マニアック評価vol110
「2007年に上海で発表したときはボディが大きすぎました。それで2010年の北京ではもっとコンパクトにしたんです……」BMW6グランクーペの国際試乗会がイタリアのシチリア島で行われた。地中海の陽射しの中、スタイリッシュなボディがキラキラと輝く。
そんなクルマを目の前にして思い出したのが、2007年上海や東京モーターショーに展示された“コンセプトCS”。当時にわかに流行りだした4ドアクーペのコンセプトカーである。
そこで、試乗会場でマーケティング担当者に6グランクーペとそのときの関連性を質問すると、冒頭の答えが返ってきた。ちなみに、2010年の北京は、5シリーズをベースにした“コンセプト グランクーペ”というものだった。だが、今回正式に販売まで漕ぎ着けたのは、6シリーズをストレッチした4ドア版。まさしく2ドアクーペから派生した4ドアクーペとなる。
ターゲットは、40代、50代の男性。2台とか3台、4台所有する高額所得者となる。クーペのような美しいスタイリングに強い関心のある人とセダンマーケットの需要を期待しているそうだ。もちろん、6クーペからの買い替えもあるだろうが、メルセデス ベンツCLSやパナメーラ、アウディA7スポーツバックからのスイッチも狙いたいとマーケティング担当者は話していた。
では、すでにこうしたモデルが市場に出ているところへ新規参入する狙いはなんなのか?
じつは今回BMWはプレゼンテーションの中で、しきりとこのクルマのエレガントさと実用性を唱えていた。つまり、“後出しじゃんけん”となるこの際、徹底的なリサーチを行うことでマーケットのニーズに応えようとしたのである。
具体的にいうと、そのひとつが4+1シートにあたる。パーソナルクーペらしく2+2を原型とするが、リアシート真ん中にもしっかりシートベルトが用意されていた。がしかし、センタートンネルがドーンと車内中央に横たわるここは、パッセンジャーは股を開いて乗る姿勢を強いられる。つまりあくまでも非常用というのが正しい見解。それでもあえてシートベルトを4つに限定する理由はないとしてレイアウトされたのだ。
では次にクルマの概要だが、グレードは今回試乗した640iグランクーペの他に650iグランクーペ、それとディーゼルエンジン搭載の640dグランクーペとなる。また、650i xDriveグランクーペという4WD車も用意される。
よって、パワーソースは3L・直6+ターボと4.4L・V8+ツインターボがメイン。どちらも他の例に漏れず、ダイレクトインジェクション、可変バルブタイミング機構を備える。最高出力は320psと450ps。どちらも十分であることはいわずもがなだ。そして、ブレーキエネルギー回生システムやオートスタート/ストップ機構、ECO PROモートの走行モードなどを搭載することで、省燃費にも工夫が施された。
そんなスポーティな心臓を備えたエレガントなボディはというと、これがじつによく出来ていて、リアシートの居住性は思いのほか高い。足元がゆったりしているばかりか、ヘッドクリアランスも心配いらなかった。ほぼ3mというホイールベースがうまく効果を発揮しているのだろう。
最後にドライビングフィールはというと、こいつは実にスムーズ。走り出すとその3mのホイールベース、5mの全長がウソのように軽快に走る。確かに7シリーズの走りを鑑みれば驚くようなことではないのかもしれないが、いってしまえば走りは2ドアクーペのままなのだ。ステアリング操舵に対するクイックなレスポンスと足さばきにひたすら感心するばかり。ロングホイールベースでこれだけスポーティに振ったのは珍しい。逆に言えば、リムジン的な心地よい乗り味にはセッティングされていないということだ。つまり、リアシートは段差で多少減衰力をキツく感じるときもある。とはいえ、この徹底ぶりはさすが。これなら、マーケティング担当者がいっていた6クーペからの乗り換えに不満が出ることはないだろう。
↑レポートはジャーナリスト九島辰也氏。