「ブルーパフォーマンステクノロジー」と呼ぶ排出ガス処理技術で、日本の「ポスト新長期規制」という厳しいディーゼル規制をクリアし、同じX5シリーズのガソリン仕様35iより燃費が30%向上、JC-08モード燃費で11.0km/Lを誇る。その最新ディーゼルを搭載したBMWのSUV、X5 xDrive 35d Blue Performanceを試乗した。
周知の通り、今やクルマは地球温暖化防止のため、CO2削減が大きな命題だ。ヨーロッパではその解決策のひとつとしてディーゼルが大きく貢献している。ガソリンエンジンより「熱効率」(ひらたく言えば燃費)が 優れているからだ。高い圧縮比で爆発させるディーゼルのメリットだ。
国内では燃料も安く、しかも低燃費(CO2排出もそれだけ少ない)。その一方でノック音などノイズが大きくなるのもディーゼル。また、NOx(窒素酸化物)やPM(粒子状物質、スス)も出やすい。だが・・・そのディーゼルが近年、ヨーロッパでは驚異的な進化を遂げてきた。
ディーゼル搭載ということでエクステリアの変更は特になく、お決まりの「キドニーグリル」と大きく開いたラジエーターグリルやエアーインテークがダイナミックな顔に見せる。ハイトの高いSUVボディだが、まろやかなシルエットの中に、ボディサイドに流れるエッジの効いたラインや、後部各所のシャープなラインで精悍さと軽快さを表現し、気品のあるスポーティーなエクステリアに仕上げているのはさすがだ。
一方インテリアは、 がっちりとしたドアを開き、コクピットに入ると、いつもながらモダンでキチッと端正な空間が待ち受ける。品の良いシルバーリングのメーターパネルには、黒と白で見やすいアナログメーター。5000rpmからレッドゾーンのタコメーターには、アナログ表示の瞬間燃費計が組み込まれている。機能的で美しいメーターパネルだ。
センターの高い位置には比較的大型のナビディスプレイがあり、見やすい。また嬉しいことに、日産のアラウンドビューモニターに似た性能の「トップビュー」と呼ぶ仕掛けは、後方、左右の周囲の様子がディスプレイに表示され、バックの際、後方と特に左の障害物が確認でき有難い。
他に運転席ウインドの正面にはオプションながら、ヘッドアップディスプレイがあり、スピードやナビの矢印表示などが見やすく安全性が高い。センターのフロアコンソールにはやはり、シルバーでコーディネートされたモダンアートのような形状の8速オートマチックミッションのセレクターレバーがある。短いストロークで心地よく、クリック感覚でシフトでき、未来的な操作フィールだ。
BMWの作法で素晴らしいのは、このセレクターグリップトップのスイッチを押すと一発で、パーキングに入ること。もっとも、最近は他メーカーにも同様なシステムは増えているが、電子式セレクターシステムの使い勝手の良さはクセになる。ちなみに、サイドブレーキも自動的に設定、解除も可能。慣れると止められない。
大型のセパレートシートはソフト過ぎず、固過ぎないバックレストのパッドは腰のサポートの形状が良いのが特徴。さすがに椅子の文化の国から来たクルマだ。シートのハイトを高めなくても前方視界はよく、こういう点でもオーバー200km/hのアウトバーンの国のクルマだとわかる。
リヤシートは4:2:4でバックレストが倒れるベンチタイプだ。2人掛けの場合、センター部分はアームレストとして利用可能だし、またトランクに長尺ものの搭載時にはトランクスルーとして利用できる。座り心地も満足。バックレストの剛性もソフトすぎず固過ぎない。また、ヒップポイントも高めなので、前方視界もストレス感がない雰囲気だ。ルーフのクリアランスは20cm程度で膝のゆとりは私の場合、40cmもあり、とにかく広い。ゆったりとロングツーリングが楽しめる広さがある。
期待のエンジン
スタータースイッチで軽やかに3L直6、DOHC、ターボディーゼルは目覚めた。 アイドリングではバイブレーションは微かにステアリングホイールに感じるものの、ボディやシートには一切入らない。ディーゼルの雰囲気は感じられず、遠くで「トットットッ」と微かに聞こえる程度。静かなアイドリングである。
エンジンスペックは180kw(245ps)/4000rpm、540Nm(55.1kgm)/1750rpm-3000rpmといかにも最新のターボらしいフラットトルク仕様だ。
アクセルを軽く踏み込むとスーッと、軽々と走り出す、低回転からのスムーズで、アクセルぺダルへのつきの良さは「ツインパワーターボ」の威力だ。ターボそのものは1基なのだが、エンジン回転が低い時にはタービンブレードへの開口面積を小さくして、流速を高めタービンの立ち上がり回転を速めてピックアップを良くするというもの。そして高回転になると、その開口面積を最大にし、更にタービンを高回転に維持する仕掛け、つまり可変ノズルターボになっている。
低回転からのレスポンスは良いのだが、意地悪く1500rpmからフルスロットルにすると、さすがにここからのピックアップは辛いが、1700rpm越えからはスーッとトルクが湧き起こり心地よい加速に入れる。
動力性能を試そうと、停止から発信加速を試す。さすが4WDの威力で、発進時、ウエット路面ながら無駄なホイールスピンがなく、効率よく発進。フルスロットルでは4400rpm付近でシフトアップし、力強い加速感で下手なスポーツカーを凌ぐ動力性能。軽く15秒台の0-400加速タイムを叩きだす雰囲気でズバリ軽快な走りだ。
それでいて、市街地での20km/h〜30km/hあたりのトロトロ走りでは1200rpmぐらいだが、軽くアクセルを踏んでいるだけで充分なトルクがあり、スムーズに流せる。いざという時にはスロットルを踏んづけると、一挙に8速ATがキックダウンし、ドラマチックな急加速に入る。ほとんどショックなしで鋭い加速に移れ、高速道路での安全性もすこぶる高い。
ミッションはパドルでも操作でき、クリック感のある心地よい操作で、スムーズにしかもクイックにシフト。嬉しいのはレッドゾーンに当たるとマニュアルモードでもシフトアップしてくれ、リミッターに引っかかることなくグイグイと加速がつながり、実に使い易くこなれた設定だ。
足元を見るとタイヤは255/50ZR19を履くが、しっかり感のあるサスで路面の突起を乗り越えても辛いガツンと厳しい突き上げはなく、快適なのだ。心地よい乗り心地には驚かされた。更に驚きはサウンド。走行中はおろか、停止中でもディーゼルを意識したことは一度もなかった。更にエンジン回転が高まり、3000rpm〜4000rpmに掛けて、「ウォーン」とディーゼルとは思えない、声楽で言えばアルトのような甘いトーンのエンジンサウンドで気持ち良く走る。素晴らしいエンジンサウンドにチューニングされていた。
もうひとつ褒めたいのはハンドリングだ。ウエット路面でのインプレッションではあるが、かつて初めてX5に乗った時には、イタズラにピシバシとクイックな応答なのにはいささか戸惑ったが、今回は落ち着いた程よい応答なので、高速でのレーンチェンジも安心して行え、不要な緊張感を持たずにリラックスしてハンドリングでき、大いに褒めたくなるナチュラルな操縦性だった。
環境対策として自信をもって送りこんだブルーパフォーマンス仕様のディーゼルは、期待以上に静粛性が高く、低速から高速までフレキシビリティに富んだエンジンだった。エコカー減税対象モデルで税金面でも大きく優遇される。価格は839万円と高価だが、地球に優しいクルマで、走行フィールやパフォーマンスを加味すると充分納得できるSUVと言える。
■BMWX5 xDrive35d Blue Performance主要諸元
●価格839万円(税込) ●排気量3.0Lディーゼルターボ ●全長4860mm×全幅1935mm×全高1775mm ホイールベース2935mm ●最大出力180kw(245ps)/4000rpm 最大トルク540Nm/1750rpm-3000rpm JC08モード燃費:11.0km/L