アウディ 新しいCO2フリーの合成燃料「e-ガソリン」のテストが進行中 合成ディーゼル燃料もまもなく実現する

雑誌に載らない話vol224
2018年3月12日、アウディは、これまでのe-ガスの研究開発、実証実験に続き、「e-ガソリン(e-benzin)、e-ディーゼル燃料の可能性を確信し、これらe-フュエル戦略を積極的に推進している。今回は、合成ガソリン「e-ガソリン」のパイロット・プラントの稼働の現状を公表した。

アウディ e-ガソリン パイロットプラント
e-ガソリンを製造するパイロット・プラント

風力発電された電気で水素を製造し、CO2と化合させてメタンガスを製造し、天然ガス/メタンガスを燃料とするCO2排出ゼロのエンジン車を走らせるコンセプト、「e-ガス」については以下の記事にて既報だ。
参考記事 : アウディ 再生可能エネルギーを自力生産する「e-Gas」精製工場が操業開始

今回は、合成ガスではなく合成燃料のe-ガソリンについてもアウディは重要な中間目標を達成したとことが発表された。アウディは、開発パートナー各社と共同で、最初のエンジンテストを実施するために十分な量のe-ガソリンを生産しましたという。もちろんこの合成ガソリンは、再生可能エネルギーによって生成されているためCO2フリーだ。

ドイツのロイナ(ザクセン・アンハルト州)にあるグローバル・バイオエナジー社と共同で、過去最高となる60Lのe-ガソリンを生産することに成功した。

アウディのサステナブル・プロダクト・ディベロップメント部門責任者のライナー・マンゴールドは、「アウディが開発しているe-フュエルと同じく、この新しい燃料も数多くの利点を備えています。この燃料は原油に依存せず、既存のインフラと互換性があり、クローズド炭素サイクルを実現できます」と語る。

e-ガソリンとは液体イソオクタン(C8H18)だ。この燃料は現在、バイオマスから二段階のプロセスを経て製造される。最初のステップは、グローバル・バイオエナジー社のデモプラントで、ガス状のイソブテン(C4H8)を製造。第二のステップは、ロイナにあるフラウンホーファーの化学・バイオ技術プロセスセンター(CBP)で、水素を加えることでイソブテンをイソオクタンに変換する。この合成燃料には原油から生成されるガソリンのように硫黄とベンゼンが含まれていないため、燃焼時に汚染物質が特に少ないことが特徴だ。

アウディのエンジニアは現在、テストエンジンで再生可能燃料の燃焼、エミッション特性を調査している。このe-ガソリンは、非常に優れた耐ノッキング性を備えた高純度な合成燃料であり、エンジンの圧縮比をさらに高め、効率を向上させるポテンシャルがある点も大きなメリットだ。

プロジェクトパートナー各社は、中期的な目標としてはバイオマスを必要としない生産プロセスに変更することを目指している。この場合、再生可能エネルギーから生産される十分な量のCO2と水素を、原材料として確保することになる。

アウディ e-ガス・プラント システム概要
風力発電による電力を使用して抽出する水素とCO2を化合させてメタンガスを製造するe-ガス・プラント

アウディが目指す代替燃料は、持続可能なモビリティの大きな可能性を持ち、例えばe-ガス燃料エンジンを搭載する「g-tron」モデルの場合、CO2排出量を従来の内燃エンジンと比較して最大80%削減することが可能だ。

アウディA3 g-tron
すでに発売されているA3 g-tron。ドイツ国内の充実したCNG供給網を利用できる

アウディにとって、e-フュエルは、実験室における単なる研究対象ではない。2013年以来、アウディは、再生可能な「e-ガス」を市場に提供してきている。その一部は、ドイツのヴェルルテ(エムスラント)にある「power-to-gas(電力をガスに変換する)」プラントで生産されている。

g-tronモデルを購入したユーザーは、CNGステーションで燃料を補給した場合、通常のCNG燃料代のコストを支払うだけで、ローコストだ。アウディは、そのクルマが補給したガス燃料と同じ量の「e-ガス」を公共の天然ガス網に供給することにより、グリーン燃料のメリットを確保して、その分に相当するCO2排出量の削減につなげてる。

ディーゼルエンジン用の合成燃料「e-ディーゼル」も、アウディのe-フュエル戦略のひとつとなっている。ドイツのドレスデンでは、アウディの協力パートナーであるサンファイア社が、2014年後半から2016年10月まで、合成ディーゼル燃料を生産するのためにパイロットプラントを運用した。このプラントではグリーン電力をエネルギー源として、水とCO2を原材料として使用。最終製品は「Blue Crude(ブルークルード:青色原油))という名称で、これがアウディのe-ディーゼル燃料として使用される。

アウディは現在、スイスのアーラウ(ラウフェンブルク州)で、e-ディーゼルの生産を計画している。パートナーであるイナラテックGmbH、エネルギーディンスト・ホールディングAGと共同で、新しいパイロットプラントから年間約40万Lの合成燃料「e-ディーゼル」を生産する予定だ。ここでの生産では初めて水力発電をエネルギー源として使用する。

いずれにしても、こうしたCO2フリーの合成燃料の大量生産が可能となり、現在の化石燃料に近い価格が実現できれば、クルマは既存の内燃エンジン技術が活用しながらCO2排出をほぼ無排出にでき、ゼロ・エミッションの電気自動車よりはるかにローコストで、利便性が高く、従来のゼロエミッション車技術、電動化というトレンドを転換させることができる可能性を秘めていることは注目に値する。

グローバル・バイオエナジー社 公式サイト
サンファイア社 公式サイト
アウディ 関連情報
アウディAG 公式サイト

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