バスの話・続編 政府はバッテリーEV路線バスを導入しないのだろうか

クルマと過ごす日々 vol.25

次世代エネルギーとして燃料電池開発は進められていて、すでに乗用にはトヨタからMIRAI、ホンダからはクラリティが、そして東京都の都バスにFCVが2台導入されています。

クルマと過ごす日々 vol.25 FCVバス
ビッグサイトと東京駅の間で運行されているFCVバス

ご存知のように、水素を使って発電しその電力で走るEV車ですが、賢いことこの上ないものであることは間違いないんですけど、実際に社会で普及させようとすると、いくつかのハードルが出てくるわけです。そのハードルが高いとされているのがインフラですね。つまりガソリンスタンドの代わりとなる水素ステーション。

燃料電池車は日本だけが開発しているわけではなく、北米でも欧州でも自動車メーカーを中心に進めらている技術ですが、まぁ、いろんな制約もあり、おいそれとは簡単にいかないわけです。そして、ここにきて、噂では、欧州の燃料電池離れが多くなっているという話を耳にしました。

国内では内閣府が推し進めるSIPで燃料電池開発には、国からの補助金が出てトヨタ、ニッサン、ホンダが自動車メーカーとしては手をあげ、補助金を受け取って開発に取り組んでいるわけです。また、2020年のオリンピックの時にはFCVバスを100台走らせる予定だと国は言っているわけですが、FCVバスは1台1億円します。通常のディーゼル搭載した都バスだと1台2500万円くらい。

クルマと過ごす日々 vol.25 イワタニ水素ステーション
水素ステーションの普及は進まない

そして路線バスなのに、水素充填のために街中にある水素スタンドまで行かなければ、燃料となる水素が充填できないという現実があります。その水素充填も圧縮する必要があり、圧縮するために電力も使っているという点も課題です。
欧州でも全く同じ問題が起きており、自動車メーカー、バス、トラックメーカーがFCVを開発していましたが、ほぼ、メルセデスを除き、開発をやめてしまったというのです。

というのは、FCVやBEVの普及は、欧州では乗用車というより、インフラとしての公共交通機関やロジスティックのほうが先に進んでいて、EUの多くの国の路線バスはBEVに移行し始めているからです。

クルマと過ごす日々 vol.25 ボッシュ 先行開発研究施設
2017年6月に取材したドイツ・ボッシュの先行開発研究施設

大都市の路線バスの航続距離は100kmもあれば十分で、折り返す場所で急速充電すればよいという理由から、小さいバッテリーサイズ、充電もバスの車庫で可能だから普及しやすいと。さらに、欧州では、高電圧充電技術も進んでいて、650Vもの高電圧でバン!と瞬間的に電気を入れる技術も開発されています。これほどの高電圧であれば、バス停に停車している十数秒でも数%の充電が可能らしく、さらにバスの天井部分からの非接触充電が製品化され始めているそうです。

クルマと過ごす日々 vol.25 ボッシュ 非接触充電 350V
取材した2017年6月の時点で350Vの非接触充電だった

すると、路線バスには大容量バッテリーは不要となり、BEVの問題とされる電池価格もそれほど高価にならず開発できるというわけです。電気のインフラは先進国であれば、どの国も整備されているわけで、まだ、越えなければならない壁はあるものの、FCVに比べれば相当ハードルは低いということになる、ということからBEVへ加速しているわけです。

クルマと過ごす日々 vol.25 ボッシュ 非接触充電式EV

実際に中国のBYDは年間2万台ものBEVバスを生産していて、欧州へ販売しています。名物のロンドンバスもBYD製にシフトしているそうです。通常バスの販売先は限られているので、大量生産はビジネス的に不可能なわけで、日本に導入する場合、いくらするのかは不明ですが、1億円とかしないのは想像できます。BYDはその量産効果で価格も安いという話も聞きます。

クルマと過ごす日々 vol.25 ロンドンを走る中国BYDのBEVバス
ロンドン市内を走るBYDのBEVバス

つまり、東京都に置き換えると、FCVの都バスは1台1億円で、税金で購入するわけですけど、車両価格、インフラを考慮するとインフラとしての公共の乗り物はBEVがベターではないか?というのが欧州の今とはズレていると思うのです。

4月19日の読売新聞には経産省主導で自動車メーカーを集め、今後のEV化について検討した、と出ていましたが、国が主導しなければ・・・という意見も出ていたと記事に書かれてました。つまり、民間企業へはBEVもFCVも次世代に向けた技術を開発しなさい、でもFCV開発には補助金出しますが、BEVには補助金ありません、と。

そして4月20日の同じ読売新聞ですが、トヨタが北米で水素ステーションの建設に協力していく記事が出ていました。そうFCVはアメリカではGMが積極的にやってます。ペンタゴンへ大型FCV輸送用プラットフォームを納品したというニュースは当サイトでも取り上げました。おそらく、想像ですが、軍事基地間の輸送用トラックをFCV化し、基地内に水素ステーションを建設するということをイメージし、民間用としては現在のところ、はてな?となるわけです。GMにしてみれば軍用であれ、民生であれ、顧客であることに違いはありませんからね。

そして、ドイツ(メルセデス・ベンツ)、日本(トヨタ、ホンダ)、米国(GM)がFCV開発を継続していますが、噂では東京モーターショーで発表していたベンツのGLC F-CELLは、売り先が日本しかないので、売り切ったらやめるのでは、という憶測まであります。

それはそれでMBJは大変なお荷物を背負わされるわけで、きっと本国に対して拒否するのでしょうが、社命とあらば、販売せざるを得ないでしょうね。

さて、日本の経産省の方々、公共交通機関用電気インフラに予算を投入したほうがいいと思いますけど。そして内閣府のSIPですけど、FCVの代わりに予算を使う場所があると感じるわけです。燃料電池開発は今後も必要ですが、それは交通インフラにはハードルが高いわけで、日本独自の展開では自動車メーカーはビジネスとして成立しません。グローバルで戦える商品づくりを支援するのがよろしいと考えるわけです。

SIPで推し進める次世代技術への支援は、なにもクルマばかりでないので、燃料電池への補助金は継続でもいいのですが、2020年を見据えると、今やるべき予算の使い方として正しいのだろかという疑問が残ります。

電線王国の都内は電柱がそこらじゅうにあって、非接触充電や高電圧充電などの可能性を求めるのはどうか。小さい予算でかなりのエリアで電動化が可能となるように思えます。もちろん電源の問題もあり、原発、化石燃料発電の方向性も重要ですけどね。

政府は日本のEV技術が遅れるのが嫌だと言ってますが、それは、自動車メーカーから公共インフラ用の電動化がアナウンスされないことに起因しているかもしれませんね。ラスト1マイルやカーシェアリングなどもそうかもしれません。

しかし、自動車メーカーだけを眺めてみれば、日本の技術は世界の先端を走ってますから、国のリード次第ではないでしょうか。ソーラーパネルや風力なども民間企業は技術は持ってます。中国のパンダなんちゃらより力を発揮できるように国が整備を整えていく必要があると思うのでした。

COTY
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