【ここだけの話】VOL22 プジョーに関する猫足の起源、都市伝説と208 編集長のつぶやき

プジョーの企業の起源は、15世紀に遡るほど古く、19世紀末に世界で初めて自動車の量産化を目指した企業というのは案外知られていない。ダイムラーはガソリンエンジンを最初に造り上げ、ベンツは自動車という特許を取得したが、自動車を量産するという発想は、金属加工業として成功していたプジョーなどフランスの方が先だった。プジョーは最初に蒸気機関を搭載して1889年に発売。ダイムラーのガソリンエンジンは、フランスのパナール・ルバッソール(後のフランス軍用車両メーカー/ともに人名)が量産化を行い、プジョーもこれを搭載した。さらに1896年にはプジョーは自社製のガソリンエンジン車を製造し発売しているから驚く。

その当時、フランスはドイツより工業先進国で、プジョー社と競い合ったパナール・ルバッソールはFR駆動方式、フロントラジエーター、本格的なトランスミッションなどを開発して造るなど、現代のクルマの原型はフランスが発祥の地だ。

自動車レースもフランスが元祖で、世界初として有名なパリ-ルーアン・レース(1894年)で、1位でゴールしたのはド・ディオン(蒸気エンジントラクター)、2位、3位プジョー(ガソリン)、4位パナール・ルバッソール(ガソリン)だった。もっとも正式順位としてはド・ディオン車はメカニック同乗のため除外、プジョーはこのときはパナール製エンジンであったため、1位がパナール、2位がプジョーとされた。

翌年に行われたより大規模なパリ-ボルドー往復(1171km)レースでは、ルバッソールが最初のゴールに飛び込んだが、規則外の2座席スポーツカーだったため除外され、2番手のプジョーが優勝している。

こんなわけで、プジョーにとって耐久レースやWRCは、創業当時からの精神を受け継いだ企業の大黒柱というわけなんだ。

業界やマニアの間で、プジョーのサスペンションを「猫足」と幼稚な表現をすることが定番になっているが、この奇妙な表現は1980年代頃のカーグラフィック誌でのレポート記事に端を発しているようだ。それがいつの間にかあちこちで流用されるようになった。

しかし猫足(正確には猫脚)は音を立てないで歩くことや、座卓、テーブルの脚の先端形状が丸く処理されていることを指すもので、プジョーを表現するなら「ライオン脚」だろう。猫の脚などか細くて弱々し過ぎるではないか。「猫足」という言葉は都市伝説用語の一つとして認定しておきたい。

フランスのかつての高速道路はアアウトバーンほど立派ではなく、高速道路でクルマをぶっ飛ばすイメージは薄いが、地方道、郊外道路を走る時のスピードは世界一速い。

ドイツの地方道は、市内や村落以外は制限速度100km/hで案外速度は守られているのだが、フランスの地方道は速度無制限といった感じになる。近年ではサルコジ政権下で速度取締まり機が多数設置され、大いに不評を買っている。

フランスにはV6型、V8型、V型12気筒などという大排気量エンジンを搭載する文化はないので、2.0L以下のスモールカーが圧倒的な主役となり、郊外の道路では絶対的な速度もさることながら、コーナリング速度や不整路でのフラットな走りが重視される。

こうした背景があるので、フランスでクルマに求められるのは正確なステアリングとクルマの動きの軽さ、優れたロードホールディングなんだと思う。

しかし、現在のクルマ造りはグローバル化、反ヨーロッパ化しているので、現在のプジョーはドイツ、イギリス、日本などから多数の部品が供給され、マーケットとしては西ヨーロッパ、ロシア、中国がメインになっている。そのため、広い視野でのクルマ造りが求められているはずだ。

PSAグループとしては、次世代トランスミッションはEGS(6速AMT)と決めているし、ヨーロッパ市場では90%以上がMTなのだが、中国市場を考えるとATを捨てることができず、AL4(4速AT)が生き残らざるを得ないのだ。

また、プジョーは小型車がメインだが、より低価格な新興国向けのクルマと価格競争するわけにはいかないので上級指向、プレミアム・コンパクト化は必然となる。そのためには、自社の製造クォリティを高めることと、インテリア製造メーカーとのコラボレーションが求められるが、それはかなりうまく機能しているようだ。

プジョー208の走りの味わいは、ボディ、サスペンション、ステアリングなどのフィーリングの洗練具合とバランスのよさにあると思う。

やっぱり味わいはドイツ車と比較してという話になるのだが、2000年頃までのドイツ車はどれもどっしりした、あたかも装甲板のぶ厚い戦車に乗っているような重厚なフィーリングだったが、近年は高張力鋼板を多用しているせいか、フィーリングが変わり、硬質感が強調され重厚感は薄いフィーリングになっている。

もうひとつは、メルセデスまでもが「アジリティ」などという言葉を使い始め、ステアリングの初期応答をどんどん高めてきていることにちょっと違和感がある。アウディも高速直進安定感は2世代くらい前の方が上だ。どのクルマもアジリティ旋風に巻き込まれている気がする。

こうした点で比べると、プジョー208の軽やかなボディのフィーリングやサスペンションの動き、剛性感は高いが、初期応答が穏やかで切り込むほどに反応するプログレッシブなステアリングは癒し効果が高いし、車速が上がるとステアリングがどんどん締まってくる。直進安定感がこのうえないというチューニングは、王道だと思う。

Bセグメントの208はスモールカーだが、走り味は大人で、もっと大型のクルマを凌駕するような安定感や快適さが身体を通じて感じとることができた。実際に所有したとして、こうしたクルマは長時間乗っても疲れにくく、ステアリングを握り続けることが楽しいと感じる要素だと思う。

ページのトップに戻る