【繁浩太郎の言いたい放題コラム】第16回衝撃的なVW問題から何を学ぶか

繁浩太郎コラム フォルクスワーゲン不正問題 008
今回は元自動車開発者としてフォルクスワーゲンの不正問題について思うところを書いてみた

今、世間を騒がしているフォルクスワーゲンの不正問題はあまりにも衝撃的なことでした。なぜ、このような問題が起きてしまったのか?同じクルマを造ってきた者として、いろんな角度から考えてみたいと思います。

●フォルクスワーゲンは優良企業だった
フォルクスワーゲンは、素晴らしいプロダクトとブランド作りで伸びてきました。私は以前、ドイツのウォルスブルグにあるフォルクスワーゲンのテーマパーク、アウトシュタット (ドイツ語で“自動車の街”) に行ったことがあります。私には、まさにディズニーランドのように思えました。

アウトシュタットはフォルクスワーゲンの全ブランドがテーマ館のようになっていて、新車のデリバリーからVWグッズまで満載です。そのアウトシュタットの中にはホテル・リッツがあり、部屋に入るとビートルのチョコが置いてあり、「マジ食べるのがもったいなくて…」と(笑)。また、ロビーからは最近流行りの「工場女子」にはたまらんVWの工場の煙突が見えました。私も帰る頃にはすっかりVWファンになりました。

繁浩太郎コラム フォルクスワーゲン不正問題 001

この街を訪ね歩くと、フォルクスワーゲンは綿密に、素晴らしいプロダクトとブランド創りを一つ一つやってきていたことが良く分かるのです。

それがひとたび「不正」となると、その綿密で、素晴らしVWのイメージが一瞬にして吹っ飛んでしまいます。当然です。公に決められた決まりを故意に破る。これは「アウト」です。今後、どんな償いを世の中の人に向けて行なうかはフォルクスワーゲン次第ですが、キッチリとやってくれることを願っています。

繁浩太郎コラム フォルクスワーゲン不正問題 005

●グレーゾーンの存在
さて、私がうん十年前の、スモールカーの外装設計担当の当時の話です。

当時の開発責任者から、「ボディの大きさの割にドアミラーがデカすぎてカッコ悪いな」と意見を言われ、「いやいや、これは法規があって、結果ミラーの大きさが決まっているのです」と私。「でも、カッコ悪い」と上司と押し問答。話のわからん上司なので(笑)仕方なく、知恵を絞り、何とか小さくできないか?と取り組みました。

私は認定作業される現場で、ミラーの大きさの判断方法などを詳しく聞き、考えた結果小さくすることに成功し、上司が満足したことを覚えています。それは、ミラーの取り付け位置、シートの設定、ミラーの曲率公差などを踏まえ考え出しました。

だから、ギリギリの設定だと法規ファウルの危険性が伴うので、社内要件という法規より厳しい要件を設定するのが一般的です。また、部署によっては「さらに間違いのない商品にする」という考え方で、もう1段要件を厳しくするところも出てきます。これを繰り返すと「戦車」になり、本末転倒ということになります(笑)。つまり、よく言われるグレーゾーンの幅をどう捉えるか?ということが顔を出し始めます。

●ギリギリ設計は人間性
ギリギリまで設計・仕様を詰めるというのは、難しい作業なのです。クルマが売れに売れ、需要が活発だった80年代位までなら、コストもそれほど厳しくなく、グレーゾーンも安全方向で造られていて良かったのですが、バブルがはじけて以降「効率」が重要視されるようになって、ギリギリ設計が必要になりました。

「本当のギリギリはどこだ?」と、またわからん上司の登場になります(笑)。こうなってくると、最後は「法の精神」みたいなことが大切になってきます。また、作り手の「人間性」も大切になってきますね。<次ページへ>

繁浩太郎コラム フォルクスワーゲン不正問題 007

●グレーゾーンの追求で黒?
以前というか昔、Aというカーメーカーが認定申請の車両重量と実車の車両重量が異なってしまい、合わせるためにウエイトを載せるという問題もありました。また、Bというカーメーカーが競合のCというカーメーカーの車両重量を測定したらしく「カタログ値より重いのですが、どう思います?」と相談されて困ったこともあります。

また、空気抵抗の測定ということでは、例えば各社公表のCD値等は、その測定器というか設備自体の特性や測定の仕方で、別の会社の設備で測定すれば値が変わる場合もあります。

まあ、これらは今回のVWの問題と本質は異なりますが、グレーゾーンは現実に存在して、そのグレーゾーンを追求するあまり、つい黒までいってしまう可能性はあるかもしれません。

●品質と最後の砦
「担当者や管理者の独走」ができないように、コーポレート・ガバナンスやコンプライアンスを守る「監査役」のような、品質に関しては社長より権力があり、それをキチンと機能させる責任者が必要です。一生懸命、競合を意識しながら開発していると、どうしても世間が見えなくなってグレーゾーンから黒になってしまうことも人間だからあるかもしれません。

工場のラインと同じで、品質は各工程で作り込むことが大切ですが、悪いものを出さない最後の砦として、最終検査は必要ということと思うのです。

繁浩太郎コラム フォルクスワーゲン不正問題 003

●形は違ってもITは武器?
また、これは全くの想像ですが、コンピュータ/ITの進化により、今回のVWのような不正も含めて、なんでもできるようになり、コンピュータやITは武器としての意識はなくても、人間の心理として、なんでもできる能力を持てば使いたくなってしまうこともあるかもしれません。認証する側も、相手が武器を持っているとの前提で、「性悪説」での検証が必要になるかもしれません。

●怖いのは、ITの裏側
コンピュータは便利で人のためになり、人の生活を良い方に変えてきましたが、とうとう、その裏側の世界もみなければいけないことになってきました。

今回のフォルクスワーゲンの事件は、悪い形でのIT時代の到来を象徴しているのかもしれません。見えない形でテストの時だけ…のソフト。サイバー攻撃ではありませんが、ITの不正、裏側です。ここを解決できないと、自動運転はもちろん、今後のITによる便利や楽しいこともできなくなるでしょう。

今までわれわれは、ITの良い面ばかり見てきたようです。国も企業も人も意外とこの意識が低いのではないでしょうか?

繁浩太郎コラム フォルクスワーゲン不正問題 006

ページのトップに戻る