アウディ本社は、4月18日〜27日に開催されている上海モーターショー2023において、中国で初めてF1プロジェクトを発表した。アウディ・ローンチカラーに塗装されたF1ショーカーを展示し、アウディのマルクス ドゥスマンCEOは、記者会見でプロジェクトの現在の進捗状況について説明した。
アウディは2026年から、モータースポーツ最高峰のレースであるFIA F1世界選手権にファクトリーチームとして参戦する準備を進めていることは既報のとおりだ。参戦に当たって「F1 Power made in Germany」をスローガンに掲げ、ドイツで開発したパワーユニットを搭載したマシンの開発が進められている。
マルクス ドゥスマンCEOのコメント
「モータースポーツは、私たちのDNAの不可欠な部分です。私たちのF1への取り組みにより、アウディのモータースポーツへのフォーカスが強化されると確信しています。F1の人気は世界的に高まっており、特に若いターゲットグループと、最も重要な市場である中国において顕著です。上海インターナショナルサーキットで開催予定であった中国グランプリは、新型コロナウイルスのパンデミックの影響により4回連続で開催することができませんでした。そのため、最高峰クラスのモータースポーツに対するアウディの将来的な取り組みを事前に示すことは、中国のF1ファンの方々にとって、より大きな喜びとなります」
技術開発担当のオリバー ホフマン取締役のコメント
「アウディのF1プロジェクトは、ここ数か月で本格的に始動しました。現在、パワーユニットのコンセプト策定を進めており、2026年に投入するドライブトレインの基礎を築いています。また、素材や製造技術などの詳細な作業を重視し、ハイブリッド・ドライブトレインのエネルギーマネージメントなどにも焦点を当てています。最終的に、効率はF1と未来のモビリティにとって重要な成功要素であり、これらのアプローチは、サーキットと公道の両方の世界における開発を前進させることになるでしょう」
これまでに、2022年末から単気筒エンジンによる基礎テストが開始され、F1用エンジン開発におけるテストベンチのセットアップと測定機器の検証のための貴重なデータを集積している。内燃エンジン、電気モーター、バッテリー、電子制御ユニットで構成される最初のフルハイブリッド・ドライブトレインユニットは、年末までにベンチテストが行なわれる予定で、これによって将来の車両コンセプトの基礎が形成される。さらに、ノイブルクのダイナミック開発シミュレーターはF1を基準にレベルアップされ、アウディ製パワーユニットの開発がさらに推進されることになる。
その一方で、アウディがF1に参戦するために設立したAudi Formula Racing GmbHの傘下にあるノイブルク・アン・デア・ドナウの拠点では、チームの強化が本格的に進められている。このチームには、既に260人以上のスペシャリストが参加している。開発チームの中核は、電気自動車によるモータースポーツ参戦で長年にわたる多様な専門知識を持つ、経験豊富なアウディスポーツとアウディの従業員によって構成されている。さらに、社外からもF1の専門知識を持つスペシャリストが参加し、ターゲットを絞った方法でチームを強化している。年末までにすべてのスタッフの採用を終える必要があり、最終的にチームは300人以上の従業員で構成される予定だという。
同時に、ノイブルクのモータースポーツ開発センターは、F1プロジェクトのために拡張される。今年の後半から、パワーユニット開発用の試験装置を増設し、延床面積約3000㎡の新社屋を建設。この新社屋では、モジュラー設計により、2024年初めに建物が完全に完成する前であっても、最先端の試験装置を稼働させることができるのが特長だ。
ノイブルクにおける電気と熱の供給は、すでにCO2ニュートラルを達成している。この施設には、産業廃熱からの地域暖房と、水力発電所からのグリーン電力が供給されているのだ。国際自動車連盟(FIA)は、この施設に3つ星の環境認証を授与した。これは、環境保全と持続可能性に対する最高の評価である。アウディの目標は、ノイブルクのF1プロジェクトにCO2ニュートラルなエネルギーを提供し、施設における再生可能エネルギーの供給システムを確立することだ。
最高峰のモータースポーツでは、持続可能性と高効率さが重要な役割を果たす。2026年から適用されるレギュレーションでは、電動化により大きな焦点が当てられており、電動ドライブトレイン(MGU-K)は内燃エンジンとほぼ同じパワーを発生できるようになる。非常に高い効率を誇る1.6Lのターボエンジンは、持続可能な合成燃料が使用される。F1は、その熾烈な戦いにより、eモビリティと持続可能なe-フュエルの両方のテクノロジーを加速させることになる。そして、F1は2030年までにレースシリーズとしてカーボンニュートラルとするという目標を掲げている。
2022年8月末に正式に発表されたアウディのF1への参戦では、いわゆる「コストキャップ」と呼ばれる予算制限規則が適用され、持続可能性とコスト効率を重視することが重要な要素となっている。アウディは、2026年からF1にアウディ・ファクトリーチームとして参戦するための戦略的パートナーとして、経験豊富なスイスのレーシングチームであるザウバーを選択し、マシンの開発・熟成を進めていくことになる。