マニアック評価vol422
アストンマーティン ヴァンテージSとベントレー コンチネンタルGTスピードコンバーチブルに試乗した。12気筒搭載、英国車という共通項はあるものの、クルマのキャラクターは全く異なり、それぞれの魅力を感じることができる試乗だった。<レポート:高橋 明/Akira Takahashi>
■アストンマーティン ヴァンテージS
アストンマーティン ヴァンテージSは2013年に国内導入され、エクストリームスポーツとカテゴライズされている。ボディサイズもコンパクトで全長4385mm×全幅2022mm(ミラー含む)×全高1250mm、ホイールベース2600mmとワイドではあるがコンパクトであることは伝わると思う。
スポーツカーに相応しいサイズとも言えるが、このヴァンテージSはレーシングカーの性能を公道へ持ち込むべく設計された、と当時のCEOウルリッヒ・ベッツ博士は言っており、パワフルでスパルタンであることは間違いない。さらにアストンマーティンらしく美しく仕立てられ、エレガントで野性的で、そしてエモーショナルなスポーツカーだ。



エンジンは6.0LのV型12気筒のAM28型で、573ps/620Nm、最高速は330km/h、0-100km/h加速は3.9秒というスペック。ちなみにエンジンマネージメントはボッシュが行なっている。トランスミッションはイタリアのグラツィアーノ社のトランスアクスルを搭載した7速AMTで、パドルシフトと組み合わされ、スポーツマインドを掻き立てる。

発進時、ギヤをニュートラルから1速へシフトするとガツンとショックがあり、ギヤを噛んだことが伝わる。アクセルをゆっくり踏み込むと1000rpmですでに510Nmのトルクを発揮するので、どんな状況でも力強いパワーを感じる。エンジン回転の上昇に伴って、エンジンは吠えまくり、車体を震わせるようにして加速していく。異次元の加速感と湧き上がるアドレナリンが興奮させる。
スロットルをほんの少し緩めた瞬間、パドルシフトをはじくようにシフトアップ。再び野性の咆哮とともに景色を溶かしていく。まさにレーシングカーの性能を公道で味わうことができるエクストリーム・スポーツカーだ。
ラグジュアリー・カーメーカーとも言えるアストンマーティンは、このヴァンテージSのデザインをコンパクトなボディでありながら、筋肉質なシルエットに仕上げている。大型のボンネット、大きく盛り上がったフェンダーなどは高いスポーツ性であることが伝わってくる。
インテリアではリヤウインドウ左右にはボディパーツの部材が室内を貫通しており、まさにレーシングカーライクな処理をしている。ギヤセレクターはプッシュボタン式をセンタークラスターに埋め込み、コクピットまわりはシンプルだ。





2眼式メーターの左側が速度計で、国産車で100km/h付近の針の位置は240km/hを指し、走り出す前からドキドキさせる。右側のタコメーターは逆時計回転し、その針を頂上までに振り上げることを想像するだけで溢れるパワーが体内に染み込んでくる。
市街地での乗り心地は意外にも普通に乗れる。アダプティブ・ダンピングシステムはノーマル、スポーツ、トラックの3ステージあり、もちろんスポーツ走行するためのツールではあるが、どのモードでも問題ない。レーシングカーの性能を持ちつつ、市街地でも普通に乗れるサスペンションにチューニングがされていることも特筆に値するだろう。
■ベントレー・コンチネンタルGTスピードコンバーチブル
こちらは2016年モデルでエクステリアやインテリアにおいてグラフィックの変更、フロントフェンダー、フロント&リヤバンパー、フェンダーベントなどが新デザインへとなっているモデルだ。
搭載するエンジンは6.0LのW型12気筒ツインターボで、635ps/820Nmという超弩級のスペック。最高速は327km/h、0-100km/h加速は4.4秒だ。トランスミッションはZF製の8速ATを採用している。ちなみに最高速では2015年11月にオーストラリアで331km/hを記録したニュースがあったが、公式データとしては上記の速度となっている。

ボディサイズは全長4820mm×全幅1945mm×全高1390mm、ホイールベースは2745mmとフルサイズのボディを持っている。コンチネンタルGTスピードにはクーペとコンバーチブルがあり、過去クーペモデルは試乗しているものの、今回のコンバーチブルは初めての試乗だ。



ベントレーは言わずと知れたラグジュアリーカーの代名詞でもあり、ロールス・ロイスと並んで究極のビスポークカーとも言えるだろう。多くの部分でハンドクラフトされ、本物の天然素材、上質な金属を使って熟練職人の丹精込めた匠の技が散りばめられている。
ルーフトップはクーペモデルがあるので、キャンバスルーフを採用している。電動開閉を何度か試し、オープンにして走り出す。開け放たれたキャビンを眺めると、息を飲むほどにボディシルエットが際立つ。そしてインテリアの美しさに魅了される。



ドライバーズシートに座り、晴天の空を仰ぎコンバーチブルを堪能する。ギヤセレクターでDを選び、動き出すとW12気筒独特の野獣が喉を鳴らすような音をたてながらしずしずと動く。市街地で回転計の針が跳ね上がるようなことは皆無で、ずっと野獣を抑えつけているという心境になる。


高速に入ったとしても日本の道路では同様であり、持てるポテンシャルを味わうことはできないが、その野獣を控えさせている満足感があることも否めない。100km/h巡航しても風は心地よく頭上を流れ、オープンエアを楽しむ余裕がある。
キャンバストップをクローズにしてみる。ボタン一つで密室へと変化させることなどお茶の子さいさい。ハードトップか?と思わせるほどの静けさに変化し、外界との隔壁を簡単に創り出す。なめらかに、そしてしっとりとした乗り味は静けさにより際立ち、ラウンジのごとくゆったりとした空気に変わる。だが、喉を鳴らす声はまだ聞こえてくる。
一気に獲物に飛びかかるように咆哮へと変わるときは、この国の制限速度を超えてしまう。だからふたたび、抑えつけ手の内に収める理性を強める。
ベントレーの魅力はこうしたハイパワーなパワーユニットとゴージャスなインテリア、醸し出す高級感、そして走っているときのオーナーとしての満足度の高さにあるのだろう。ドイツプレミアムモデルが周囲にいたとしても、おもねることなくアクセルを踏みベントレーが持つ鷹揚さと工業製品としての繊細さを全身で浴びられる歓びに堪能した試乗だった。