【アウディ】再生可能エネルギーを自力生産する「e-Gas」精製工場が操業開始

雑誌に載らない話vol74

A3 Sportback g-tronにガスを充填するハインツ・ホラーウェガー氏

CO2フリーのメタンガス精製工場がこのほど完成し、アウディは再生可能エネルギーを自力で生産する世界初の自動車メーカーとなった。アウディは2013年3月に開催されたジュネーブショーで、既報のように「A3 スポーツバックg-tron」を発表した。このクルマはグリーン電力(風力発電)を利用して水素を生産し、CO2と合成することで天然ガスと同等のメタンガスを生成する新技術で、生成されたメタンガスを利用することで、CO2フリーのクルマとなる。

ニーダーザクセン州ヴェルルテで操業を開始したアウディ「e-gas」工場

2013年6月25日、アウディはニーダーザクセン州ヴェルルテに建設していた「Audi e-gas工場」が完成し、操業を開始したと発表した。この新工場ではグリーン電力(風力発電による電力)、水、CO2使用して、水素と化学合成メタンガス“Audi e-gas”を精製する。

工場完成式典ではアウディの自動車生産部門の責任者、ハインツ・ホラーウェガー氏が「アウディは本日、未来のモビリティに貢献する偉大なる一歩を踏み出しました。アウディは環境保護に向けた革新的な技術を本格運用する世界で初めての自動車メーカーとなり、化学合成技術の研究を重ねて環境に優しい燃料を生産することが、我々が推し進めるe-fuel 戦略の中核となっています」と語った。

再生可能製品開発部門の責任者、レイナー・マンゴールドが「このヴェルルテの地に建設した power-to-gas 生産設備は、我々が進めるエネルギー革命の指標であり、これまでの常識による限界点を遥かに凌ぐレベルに到達しました」と述べた。また式典に出席したドイツ連邦政府・環境、自然保護、原子力安全担当大臣のピーター・アルトマイヤー氏から祝辞が述べられた。

第1段階ではグリーン電力で水を電気分解し、水素と酸素を生成する

工場でのプロセスの第1段階は、グリーン電力により水の電気分解を行ない、酸素と水素に分離。ここで得られた水素は水素自動車に使用される。しかし水素自動車の普及は未だ実用・普及段階に達していないので、この過程で精製された水素の一部は次のプロセスでメタンガスに再精製される。つまり水素はCO2と合成され、「Audi e-gas」(化学合成メタンガス)に精製されるのだ。こうして生産されたAudi e-gasは、化石燃料である天然ガスと成分がまったく同じため、ドイツ国内に巡らされた既存の天然ガス供給ネットワークを経由してCNGガスステーションに搬送される。この供給は2013年秋から開始される予定だ。水素にCO2を加えて反応させることで合成メタンガスを生成する。

第2段階で水素にCO2を加えて反応させることで合成メタンガスを生成

この精製工場では年間約1000tのe-gas精製に対し約2800tのCO2を使用する。このCO2の量は22万4000本のブナの木が年間かけて吸収するCO2量に相当し、生産工程で生み出される副産物は水と酸素だけなのだ。

「Audi e-gas」精製工場はドイツのエネルギー会社が所有する4100m2の敷地に、工場建設のスペシャリストETOGAS社とプロジェクトパートナーのMT-BioMethan社との共同事業として建設された。完成した工場は、エネルギー消費を最少に抑えることが最優先され「Audi e-gas」精製過程で発生する廃熱は、隣接するバイオガス工場で再利用され全体でのエネルギー消費を抑える。その一方、バイオガス工場からは同工場が排出する高濃度CO2が、「Audi e-gas」精製に必要な原料として供給されるのだ。

ヴェルルテ工場が年間に生み出す「Audi e-gas」 は1500台の「A3 Sportback g-tron」に1万5000kmのCO2ニュートラル走行を可能にさせることができる。「A3 Sportback g-tron」は、天然ガス、バイオメタンガス、Audi e-gas (化学合成メタンガス)、ガソリンを燃料にすることが可能で、これらを組み合わせた最大航続可能距離は1300km。

e-gas(合成メタンガス)の生産と消費の概念図

今秋に発売される「A3 Sportback g-tron」を購入したユーザーは、車輌購入時にAudi e-gas の事前購入をすることができる。つまり、エネルギー精製コストの一部を事前に負担することで、Audi e-gas工場がCNGガスステーションを通じて構築する新しいエネルギーネットワークに参加できるわけだ。

A3 Sportback g-tronのAudi e-gas による平均燃費は、ガソリンとの混合利用で28.57km/g(3.5kg/100km)以下となり、CO2 排出量はNEDC基準値で95g/km 以下となる。走行時に排出されるCO2 のすべてが、事前のe-gas精製時に使用されていることから、Audi e-gasでの走行時にはCO2 ニュートラルとカウントされるのだ。e-gas 精製工場で使用されるエネルギーに風力発電で得られる電力が使われることを考慮すると 「A3 Sportback g-tron」による総合的なCO2 排出量は20g/km以下となる。

このプロジェクトはこれまでの自動車産業の常識を打破し、グリーン電力を効率よくメタンガスに転換し、それをドイツ最大の公共エネルギー備蓄システムである天然ガスネットワークに供給することで、従来は非常に難しいと考えられていた大量の電力備蓄が可能になったことを意味する。社会のエネルギー基盤の課題をブレークスルーするという大きな意義を持つプロジェクトともいえる。

アウディ公式サイト

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