5月に発表された、BMWのエンジンが大幅に燃費改善をし、新たなテクノロジーも投入してきたニュースがある。キーとなる技術はバルブトロニック+直噴+ターボ過給というユニットがハイライトになる。具体的にはMINI Cooper Sに搭載されたエンジンだ。
また、リーンバーン(希薄燃焼)という、省燃費に有効とされる技術も投入してきた。かつて90年代に各メーカーが競って研究・開発した技術であるが、実用化においていくつかの問題があり、その後開発はおこなわれていない。当時はリーンバーン領域が狭く、一定の条件のときだけしかリーンバーンにならないとか、また、NOxが増えてしまい、触媒など新たな装置の開発が必要になるなどから、省燃費に対するコストパフォーマンスがあわないと判断するメーカーがほとんどだった。
◆リーンバーンの投入
では早速、そのリーンバーンの内容をBMWジャパン技術顧問の山根健氏に聞いてみた。
「リーン実現の鍵となった技術は、燃焼制御(=噴射弁)です。そのリーン燃焼制御のお手本となったのが、ディーゼルエンジンです。ディーゼルのような望みどおりの燃料噴射が可能になれば、リーン燃焼もかなり安定して行うことができます。しかもNOxを最小限に抑えることができます」
ということで、BMWは自ら、理想とするインジェクターの開発に取り組んだのである。それは直噴エンジンの心臓部ともいえる部品で、高圧噴射のピエゾタイプ・インジェクターを開発することであった。国産車の直噴エンジンではおよそ100気圧前後であるが、BMWは2000気圧という高圧を実現している。
BMWは1995年あたりからリーンバーンの開発が続けられており、このピエゾインジェクターの完成により、リーンバーンを実現した。つまり、従来のソレノイド式電磁磁石では、必要なタイミングに必要な量の燃料を噴くという制御の精密さが不足していた。それを、電磁石を使わないダイレクトなピエゾ式であれば、高精度な燃料制御が可能になりリーンバーンが可能となる。おそらく、何回かに分けて噴射するステップ噴射を行っているのではないだろか。さらに、量産のガソリンエンジンでピエゾインジェクター採用というのは世界初だとおもう。
余談になるが、従来のインジェクターのソレノイド式から、ピエゾとすることで、高コストになるという問題も生じた。そのため、他の自動車メーカーにも採用の打診をした経緯があり、その結果メルセデスベンツが手を挙げ、採用を決めた。次期V6型エンジンにこのインジェクターが採用されて、市場に投入されてくることが予想される。そしてその製造はコンチネンタル・オートモーティブのシーメンス製へと変更されている。
◆リーンバーンの領域
「実際のリーンバーン領域は約4000rpmまでの、最大トルクの約60%以下がリーン領域で、そのうちの約40%が超リーン領域になっています。時速160km/h あたりがリーンと超リーン領域の境界になります」と前述の技術顧問山根氏。さらに「NOXにおいては、NOX吸蔵還元触媒の採用もありますが、燃焼においての制御によって低減もしています」という。
リーンバーンは理想空燃比の14.7:1に対して薄い混合気で燃焼させ、かつては20:1程度を目標として開発されていた。「空燃比は公表しておりませんが、20:1をはるかに超える(倍以上)の運転を実現しています。アイドル時は超リーンで、燃料消費量は7.5cc/min(従来型10.3cc/min)ですから、このクラスのエンジンの中でも突出した性能だと思います」
アウディやフォルクスワーゲンに採用されているTFSIなど、いわゆるダウンサイジングコンセプトのエンジンは、リーンバーンを行っておらず、BMWはこの燃焼技術において、一歩リードしたといえるだろう。
しかし、リーンバーンは少しでも加速状態にすると通常燃焼となるため、省燃費にどれほど貢献するのかは判断しにくく、そしてピエゾインジェクターやNOx吸蔵触媒の装着など、つまり、かつて各メーカーが断念した理由をどうやって解決したのか? という具体的な点も気になるところで、機会があれば教えていただきたい。
◆バルブトロニックの進化
吸気においてはBMWの伝統的とも言えるバルブトロニックとダブル・バノス技術がある。ターボエンジンについて今回のリニューアルでは、「バルブトロニックの吸気制御において、2つある吸気バルブをそれぞれ独立した制御をするようにしました」と山根氏が解説してくれた。その制御に合わせて、バノスも吸気・排気ともに制御の最適化がおこなわれ、省燃費につなげることができたという。
このあたりの技術は、コモンレールの高圧噴射と密接なかかわりがあり、吸気制御、燃料の圧縮噴射制御、燃焼制御、排気制御という流れが、従来のエンジンから変更されたことにBMWのテクノロジーの凄さが感じられる。なぜなら、エンジンブロックや使用パーツなどそのほとんどは、従来と変更がなく、吸気から排気までをリニューアルすることで、まったく違ったテクノロジーを持つエンジンに生まれ変わっているからだ。
しかしながら、NAエンジンの4気筒(N43)、6気筒(N53)にはバルブトロニックは採用されず、リーンバーンエンジンに変更されている。もともとバルブトロニックはNAエンジン用がスタートであり、BMWの多くのエンジンに採用され、その信頼度も高いが、どのような理由からNAに採用しなくなったのかは疑問が残る。
◆6気筒ターボも一新
直列6気筒のエンジンについては、ターボチャージャーに注目したい。もともと、ツインターボが基本レイアウトだが、ツインスクロールターボを採用することでシングル装着とし、効率化を果たしている。
このツインスクロールとは、排気ガス導入口を2つに分けることで各気筒の排気干渉を抑えることができ、効率よくタービン翼を回転させることができる。つまり、2つの排気ガス導入口は1番〜3番、4番〜6番に分けられ、6気筒の爆発順序は1-5-3-6-2-4なので、交互に排気導入されることになる。だから1基のタービンでも2基のタービンと同程度の仕事をさせることが可能になった、ということだ。
◆アイドルストップが搭載とマイクロハイブリッド技術
今回、エンジンオートスタート/ストップ機構がマニュアルミッションだけに採用されている。なぜATに採用されなかったのかといえば、エンジンが停止したときのクランク位置を正確に感知するストレージが必要となるためで、BMW MINI などで使われるアイシン製6速ATは、同じアイシン製を採用しているマツダ・アクセラでアイドリングストップがすでに投入されているため、MINIや3シリーズ、1シリーズなどに搭載されるのは時間の問題だろう。
BMWの多くのモデルに装備されたマイクロハイブリットシステムというのは、オルタネータの制御を行うものと考えていい。ハイブリッドというと、何かモーターを搭載し、リチウムイオンバッテリーやキャパシタのようなものに蓄電するイメージがあるが、BMWの場合は違っている。
オルタネータの制御をするBMWのブレーキ・エネルギー回生システム=マイクロハイブリッドは、バッテリーの残量が一定レベル以上のときは、加速時や巡航中には発電を行わず、バッテリーが蓄えている電力で対処している。クルマの減速時になると、つまりアクセルペダルから足を離したときに、これまで捨てられていた運動エネルギーを利用して、オルタネータを駆動し発電する。これがBMWの場合、ブレーキ回生エシステムといわれているものだ。
この制御のキーポイントとなるのは、バッテリー上部に取り付けられたインテリジェント・バッテリー・センサーで、これがバッテリーの充電状況をモニターし、オルタネータの駆動を制御しているのだ。
アイドルストップや電動のパワーステアリング、ウォーターポンプ、オイルポンプなどバッテリーに負荷をかけるものが増えてきているため、マツダのプレマシーではバッテリーを2個搭載し、電力不足に対応している。
BMWではバッテリーのセパレーターと基盤を支える土台に特殊なマットを使うことで、専用の鉛バッテリー1個搭載で対応している。ABSが働き、ハンドルを大きく切ったときなどに大電力が瞬間的に必要となるが、その時に電力不足が起きないための対策は万全ということだ。
つまり、このマイクロハイブリッドとは、バッテリーを充電するとき、従来は常にオルタネータは駆動しつづけ、その動力はエンジンにベルトをかけて行われていた。それを、充電が必要なときだけオルタネータを駆動するシステムのことであり、その駆動方式はベルト駆動のままである。
文:編集部 高橋明
関連記事
BMW Japan公式サイト