マニアック評価vol42
BMW X3が7年ぶりにフルモデルチェンジを行い、ひとまわり大きくなって誕生した。早速そのニューX3に試乗をしてみた。
滑らかな加速シルキーシックスとZF8速AT
X3の国内モデルには2グレードがり、28iと35iである。欧州や北米ではディーゼルモデルも存在するが、国内には未導入となった。今回試乗したモデルは28iである。
この28iには先代X3にも搭載されていたN52Bエンジンで、3.0L直列6気筒ガソリンエンジンである。おもな特徴はBMWの伝統的なバルブトロニックとダブルバノスを装備していることと、マグネシウム合金シリンダー(3.5iはアルミシリンダー)による軽量エンジンであること。スロットルバタフライを持たないバルブトロニックはバルブのリフト量と開いている時間を機械的にコントロールするシステムで、また、バルブの開閉タイミングは油圧を使って吸排気バルブを作動させるダブルバノスを備えたエンジンである。
BMWの直列6気筒エンジンには現在4種類のエンジンが存在し、このN52Bエンジンは2.5Lと3.0Lの2種類がある。130iや523i、528i、Z4-23iなど幅広く使われているエンジンでもあり、いわば、シルキーシックスといわれる滑らかなフィールを多くのユーザーに味あわせてきたエンジンという言い方もできるだろう。
そのため、そのエンジンのフィーリングは言うまでもなく滑らかに高回転までまわり、このうえないほど気持ちよく吹けあがる。パワーやトルクの出方も申し分なく、258ps、310Nmの出力は1850kgの重量をいとも簡単に加速させ、十分な加速感を楽しむことができる。
そして、新規に搭載されたZF製8速ATとの組み合わせにより、滑らかな加速により磨きをかけている。このZF8速ATはすでに5シリーズに搭載しており、ギヤ比は同様の設定になっている。しかし、最終減速比は異なっており、セダンの3.385に対して3.727である。そのため、100km/h時点でセダンが1500rpmを下まわるような回転であるが、X3では1800rpmを示していた。また、28i、35iともにこのZF製8速ATを搭載しているが35iモデルのみ、エンジン・オート・スタート/ストップ機能がついている。
ハンドリングでは背が高いSUV(BMWではSAV=スポーツ アクティビティ ビークルという)であるが、レーンチェンジやコーナリングでも安心感のあるものだった。高速域でのレーンチェンジではわずかなハンドルの切り角に対してリニアに反応し、そして収まりもよく、ぴたりと収束できる。ボディにおつりが来るようなことがまったくない。また、出口のRがきつくなるようなコーナーでもロール速度が一定であるため、腰から下でコーナリングしていくように感じられる。背高クルマでよく経験する頭から倒れこんでコーナリングしていく類のものではないのはさすがBMWである。
そしてステアリングはオンデマンド式の電気機械式だが、そのフィールは非常にナチュラルで、また、操舵感は車速に反応するので、非常に扱いやすいと感じた。このすばらしいハンドリングフィールについては、【ZF】 BMWハンドリングの秘密 第3の電動パワーステアリング EPSapaを参照してほしい。また、直進性もしっかりと感じることができるので、どんな状況でも安心感、しっかり感が強く、BMWのハンドリングをベンチマークとする各社は、またしても新たなSUVのベンチマークとなるだろう。ブレーキにおいても安定した制動力で、強めのブレーキであっても前のめりに感じることもなく、フラットな姿勢を保ったまま減速するので、安心してブレーキを踏むことができる。
全モデルフルタイム4WDであるXドライブは、電子制御により前後のトルク配分を可変分配することができ、また、DSC(ダイナミック・スタビリティ・コントロール)のアクティブセーフティは、車両のアンダーステア、オーバーステアの傾向を感知しはじめると、実際に走行に影響を及ぼす前にすばやく反応をして、これらの動きを打ち消す制御を行っている。だから、実際の走行では実に安定した走行ができ、不安と感じるような車両の動きを一切感じることはない。
そして4WD車にみられるハンドルをフルロック状態にまで切ったときに、動きが重くなるような現象もない。これは等速ユニバーサルジョイントの採用により、継ぎ手部分に角度がついてもドライブシャフトがなめらかに回転するようにジョイントされているためで、X3に新採用されているものだ。
大型化されたプラットフォームで快適な居住性
インテリアに関しては、このプレミアムブランドが造る高級SUVという視点で観察してみると、ライバルのメルセデスやアウディよりゴージャスさが少ないだろう。とはいえ、先代X3モデルより洗練され、質感も高められている。そしてセダンの3シリーズよりは数段高級感を持った仕上がりになっている。だから、手で触れたときの触感が気になるということはなく、演出の部分が寂しいのではないかと程度だ。このクラスを購入する客層はやはり舌の肥えたユーザーが想定されるわけで、満足させられるかという点がポイントになるだろう。
リヤシートの居住性はプラットフォームがX5、X6と共通となったことでスペースは広くなり、これまで以上に快適な空間となっている。全席との距離も十分に広く、また、天井高もあるので圧迫感は全くない。さらに試乗車にはガラスサンルーフも装備されていたので、より一層開放感も感じることができた。
ラゲッジスペースは1600Lとい大きなラゲッジルームをもち、40:20:40分割(30i)と60:40(28i)の分割可倒式リヤシートは使い勝手もいい。とくにこのセグメントにおいての3分割リヤシートは先駆けであり、ユーティリティへの配慮を垣間見ることができる。先代モデルに比較してホイールベースは15mm長く、トレッド幅も92mm広くなっている。そのため、快適な室内空間と大きな輸送力を手に入れることができたのだ。
また、最小でも550Lの容量を確保してあり、セグメントにおけるトップレベルの容量を誇っている。したがって、ゴルフバッグも4本積むことも可能となり、そのユーティリティの高さでは他車の追従を許さない多様性を持っているといえよう。
特異な装備としてナビゲーションシステム・ビジネスまたはナビゲーション・システム・プロフェッショナルには携帯電話対応キットが含まれており、モバイル端末はパッケージに含まれるiDrive操作システムで操作することができる。アップル社のiPhon及びiPod touchに対応している。また、オフィス機能も強化されておりBluetooth経由でEメールを転送し、車両のディスプレイに表示することもできる。スマートフォンのブラックベリーのユーザーは、iDriveの操作で、携帯電話のEメールディレクトリにアクセスすることもでき、メールをコントロール・ディスプレに表示することもできる。また、オプションの音声出力を使えば、メールを読み上げることも可能となる。
エクステリアでは、先代X3よりも、個性を強く押し出したデザインになっている。BMWのデザインではセダンの5シリーズあたりでクリス・バングル氏からファン・ホーイドンク氏へバトンタッチされ、押しの強かったデザインからやや穏やかなデザインへとシフトしているように感じるが、このX3ではその逆でおとなしいデザインから個性的なデザインへと変化しているところも興味深い。
ライバルとなるモデルはメルセデスML、アウディQ5、インフィニティEX35、アキュラRDX、レクサスRXなどであり、アメリカ市場で激しい競争を繰り広げているセグメントである。こうして他社と比較しても、各社いずれも個性を強く打ち出したデザインであり、X3も主戦場のアメリカで戦うためには、デザイン面でも北米マーケットを強く意識していることが想像できる。
文:編集部 髙橋 明
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