もうずいぶん前からだが、新型車が発売されると聞いても、そんなに興味がわかなくなってきている。カーメーカーや自動車関係の従業員、会社の偉い人達でさえ、「実際、今、欲しい、乗りたい、買いたいと思うクルマがない」との本音を聞かされたこともある。
何故そうなってきたのか? その要因はなんなのか?
探っていきたいと思います。
■カーメーカーのマーケティング
マーケティングでよく使われるのが、顧客を層別(カテゴライズ)にしたものだ。名称は一般的にマーケティングで使われるもので、四角く囲った名称は、私がクルマ用に置き換えたものである。
(分かり易くするために、中間・フォロワーを一緒にしてフォロワー層とした)
クルマ好き層は、全体の10数%と少ないが、当然クルマのことはよく知っており、時代の変化にも敏感で、トレンド・リーダーとも言われる。フォロワー層は全体の7割をしめ、燃費や安全など、感覚的な価値観よりも理性的な価値観で、クルマ好き層の文字通りフォロワーとなる。
カーメーカーからすると、フォロワー層向けの商品は母数も多く、またその価値観もフォロワーなだけに分かりやすく、より的確に多くの販売台数を見込めることから、フォロワー層向けの商品が多くなりがちだ。だが当然、クルマ好き層からみると物足りない。
■カーメーカーにとっての企画台数と販売台数
カーメーカーにとって、販売台数の多さは大切だが、企画台数(計画台数)をきっちりと販売することは大切だ。
それは、企画台数によって工場も販売店も、また多くのサプライヤーも含めて企画台数に合わせて準備をするので、実際の販売において、少なく外れてしまうと設備や準備が無駄となり、逆に多く外れてしまっても、追加投資対応など、どちらもコスト収益に跳ね返ってくる。従って、どのカーメーカーも、販売台数を多く見積もった企画台数に達成するためには、フォロワー層向けの企画となってしまうという論法になるのだ。
このように、ターゲットユーザーをフォロワー層にすることは、開発するクルマ企画の基本コンセプトが、どのメーカーも似たようになり、結果としてクルマはコモディティ化していくことになる。
■グローバル商品化
グローバル・マーケットでみると、2016年の世界販売台数は9385万6388台。その内訳は・・・
中国 2802万8175台
北米 1786万8501台
EU 1699万3841台
インド 366万9277台
ASEAN 317万2212台
中南米 440万7526台
日本 497万0260台
(※2017年7月日本貿易振興機構(ジェトロ) 海外調査部 海外調査計画課 「2016年 主要国の自動車生産・販売動向 」による)
こうやって見ると、日本の販売台数はそんなに多くなく、グローバルなカーメーカーでは投資効率を考えると、日本専用車というよりも販売台数の多い地域向けのクルマをメインに開発しがちで、それを日本に持ってきたくなる。
しかし多くのカーメーカーが生産拠点を持つ北米、中国、インド/ASEAN/南米などでは、その地域ごとにユーザー価値観がそれぞれで異なっているのだ。もちろん優遇税制などによる違いもあるのだが。
従って、これらの生産拠点で造られたクルマは、当然日本のユーザーの価値観と合わない。
■効率アップ
クルマがグローバル商品になって、ユーザーは多様化している現在、それぞれの地域に向けた商品企画では、開発、生産コストを掛けたわりには、販売台数による利益は上がらないので効率が悪い。このことはユーザーには見えない部分だが、メーカーとしては「共用化」をして、開発費用や生産投資などを下げるのはカーメーカーにとって大切なことだ。
しかし、商品企画にまで「効率」を求めると、それは「枠をはめる」ことになり、自由な発想でのユーザーの価値観を先回りするような商品企画はできにくくなる。見渡せば、カーメーカーの体質自体が、フォロワー向けの商品開発を企業へと変貌してきている。
私は、クルマの商品企画部門には「ムダ、ムラ、ムリ」は必要悪だと考える。
■商品企画のあるべき姿
大成功商品の構図はクルマ好き層からはじまって、フォロワー層に広がるというものが理想的だが、いずれも初代のロードスター、ワゴンR、オデッセイなどは時代をリードした商品でクルマ好き層から広がった商品だ。これらはどうやって企画されたのだろう。
聞いた話によると、これらはカーメーカーとしては「時代をリードする商品」どころか、力の入った開発ではなく、いわゆる「隅っこ」で開発された商品だったらしい。
「隅っこ」がゆえ、この判断しにくい素晴らしい商品が社内を通過していったのかもしれない。もちろん、開発チームの努力はあったにしても、運や偶然の力も大きかったと思う。
日本のカーメーカーは昔から、クルマ好き層を狙うような、マーケティングに根ざした商品企画は少なかったような気がする。良く検討された企画の中からは時代をリードするようなクルマはなかなか出ないようにも思う。
それは多分、左脳の論理で社内を説得しながらの企画になるからだろう。
■IT、AIの進化
クルマの基本機能における、機械的な技術進化はサチレートしてきている。新技術の方向性は、メルセデス・ベンツのいう「CASE」に集約される。「CASE」とは・・・
Connected(つながるクルマ)
Autonomous(自動運転)
Shared&Service(カーシェアリング)
Electric Drive(電動化)
この4つの意味の頭文字をとった用語だ。
ITやAIといった新技術は、CASEのベースとなる技術だ。これらで、どれだけ「買いたいクルマ」になるのか? 表面的には、ユーザーにとって利便性が上がる方向のクルマに見え、どのクルマにも共有できる技術を搭載したクルマとうように感じ、今回のテーマとは少し異なる気もする。
まだまだ要因はいろいろあると思うが、いずれにしても現在のクルマはフォロワー商品化してしまったように思える。
■まとめ
日本でのクルマの位置付けは、普及して代替えサイクル商品になり、販売台数も右肩さがりだ。つまり、少なくとも日本では「クルマブランド」は終焉を迎えていると想像できる。
実際、カーメーカーは販売台数を狙って、フォロワー層をターゲットする商品企画を繰り返している。今、カーメーカーは成長戦略よりも、少しでも販売台数を稼げるクルマを開発して、人件費を切り詰め会社規模の確保に頑張るというのが現実なのかもしれない。
ほとんどのカーメーカーが創造性を効率で切って一般常識の塊のようになっているクルマの中で、この先クルマ好き層の期待に応え、フォロワー層に広がるようなクルマは開発できるのだろうか。
カーメーカーの近い将来は、中国、インド、アジアと新興国市場の広がりなどで販売台数も増加しており、メーカーも意外と楽観的なのではないかと心配してしまう。