置き換えられた。E90の335iに比べてF30のアクティブハイブリッド3は13万円高いだけだから、日本のマーケットでは335iの必要性がなくなったということだろう。

これでMモデルを除く3シリーズの最強マシンがアクティブハイブリッド3という位置付けになったのだ。加速性能が最強というだけでなく、ハンドリング性能も335iに劣っていない。リチウムイオンバッテリーをトランク床下に埋め込むことができたので、重心は低く前後の重量バランスも取れているからだ。 スポーツカー好きをも満足させるハイブリッドカーの誕生だ。

BMW ActiveHybrid 3 公式サイト

COTY
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