BセグメントのプレミアムコンパクトカーのアウディA1シリーズにSモデルが追加され、2014年11月5日から発売が開始。試乗レポートをお送りしよう。
◆ポジショニング
ご存知のようにアウディA1シリーズは、プレミアムコンパクトカーに位置し、BMW MINIが切り開いた市場である。しかし、ユーザー層の違いから直接ライバルとは言いがたく、それぞれ独自の市場を持っている。アウディは、そのプレミアムコンパクト市場にさらなるスポーツモデルであるSモデルを追加し、よりこだわりのあるブランドとして位置付けられている。ボディサイズは全長3990mm×全幅1740mm×全高1425mm(1440mm)、ホイールベースは2465mmとBセグメントサイズである。*( )内はスポーツバック
アウディには各モデルのスポーツモデルとしてSモデルが存在し、そのラインアップに沿って、A1シリーズにもSモデルを設定したわけだ。つまりSモデルのエントリーモデルということになる。そして、S1/S1Sportbackは6マニュアルトランスミッションに特化したモデルで、フルタイム4WDである「クワトロ」となっているのも特徴だ。
ちなみにアウディにMTが復活するのは2010年のTT RSが最後となるので、久しぶりのMT搭載である。Sトロニック(DSG)を搭載しない理由として、フロント重量が重くなりすぎ、バランスが悪くなるため(アウディジャパン商品企画:田代氏)で、将来的にもこのボディタイプでは搭載しないと説明している。
A1との違いではまず、搭載するパワーユニットが異なる。エンジンは2.0L+ターボで231ps/370Nmという出力を持つTFSIエンジンで、これはBMW328iに搭載する2.0L+ターボモデルとほぼ同等の出力であり、コンパクトなボディである分、パワー/ウエイトレシオはよりスポーティになる。そして、サスペンションも2段階の可変ダンパーを装着し、ドライブセレクトを備えている。また、エンジンサウンドにもS専用のマフラーとチューニングが施されている。
エクステリアでもSモデルのアイコン的存在のアルミルックのシルバーのサイドミラーやサイドスポイラーを装備。ヘッドランプもバイキセノンにLEDのポジションランプで、ヘッドライトデザインも水平基調なデザインへと変更している。リヤテールレンズもSモデル専用デザインとなっていて、ひと目でSモデルと分かるルックスをしている。なお、カラー展開は全8色で、その中でベガスイエローとデイトナグレーはS1専用カラーとなっている。
インテリアでは、ステンレスのA、B、Cペダル、エアベントやスオーツステアリング、それにスポーツシートがSモデル専用装備される。オプションではファインナッパレザーもチョイスできる。
◆S1専用エンジン&シャシー
2.0TFSIエンジンはポート噴射とダイレクト噴射を使い分ける混合噴射式で、デンソーのデュアル噴射システムと同じで、オンデマンド式ではなく切り替え式噴射だ。アイドリング、高負荷領域では、FSI、つまりダイレクト噴射で燃焼室に直接噴霧。最大200barの圧力で噴かれる。そして低中負荷域ではMPI、マルチポイントインジェクションで、低圧(3~5bar)でインテークマニホールド内に噴射される。パフォーマンスは前述のように231ps/370Nmで0-100km/h加速は5.8秒というスピードを持つ。
このエンジンは先代A6の2.8FSIに初搭載したもので、エンジンマネージメントシステムとして吸気バルブはAVS(アウディバルブシステム)を備え、リフト量を2段階で調整しタンブルとスワールの最適化が行なわれている。そしてサーマルマネージメントとして、エキゾーストマニホールド一体型シリンダーヘッドはクーラントを循環させる水冷式で、排気温度を下げ、またコールドスタート時の温度上昇を早めている。また、ターボチャージャーは1.4barの過給圧で、低速からブーストがかかり1600rpmでマックスストルクの370Nm を絞り出す。ちなみにアイドリングストップも装備されている。
ドライブモードセレクトは3つのモードがあり、効率(エコ)、オート、ダイナミックの3種類。可変箇所としてステアリング特性、エンジン特性。ダンパー減衰は油圧式で2段階に変化する。そしてエンジンサウンドはダイナミックのときにサウンドアクチュエーターにより音の増幅を図り、さらにウインドウスクリーンをかすかに揺らして増幅させる機能も装備している。そしてリヤ左側マフラーにはフラップも付いていて、サウンド効果を高める。
シャシーではリヤのサスペンションがA1はトーションビームだが、S1ではマルチリンクに変更されている。フロントはピボットベアリングの最適化として全体をA1より25mm下げている。また、電動パワーステアリングは、A1は電動アシストの油圧式であったものを、電動機械式に変更し1.8kgの軽量化もしている。これはコンフォート性能、つまり油圧式のノイズ低減目的で機械式にしたという説明だ。ステアリングギヤ比もA1の16.2:1に対してS1では14.8:1へとクイックになっている。
そしてクワトロシステムでは電子制御式油圧多板クラッチにより、四輪を制御。フロント100:0から50:50までトルク配分は可変する。コーナーではイン側にわずかにブレーキを掛け、旋回性を高めるブレーキトルクベクタリングも装備する。
◆インプレッション
ドライバーズシートに座ると感じるプレミアムモデルであることの実感がある。コンパクトカーだからという安っぽさは微塵もなく、シートサイズもしっかりあり座面長が短かったりシートバックが狭かったりするお粗末さはない。C、Dセグメントのプレミアムモデルと同様の高級感が感じられるのはさすがだ。
メーターはオーソドックスに2眼式で左がタコメーターで右が速度計。中央には液晶でさまざまなインフォメーションが表示されるようになっている。重要な情報は概ね分かり易い表示になっているが、重要度の低いものは細かく表示する工夫もある。
シフトレバーの前にあるドライブモードセレクトとその横にあるESCのオフスイッチで、ESCはオフにしても100%解除されず、最終的にはESCが介入する設定だという。アウディの安全に対するポリシーなのだろう。
シフトはストロークも程よく、手首の返しでスパッと入る気持ちよさがある。クラッチも半クラッチの分かりやすさがあり運転しやすい。クラッチペダルも重くなくちょうどいい。
ハンドリングは言うまでもなく、正確な動きで期待通りに反応を示し、コーナリング中のどのタイミングからでもアクセルを開けることができるニュートラルなジオメトリーになっている。4WDのネガな要素、アンダーステア傾向は歴史的にはあったという記憶の彼方だ。
18インチタイヤはこのサイズのクルマには大径だと思うが、乗り心地も悪くなくスポーティに仕上がっている。A1がデビューした当時、オプションの18インチタイヤは履きこなすまでには、感じられず16インチあたりがベストチョイスだろうと思ったこともあったが、S1では18インチをマッチさせている。
大径のホイールはブレーキにも余裕を与えフロントは310mmのベンチレーテッドディスク、リヤは272mmサイズのディスクブレーキを装備している。強力な加速力をこの大径ブレーキが止めるので、安心感も高い。前のめりになる止まり方ではなく、沈むような動きも感じさせるので、フィール的には申し分ない。
エンジン音はドライブモードのオートで乗る限り、静かでやかましいことはない。逆にこれくらいの音で、軽快に走りまわるほうがSモデルらしくスマートに見えるのではないか。アウディS1の乗り味は全体的にしっとりとしたプレミアムモデルらしいしなやかと上質感がありながら、アクセルを踏み込めばやんちゃな走りもできるモデルであった。
価格はS1が410万円、S1スポーツバックが430万円で、アウディジャパンとしては戦略的な価格設定だと説明している。直接ライバルではないがBMW MINIペースマンのジョンクーパーワークスは470万円となっている。<髙橋明/Akira Takahashi>