2012年3月22日、アウディR8 GTスパイダーの発表会と同時に、アウディのカスタマーレーシング、すなわちモータースポーツユーザー向けのGT3カテゴリーのR8 LMS(2012年仕様)の説明が行われた。プレゼンターは、日本におけるR8 LMSのアウディ側メンテナンス/サービスを担当するノバ・エンジニアリングの森脇基恭氏である。アウディのカスタマーレーシングは、2011年以来、世界各地のGT3レースユーザー向けにR8 LMSを開発、販売すると同時に、技術サポートを行うというコンセプトである。
R8 LMSはニュルブルクリンク24時間レースで実戦開発を行い、GT3マシンとして世界各国に40台以上を販売し、それぞれがレース活動を行っている。マシンの開発・製造と本社側での技術サポートはドイツ・ネッカーズルムのモータースポーツ部門が担当し、現場サービスはクワトロ社が行う。したがってR8 LMSはレーシングカーであるにもかかわらず、市販乗用車のように技術サービスや部品供給を受けることができ、プライベートチームでも安心してレースに参戦できる形になっているのだ。
地域別のサポートセンターは、ヨーロッパ以外では、オーストラリア、中国、北米、日本に置かれ、これらの地域センターが部品手配や技術サポート窓口になる。もっともサーキットの現場で、難易度が高い故障などに関しては、現場からオンラインでネッカーズルムの技術担当者に直接接続でき、本国からリモート操作もできるようになっているという。
このR8 LMSの2012年仕様には「R8 LMS ultra」という名称が付けられている。2011年仕様との違いは、アルミ製ドアから樹脂+カーボン製ドアへの変更、ポリカーボネート・ウインドウガラスの採用などにより、1290kgから1250kgへと軽量化されている点などがある。それ以外では排気管への触媒装備、フロントタイヤのワイド化、それに伴うダンパー位置の変更、フロントブレーキの冷却ダクト、室内用冷風ダクトの改良、リヤのエアインテークの拡幅、カーボン製バケットシートの軽量化と高剛性化、フロントスポイラー、リヤウイングの空力性能向上などに細部の改良が加えられている。
これまで日本では、R8 LMSはスーパー耐久レースに参戦していたが、2012年からはスーパーGT選手権のGT300クラスに参戦する。これは、スーパーGTが従来の日本独自のJAF-GT規則からFIA-GT規則にシフトし、GT3マシンが参戦できるようになったため、4台のR8 LMSがスーパーGT選手権GT300クラスに参戦可能となったのだ。
このうち昨年からスーパー耐久レースに参戦していたヒトツヤマ・レーシングは、2台の2011年仕様で参戦する。ただし、シーズン途中から2012年用アップグレードキットを装備するとしている。同チームの20号車は小林賢二/フランク・ユー/マイケル・キム/野田英樹選手、21号車がシンディ・アレマン/都筑晶裕選手。そして2102年仕様のultraで参戦するのが11号車(GAINERチーム)の田中哲也/平中克幸選手、30号車(aprチーム)は岩崎祐貴/坂本雄也選手だ。
↑30号車のGAINERチーム車 ↑シンディ・アレマン選手(ヒトツヤマレーシング)
なお、ヒトツヤマ・レーシングの21号車に乗るシンディ・アレマンは、GTドライバーとしては1998年の佐藤久実選手以来の女性ドライバーで、スイス人。F3、GT1の実戦経験も豊富で、DTMのテストドライバーも担当するなどの実力派だ。
2012年スーパーGT選手権のGT300クラスは、フェラーリ、ポルシェ、ランボルギーニ、などのスーパーカー軍団に加え、スバルBRZ(JAF-GT規格)、日産GT-R(FIA-GT3、GT300クラス)など話題のマシンも参戦。多くのヨーロッパ製FIA-GT3マシンが参戦するため、実力拮抗し、激戦の気配だ。R8 LMS ultraにとっても楽な戦いではないと予想される。