元ホンダで車両開発統括だった繁浩太郎さんが、ショーワのテストコースを視察しました。そこで分かった自動車産業の変化。開発の現場を知っているからこそ分かる変化を肌で感じ、これからの時代に必要なものが何であるか?レポートしてもらいました。
■(株)ショーワとは
(株)ショーワは、二輪車、四輪車さらに船舶のボート製品までの部品メーカーで、それぞれの完成車メーカーに直接納入するTier1(一次納入サプライヤー)です。四輪車では、ショックアブソーバー、パワーステアリング、デファレンシャルギヤ、プロペラシャフト等のシャシー部品を開発・生産し、多くのカーメーカーと取引きしていますが、メインの取引先はホンダです。F1や二輪車、四輪車のオプションパーツ分野でも有名な部品メーカーと言っていいでしょう。また、現在では、積極的に自動運転技術をはじめ、最先端の先進技術も研究開発しています。
■テストコースと自動運転車
2015年9月の第1期工事(直線路、旋回路、特殊路)に引き続き、今回2017年10月第2期工事として、今回のワインディングコースが完成し、テストコースとしてほぼ完成しました。
このテストコースは、二輪、四輪の1.性能研究、2.新商品開発、3.自動運転対応技術研究を目的としていると発表したが、私は、自動運転対応技術研究というのが気になりますね。
実際に、自動車運転のテスト車が展示されていました。写真でおわかりのよう、アルミフレームで造られたテスト車(EV)で、自動運転機能が搭載されています。しかし、ショーワが直ぐに自動運転車を生産するとかそういう話しではなくて、技術研究を目的とした「研究車」の位置付けということです。
■テストコースの紹介
さて、テストコースの主目的は二輪、四輪向けの性能研究と新商品開発となります。
ワインディングコースは北米と欧州の道路での走行を想定した2種類から成り立っており、実際に現地の道路をGPS+3Dスキャンで測量して造られています。北米コースの方は消費者情報誌「コンシューマーリポート」で使用されるコネチカット州の道路を参考にして作られたということでした。
当然テストコースなので、路面表面やその状況は複雑になっており、いつも平坦な道路を目指して造っている道路建築関係者は、大変苦労したそうです。
北米と欧州の道路を模したテストコースは、路面表面だけでなく大きな起伏やコーナーもそれぞれの地域特性を活かしたものになっています。北米はアップダウンを多くし、欧州コースは高低差を12mとり、大きく起伏をつけながら比較的大きなコーナーとなっています。
私が驚いたのはコース幅です。北米、欧州コース共に4.5mでセンターラインがあり、片側2.25mとなります。もちろんテストコースなので対面通行はありませんが、それにしても2.25m幅の道路を走らせるのは相当難しいです。なぜこんなに狭いのか聞いたところ、狭いと繊細なハンドリングになり、ダンパーの動きやステアリングのキレやフィーリングなどの特性がわかりやすいということでした。
実際、同乗試乗させていただきましたが、かなり繊細なハンドリングでした。また、路面は走っている間中、大小さまざまな凹凸を感じ、またコーナーの大きなうねりやその大きさもいろいろで、「なるほどテストコースだ」と納得できました。
このように、ショーワのテストコースは感性価値を大切にして、またより専門的な測定や解析を可能にした、専門メーカーならではのものでした。
■自動車の量産開発方法の変化
それにしても、私のホンダで車両開発していた現役時代は、サス屋が何種類ものダンパーをとっかえひっかえ交換してはテストコースで走ってみて開発したものですが、今はシミュレーション技術が発達し、カーメーカーとTier1メーカーの開発の仕方は大きく変わりました。
現在は、設計段階からバーチャル試作で精度高く仕様を定めていく、という手法が取り入れられているそうです。これにより、カーメーカーの試作車に依存せず、Tier1メーカーが主体的に精度を高く設計仕様を決められるようになりました。シャシー部品だけでなく、ヘッドライトやメーターなどの単体機能の部品はTier1メーカー主導で新技術を盛り込んで開発され(=ブラックボックス化)、その商品性まで含めて、カーメーカーに提案する形になってきています。この流れで、今後の自動運転やAI、通信等の先進技術や新製品はTier1メーカーからとなるわけです。
■Tier1(サプライヤー)の位置づけの変化
こうなるとTier1メーカー間では、今までの品質/コストだけでなく、基礎研究を必要とする新技術開発の競争となってきます。新技術のためにはTier1メーカーにマーケティングや企画部門、さらにショーワのような場合はテストコースが必要になるのです。
今までは、カーメーカーで商品のコンセプトから設計仕様、技術トレンド、ユーザートレンドなど、全てを調査研究し、設計図面や仕様書に反映していました。そしてTier1企業にトスし、Tier1は必要に応じてTier2へトスするという形で、ピラミッド構造で商品開発されていました。自動車産業が垂直統合型産業と言われるゆえんです。
それが今では、カーメーカーはさまざまなTier1で開発された機能部品を較べて調達し、自社開発部品と合わせてアッセンブリー化し、1台の完成車として生産します。こういう形は、水平統合型といわれ、カーメーカーをまたいで同じ部品を使うので、メーカー間の技術の差はでにくく、多くのブラックボックスができるということになります。
■カーメーカーの課題
このようなトレンドで、カーメーカーでは、商品企画部門と組み立て工場が主になり、自動車先進技術はTier1が担うという、水平統合型になってきています。こうなると、カーメーカーは長期の技術戦略が立てにくくなり、ひいては独自の新商品コンセプトを立てにくくなります。つまりコモディティ化です。
国の基幹産業と言われている自動車産業の産業構造が変わりはじめています。さらに、 カーシェアリングにみられるように、クルマを所有する価値観からクルマを使う価値観へと変化しているトレンドや、IT、AIの進化、環境を考えた国のエネルギー施策など、自動車のまわりは大きく変化し始めました。それは、日本の基幹産業である現在の自動車産業の再構築、さらに国の産業を考え直すということを意味します。
■テストコースの意味
ショーワのテストコースの話から脱線しましたが、いずれにしても、ショーワのようなTier1メーカーは、優秀な人材確保をしながら自前の特化したテストコースのような設備まで整え、B2B(Business to Business)にプラス、B2C(Business to Consumer)感覚をもった新技術提案型メーカーとして生きていこうとしている、ということです。
ですから、テストコースのような開発設備はこれからのTier1企業の自立化には必要なのです。また、社内における新商品の発想や製品創造体質、ユーザーの価値観を調べるマーケティング部門や企画部門も大切になってきます。