【ベントレー】Specialist海外試乗 コンチネンタルGTスピード ベントレーの極みをアウトバーンで味わう レポート九島辰也

マニアック評価vol144
ご存知のように、長年ベントレーとロールスロイスは共に同じシャシーとパワートレインを共有してきた。1931年の合併以降、この2台はバッジ違いの兄弟車という位置付けで進化してきたことになる。ただ、そのキャラクターは、自らドライブするスポーツカーのベントレーとショーファードリブンを前提とするロールスロイスというように分けられる。それは、1919年に創業したベントレーは1920年代にル・マン24時間レースで大活躍した実績があるからだ。

なぜ、そんな話をするかというと、ベントレーのプレゼンテーションで使われた数字を見て驚いたからだ。場所はドイツ・ミュンヘン。新型ベントレー・コンチネンタルGTスピードの国際試乗会のことである。

その数字とは、年間の販売台数におけるコンチネンタルGTと同GTスピードの比率である。GTスピードは2007年末にリリースされると翌年には4:6 とスタンダードのGTを上回り、2010年には5:5までいったん下がるものの、2011年には再び4:6まで巻き返した。つまりそれだけGTスピードは人気が高く実際に売れているのだ。

 

これは他ブランドのパターンからしてもとても特異な現象だ。通常ハイパフォーマンスモデルは人気が高くとも値段が張ることやメーカー自身が生産を抑えることで販売台数は限られる。スタンダードモデルを超えるなど、まったくもって考えられないといっていい。AMGがスタンダードメルセデスを、MがBMWのベースモデルより売れることはない。それにフェラーリなどははじめからスペチアーレの台数を絞ることでそのステイタスを上げているのだから、問題外といえるだろう。

もちろん、その背景にはベントレーが受注生産を基本としていることと関係する。カスタマーのオーダーで生産を開始するからできるワザだ。ただ、いずれにせよベントレーに対するスポーティなイメージはいまもまだ強く抱かれている。よってスポーティ度が高まれば高まるほど、カスタマーはそれを心から歓迎するのである。

では、新型コンチネンタルGTスピードとはどんなクルマなのか。それに関してはこれまでのGTスピードとキャラクターは変わらない。スタンダードモデルのパワーソースを磨き上げ、さらにボディ剛性をアップさせた。もちろん、二酸化炭素の軽減などエコ技術の向上も含まれるが、やはり目立つのはパフォーマンスの中身である。

目玉は625psを発揮するパワーソースとベントレーの市販車において史上最速の330km/hに達するトップスピードだ。これでGT V8の507ps、GT W12の575psとともにパワーレンジが揃った。

さて、そんなGTスピードを実際に動かす。すると、スタンダードの12気筒+50psという性格ながら、扱いやすさに驚く。ステアリングがクイック過ぎたり重過ぎたりすることなく、手応えを残しながらスムーズな動きをする。切り足していくとリニアに重くなるところは絶妙だ。また、乗り心地もかなりハードなイメージを持って乗り込んだわりには、肩透かしをくらうくらい上質だった。可変式のサスペンションは4段階でスポーツとコンフォートを使い分けるが、スピード側に振ってもゴツゴツしたレーシーな領域まではいかない。そこはベントレーらしくあくまでも快適さを失わないセッティングが提供される。

もちろん、それでも高速域でボディが沈み込みピタッと安定させる様はさすがだし、路面をガッツリ掴みながら張り付くように駆けるコーナリングはただただ感心するばかり。スタンダードのGTより明らかにスポーツマインドは高まる。21インチながらこれまでより15%軽量したというホイールや10mmロワリングされた車高、15%キャンバー角をきつくしたフロントタイヤなどが、しなやかながらスポーティな足の動きを実現する。

ちなみに、このクルマの駆動方式はトルクスプリット式のAWDで、フロント40、リヤ60という比率で駆動力を配分する。これだけのパワーを安全にかつ確実に路面に伝えるには、4つのタイヤが必要という考えだ。それでも挙動がRWDに近い感覚なのも見逃せない。

コーナーの出口でガバッと踏んでも、日産GT-Rのように前輪だけでグイグイ行くといった感じではなく、最後まで“お尻”で動かしているフィーリングが残る。アンダーステアを消すのにアンチロールバーやブッシュを改良したというが、この辺も彼らならではのこだわりポイントといえるだろう。

もちろん、こうしたアグレッシブな走りを可能とするのは強化されたブレーキが備わっていてのこと。試乗車はオプションのカーボンセラミックブレーキが装備されていたが、これが有効な安心材料となった。ローターは鋳鉄製の前405mm/後335mmに対し、前420mm/後356mmと拡大され、キャリパーも8ピストンという手の込んだものが備わる。しかも重量は鋳鉄製に比べ20kgも軽くできるのだから申し分ない。

ところで、今回コンチネンタルGTスピードの試乗会が地元の英国ではなく、ミュンヘンで行われたのには理由がある。それは試乗会が終わった頃にわかった。戻って来た各国のジャーナリストが、口々にアウトバーンの速度無制限エリアで何km/h出したとか話していたからだ。

その数字は260とか270とか。つまり、そうした領域を体験してはじめてこのクルマの存在意義が理解できるのである。そしてそれを意図してベントレーはこの試乗会を企てた。なるほど、遠回しな演出である。確かにサーキットで行ったにせよ、かなり本格的なコースでない限りこの辺までのスピードは出せまい。となると、アウトバーンは有効だ。それでも330km/hに到達したと豪語する強者はいなかったようだが……

コンチネンタルGTスピード 主要諸元表

コンチネンタルGTスピード 車両本体価格 2490万円(税込み)

ベントレー コンチネンタルGTスピード 公式サイト

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