【BMW】SPECIALISTアクティブハイブリッド5海外試乗記 5シリーズらしい完成度の高いHV レポート:九島辰也

マニアック評価vol92

5シリーズHV
ポルトガルで開催された5シリーズハイブリッド国際試乗会

BMWには現在2つのハイブリッドモデルがラインアップされている。お馴染みのアクティブハイブリッドX6とアクティブハイブリッド7である。X6のハイブリッド駆動システム技術はご存知のようにメルセデスとGMの3社で共同開発された。GMはキャデラック・エスカレードやシボレー・タホに、メルセデスはアメリカ専用車としてMクラスにそれを搭載した。考えてみれば、どれもSUVである。アクティブハイブリッド7はそれとは異なるシステムを採用。マイルドハイブリッドと呼ばれる技術はメルセデスとの共同開発でSクラスに投入されたものと設計を同じとする。ただ、彼らがアトキンソンサイクル化したV6と組み合わせたのに対しBMWはツインパワー・ターボのV8を選んだのだからキャラクターは大きく異なる。まさに攻めのBMWといったところだろうか。

以外地
ハンドルを握る九島辰也氏と助手席の岡崎宏司氏。リスボンの市街を走る

では、新登場のアクティブハイブリッド5はどんなクルマなのか。ここで前述した2つのモデルと大きく異なるのは、組み合わされるエンジンである。これまでBMWはV8型エンジンと電気モーターをマッチングさせることで、プリウスに代表されるようなコンパクトハイブリッドカーとは違う可能性を示してきた。いうなれば、大排気量のパワーを必要とするクルマこそ、それを補助する電気モーターと組み合わせることでメリットが生まれるということだ。

だが今回の結婚相手は3Lの直6・直噴ガソリンエンジン+ツインパワー・ターボである。535iですでに定評を得ている最高出力306psを発揮するユニットだ。電気モーターの出力は55psで、全体としては340psになる。0-100km/h加速は5.9秒である。

直6
エンジンには直列6気筒が選ばれた

ちなみに、車両重量は大型リチウムイオン・バッテリーと電気モーターの搭載で535iより140kgだけ重くなる。が、それでもエンジンフードやフロントフェンダー、ドアをアルミ製にすることでここまでしぼったのは立派。それにバッテリーをトランクルーム前方にマウントするなど、彼ららしい重量配分を考慮した配置も行われている。

HVユニットZFミッション

それでは、実際に走らせた印象に話を移そう。

コースはポルトガルの首都リスボンの市街とその郊外。この時期、アルプス周辺は雪深いこともあり、新型車の試乗会をスペインやポルトガルといったエリアで行うメーカーは多い。リスボン周辺はワインディン グはもちろん、高速道路もしっかり備わっていて速度域の高い移動ができる。それにインターの表示もシンプルでわかりやすいことから訪れた 者にやさしいといえるだろう。まぁ、市街地は一部複雑なところもある ようだが……。

フロントリヤ

あらためていうこともないが、通常のパワーソースを持った5シリーズの完成度の高さには舌を巻く。絶妙なハンドリングとフットワークはまさにBMWで、パワステのチューニングも近年は“らしさ”を強く感じる。スッと切ったときの手のひらに伝わるあの感覚は一級品としかいえない。それに足さばきも感動の領域。高速域では沈み込むように路面にピタッと張り付きながら、サッサッと動く足に運動性能の高さを知る。その動きはクルマをひとまわり小さく感じさせるといっていいだろう。

当然、それは電気モーターを積んだこのクルマも同じであった。それこそ出だしのモーターによる加速こそこれまでとは異なるが、急なトルクの立ち上がりに違和感を持たせたりはしない。とにかく既存のBMWオーナーが嫌がるような不自然さはないのだ。それに走行中市街地におけるエンジンの自動停止と再始動もかなりナチュラルで、ドライバーはいちいちそれに反応することはできない。液晶モニターでエネルギーの流れを目で追わないとわからないのが正直なところである。

モニター今回アクティブハイブリッド5では、電気モーターのみで最長4kmの距離を60km/hで走行できることに加え、ECO PROモードにすれば160km/h以下ならエンジンを停止して走ることも可能にしている。これはコースティングモードとも呼ばれ、惰性走行時にエネルギーを最適化するのが目的であるが、この切り替えも走行中にモニターでは確認するのが精一杯。トルクが落ちたりアクセルの反応が変わるといった事象も起きないことから実感することはなかった。どうやら、アクセルの戻し具合に制御システムが反応しているようではあるが……。

この他では、BMW Efficient Dynamicsとしてスタート/ストップ機能やエネルギー回生ブレーキなども装備される。前者はX3のような荒々しさはなく思いのほか洗練されていた。振動や音はポルシェ・パナメーラより人にやさしい。

では、このクルマがめちゃめちゃ好燃費のミドルサルーンかといえば、今回の試乗ではそうともいえない。やはりこういったモデルの優れたところを見出すのは長期レポートに他ならないだろう。もちろん、それでもクルマの使い方によってこうした高性能ハイブリッドモデルのメリットは見え隠れする。ただ、今回ハイブリッドシステムが直6エンジンと組み合わされたことで、今後の展開がグッと広がったことは間違いない。Iシリーズのリアリティも増したといえる。

それはともかく、こいつはしっかりBMWしているのが嬉しい。このメーカーの指針はまったくもってブレはしない。

九島辰也
モータージャーナリスト九島辰也氏。ポルトガルでの試乗会にて
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