BMW 技術説明会の裏側

雑誌に載らない話vol8
2010年7月上旬にBMWニューエンジン試乗会があり、出席してきた。世界的に、化石燃料の消費を抑える動きや地球環境への対応ということで、排気ガス特にCO2の削減に力をいれている傾向がある。

このような状況のなかでBMWでは、BMW MINIから1シリーズ、3、5・・・などBMWのエフィシェンシー技術を盛り込んだモデルへと変更してきたのだ。

その試乗会で技術解説を行ったのが、ドイツ本社から来日したクリスチャン・ツェルフォーファー氏とBMWジャパンの山根健氏だ。

ツェルフォーファー氏はMINIをメインに解説。そこでは「ミニマリズム」を掲げ、その詳細を解説した。その標榜とすることは、燃費やCO2を抑えながらも、エンジン出力を上げ走行性を上げていくという相反的なコンセプトであり、すべてをミニマムにし、車両全体のマネージメントの見直すということだった。

具体的には、ニューパワートレーンの開発。それはターボ、バルブトロニック、直噴という技術の熟成で、さらに、これまでエンジンに負荷をかけていたベルト駆動されるオイルポンプやウオーターポンプ、パワーステアリングなどを電動化し、負荷を減らすというもの。そして、アイドルストップとエネルギー回生システムを装備し、あたらしいユニットへと進化していくことを示した。

クリスチャン

ツェルフォーファー氏はBMWグループのエンジニアリング部門に所属し、エネルギーマネージメントを担当という、これからの時代に、もっとも重要になってくるポイントを研究している。

日本だけを見ると、ハイブリッドや電気自動車に流れは一見あるように見えるが、BMWは近視眼的な視野からすれば、従来のコンベンショナルなエンジンを再度見直し、無駄を省いていく作業が大切という判断をした。反対に、先端のものはじっくりと開発するという判断をしている。日本はその逆で、従来のものより先に、ハイブリッドやEVの開発に力を注いだために、コンベンショナルなエンジンの再考察という意味では、いずれ巻き返すだろうが、現時点では遅れている。

この違いは、ひとつには国民性もあるのだろう。とかく日本人は最先端のものが最高という思考になりやすい。だから古いものより新しいもの、ということになる。このことは、街並みを見ても明らかで、ヨーロッパでは古い街並みが多く残り、インターネットのできる古城など、先端のものとの共存を果たしている。古いものと新しいものを融合させることをセンスというらしいが、自動車開発にもおいても、日本人的な開発がされているということなのかもしれない。

山根健氏

もう一人のエンジニアの山根氏はかつて、某自動車メーカーでCカーという耐久レース用のエンジンを設計していた方だ。今回の発表会ではマイクを握っての解説はなかったが、個別対応していただき、BMWのポリシーに至るまでの話が聞けた。BMWでのポジションは技術顧問だ。

そもそもエンジニアの多くに共通するのは、何もないところに、まったく新しいものを構築するということが必要とされる世界だけに、実にクリエイティブな頭脳を持った人たちだと感じる。そして営業スマイルはほとんど無く、日頃研鑽を積んだ頭脳は、ひとたび得意分野へ話が移ると、滂沱のごとく話だす人が多い。

山根氏もエンジンを研究している方だけに、BMWのマイクロハイブリッドでバッテリーはなぜ、鉛バッテリーでいいのか? を尋ねるとセパレーターと保持するマット部を特殊なものを使うことで、瞬間的な大電力が必要なときでも電力不足を起こさないことなどを教えてくれた。

そして、中国の大都市の裏道にいけば、鉛バッテリーは分解され、希硫酸までも垂れ流しの状況が普通であることや、反対に日本ではGSユアサではひとつのゴミも出さず、すべての部材をリサイクルしている事実なども教えてくれた。

また、これからの車両開発では、軽量化が重要なポイントとなることをほのめかした。BMWのハンドルを握り、タイヤがひところがりしただけで、ドライバーに伝わってくる安心感は、ひとつに重量が重いということがある、と。

この先、燃費はより省燃費を追及し、EVではさらに軽いほうが動力源にたいしての負荷は少なくて済む。とはいえ、むやみやたらに軽量化はできない。

「カーボンの研究も進んでいるんですよね? アウディではアルミボディより、衝撃吸収に優れたカーボンがあるという噂もききましたけど」

「・・・・・・」

顔はニヤつき、明らかに何かを知っている表情だが、ひとこともなかった。当たり前か。

すると、

「BMWは機械で100%満足できる仕上がりにする、電気を使った制御はあくまでもサポートである。完成度が80%のものを制御で100%に仕上げるという感覚はない」とすっかり話題を変えられ、BMWのハンドリング哲学をぶら下げられ、また山根氏の話に引き込まれていく。

とまぁ、エンジニアと話をすると、実に興味深い話がたくさんあり、試乗の合間での話ではいつも足りないが、貴重な話は今後もこのコラムで紹介したい。

文:編集部 高橋明

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