マニアック評価vol579
アルファロメオのファンなら1960年〜70年代に販売されたベルトーネ・デザインの名車、ジュリアの名前を知っているはずだ。この時代のジュリアはボクシーなセダン・スタイルで、合理的なパッケージングとスポーティでドライビング・プレジャーでアルファロメオの名を高めた。<レポート:松本晴比古/Hatuhiko Matsumoto>
■ブランドの再定義
新型ジュリアは2015年に発表され、2016年ヨーロッパで販売が開始された。この新型タイプ952は途絶えていた初代ジュリアの再出発というだけではなく、アルファロメオというブランドを再定義する役割が求められている。FCA(フィアット・クライスラー・オートモビル)は、アルファロメオをマセラティのE/Fセグメントのラグジュアリー・ブランドに接するDセグメントのポジションに上位移行させ、グローバルに、特にアメリカ市場、中国市場での存在感を高める役割を担っているのだ。
もちろん、アルファロメオのDNAである官能的なドライビング・フィール、上質なクルマの造り込み、合理的なパッケージングなどの核心はきっちり守られている。そしてこの新しいジュリアは新たに開発されたFRプラットフォーム(コードネーム:ジョルジオ)を採用している。そしてフロントがダブルウイッシュボーン、リヤがマルチリンク、日立製カーボンファイバー・プロペラシャフト、アルミ材の多用などブランドに相応しい革新的なクルマ造りが行なわれているのだ。
この新世代ジュリアのフラッグシップがクアドリフォリオ(四葉のクローバー)だ。四葉のクローバーの名称を付けたからには単なるフル装備モデルではなく、アルファロメオの走りを象徴する特別なモデルといえる。
ジュリアは2.0L 4気筒200psのベースモデルが446万円、ジュリア スーパーが543万円、同じ2.0L 4気筒280ps/4WDのジュリア・ベローチェが597万円だが、クアドリフォリオは1132万円と価格的にも別格で、BMW M3、アウディ RS4、メルセデス・ベンツ C63 AMGなどに比肩する存在だ。
だから、搭載するテクノロジーも最新版で、装備も充実し、インテリアの上質な作りなど、価格にふさわしいクルマに仕上げられている。そしてクアドリフォリオならではの高揚感を高める熱さがプラスアルファとして加わっている点が一味も二味も違うところだ。
この注目のアルファロメオ クアドリフォリオに試乗できる機会が巡ってきた。
■ハイパフォーマンスと官能性を両立したV6エンジン
クアドリフォリオの持つ魅力のハイライトは、やはりこのエンジンだ。2891cc、ボア×ストロークは86.5mm×82.0mm、圧縮比9.3のV型6気筒直噴ツインターボ・エンジンは510ps/600Nmという高出力で、しかも最大トルクは2550rpmで発生する。
この新型エンジンは、フェラーリのエンジニアにより開発されており、フェラーリの血統を受け継いでいる。実はフェラーリの最新シリーズに搭載される3.9Lの90度V8ターボのボア・ストロークは86.5mm×82.0mmと共通で、実質的にグループ内でモジュラー・エンジンのV6版であることがわかる。
しかし、このエンジンはハイパワーエンジンというだけではない、低負荷時に作動する気筒休止システム、アイドリングストップも採用するなどきわめて現代的なスペックだ。
出力、シャシーの統合コントロールのために「DNAプロ」が装備され、センターコンソール上のダイヤルで、ダイナミック(D)、ノーマル(N)、アドバンスド・エフィシェンシー(A:エコモード)と、ダイヤル中央のボタンを押すことでレース・モードになり、これらのモードはセンターディスプレイにも表示される。
モードを選ぶことで、出力、レスポンス、そしてステアリングやZF製CDCダンパーの減衰力、排気サウンド、リヤデフのLSD効果やトルクベクタリングの効きが走り最優先モードに変更される。
Dを選ぶと、スポーツサウンドとともにシートに体が押し付けられる強烈な加速が味わえ、Rモードではさらに大きな排気サウンドとハイブーストの強烈なトルクが生み出される。ちなみにRモードではESCやドライバー支援システムもすべて強制的にオフになる、スポーツドライビング専用のアグレッシブなモードだ。
さすがに市街地でDやRモードを選ぶのは無謀で、市街地ならAモード、郊外の道路でNモードを選べば十分にトルク感のある気持ち良い走りが堪能できる。0-100km/h加速は3.9秒、最高速307km/h、ニュルブルクリンク北コースを7分32秒で走る強烈なスペックと日常での扱いやすさは違和感なく両立されている。
鋭いエンジンレスポンスで、アクセルの踏み込みとトルクの発生が寸分の遅れもない一体感、そして野太い、迫力のあるエンジンサウンドなど、このクアドリフォリオの価値の半分はこのエンジンにあるといっても過言ではない。
このエンジンに組み合わされるトランスミッションはZF製の8速ATだが、パドルによるクイックな変速はDCTとほとんど同じようなフィーリングで、Rモードを選ぶと変速時間も最小化される。変速ショックも感じられるようになるが、これもダイレクトな変速を感じさせる演出だ。
■豹変するハンドリング
ハンドリングは、通常の領域では操舵力も軽く滑らかで、あっけないほど普通のフィーリングだが、車速が60km/hを超えると操舵力が重めになり、切れ味が増してくる。特にDモード、Rモードにするとステアリングの切れ味が一段と鋭くなる。ボディ剛性の高さ、フロントの慣性マスの小ささも効果的で、ステアリングの効き、回頭の早さはスポーツセダンのカテゴリーを超え、もはやミッドシップ的な動きだ。
このクアドリフォリオのクイックな動きには、最初は戸惑う。しかし神経質すぎず、タイヤのグリップ感、安定感が高いので次第にドライバーがこの動きに馴染む。このカミソリのような切れ味に慣れるとリアルスポーツ・ドライビングの気持ちよさが心地よく感じるようになると思うし、これこそが他にはないクアドリフォリオの味なのだ。
ジュリアは、ボディパネルもアルミ製、サスペンションやサブフレームをアルミ材とするなど軽量化され、さらにクアドリフォリオはボンネット、ルーフはカーボン製と、より軽量なボディだ。また、大径ブレーキ、フロント245/35ZR19、リヤ285/30ZR19という太いサイズのピレリ PZEROコルサ・タイヤなど、見て、触るだけでもマニアをうっとりさせる。
また乗り心地も特筆すべきだろう。Rモードを選んでも道路の舗装の継ぎ目や段差でサスペンションが硬い割にショックが刺々しくなく、それ以外のモードでもしなやかで滑らかな乗り心地で、荒々しさを感じさせないようになっているのだ。
インテリアはカーボンパネルやバックスキンを多用したスポーツカー的なデザインだが、上質な作り込みがされ、カーボン骨格に上質な本革とアルカンターラを使用したシートもピタッと体に馴染む。
1000万円を超えるハイエンドのDセグメント・スポーツセダンであるジュリア クアドリフォリオは、ライバルとは違うマニアックな味付けで、その意味で唯一無二の存在であり、マニアの心に強く訴えかける力を持った超高性能モデルである。