【舘さんコラム】2020年への旅・第10回「充電の旅シリーズ10 スーパーセブンに聞け 第8話 EVラリー白馬開催」

QC旅 小袖尼センターへの道
まだあまちゃんの余韻が残る小袖海岸に向かうEVセブン。原稿はまだ大間をうろうろしているが、写真は一足先に進んでいるのだ

海峡荘の朝
北海道からフェリーで大間に渡った寄本好則は、海峡荘でたらふくマグロを食べて幸せな気分で朝を迎えた。「よし。セブンが待っている。今日も走るぞ」と、EVスーパーセブンでの急速充電の旅を続ける決意を新たにした。

たしかに大間のマグロは旨かったが、寄本を幸せな気分にしたのは、山東と鈴本であった。彼ら二人と語りあえたことが、何よりも寄本を幸せにした。

鈴本は会ったばかり。山東といっても会ったのは二度目であった。しかし、寄本には二人は二十年来の友のように感じられた。酒を酌み交わし、旨い肴をつつき、尽きることのないEVの話をした。ただそれだけだった。だが、三人を親しい友にするには、それだけで十分だった。友とは、幾つになってもそんなものである。生まれる前から友になることが決まっている者たちが、何かの機会に、天に命じられたかのように知り合うのだ。

早起きした寄本は、海峡荘のロビーの少しほころびたソファーに座って、朝食が整うのを待っていた。すると、外から鈴本が戻ってきた。頭を叩いている。きっと飲み過ぎたのだろう。寄本を見つけると笑顔になった。潮風に当たっていたとのことだった。

「やっぱりあかんですよ。昨夜の話じゃないですが、ぼくら二酸化炭素出し過ぎとちがいまっか」ソファーにどっかり座ると、鈴本は腹がもっこりと出た。その腹を抱えるようにして、いきなり「まずい」という。寄本は笑いそうになったが、鈴本の真剣な眼差しに笑いをこらえた。

「四駆はおもろいですよ。おもろいけどまずいですよ。おもろい四駆をまずくないようにでけんか、ずっと考えてきたですよ。ほんまに。それで電気四駆にたどりついた。けど、電気四駆は売っておらしません。自分で作るしかありませんねん。そんでスズキのジムニー改造して作りました。そしたらこいつで南極行きとうなりました」

「手作りの電気四駆で南極ですか?」。寄本は驚いて聞き返した。寄本は、手作りで電気四駆ができることも、南極のこともまったく知らなかった。それでも鈴本のやりたいことがとてつもなくむずかしいことは想像できた。それどころか、生きて南極から帰れないような気がした。

「信じてないでしょ。そんな顔してますよ」さっそく鈴本に見破られてしまった。「わたしだって、いきなり電気四駆で南極に行くわけじゃない。ちゃんと準備しておりますねん」

QC旅 小袖浜海女センター漁港
あまちゃんの撮影地はここ。左の奥にあまちゃんが飛び込んだ灯台がある

鈴本は自分たちの手作り電気四駆で、すでにロシア・サハリン州の間宮海峡横断に挑戦していた。もちろん海峡とは海である。氷が張らなければ自動車では横断できない。つまり横断は凍てつく冬期である。電池も凍れば、人間も凍った。凍ってさらさらになった雪面はアスファルト路面と同じだ。スタッドレスタイヤは用をなさず、夏用タイヤで走った。危うく凍傷になって手と足の指を失うほんの少し手前で、挑戦をあきらめた。そして、いま大間にいるのだった。

その話を聞いて、山東が鈴本に会わせたいといった理由が寄本にわかった。ゴールデンアーム鈴本は、厳冬期北海道EVラリーになくてはならない存在なのであった。鈴本は続けた。

「遭難しかかったぼくらを助けてくれたのはガソリンの雪上車だった。ありがたかった。でも、凍てついて、ぴーんと張りつめた清らかなサハリンの空気を真っ黒なディーゼル排ガスで汚す雪上車は寂しい。やっぱり雪は完璧に白くあってほしい。ちゃんと走る電気四駆がほしいですねん」

QC旅 八戸ガールズ
EVスーパーセブン誕生の地、八戸に戻ると駅前のセンターで八戸セブンガールズがお迎えだ

 

六ヶ所村へ
寄本は、鈴本を電気セブンに誘った。話の続きが聞きたかったからだ。この日は、大間から国道279号線を使ってむつ市に行く予定だった。日本原子力研究開発機構のある六ヶ所村が目当てだった。

体つきからは想像できないが、鈴本は学識派であった。もちろん、日本原子力研究開発機構も六ヶ所村で何が行なわれているかも知っていた。だが、行ったことはなった。「ぜひ」ということで、大きなお腹をセブンの助手席に滑り込ませた。

六ヶ所村近辺は、エネルギー多様化の見本のような地域である。まずは原子燃料サイクル施設がある。使用済み核燃料からプルトニュウムを取り出し、再び原発で燃やすことを繰り返す、永遠の火の創造に挑む施設だ。ただし、稼働はしていない。

さらに国家石油備蓄基地、むつ小川原ウィンドファーム、六ヶ所村風力発電所、二又風力発電所などが林立している。これにメガソーラー発電、水力発電、地熱発電が加われば、現在、考えられるほとんどのエネルギー施設が揃う。

「足りないのは人力発電でおまっせ」。助手席の鈴本が言った。10月に入ったばかりだったが、本州の最北端、下北半島に吹く風はもう冷たかった。ジャケットの襟を立て、ゴーグルをして寄本と鈴本の二人はセブンを駆った。オープンカーとはいっても電気自動車である。風を切る音を除けば、驚くほど静かだ。二人の会話は弾んだ。

「人力発電ってなんですか?」。寄本は、突然の鈴本の話に少々面喰って訊いた。「南極では人力で発電して充電するんです」。鈴本は、もうとっくに決まっていることのように、あっさりとそういった。それを聞いた寄本は、あやうく電気セブンのブレーキを踏みそうになった。

鈴本の話はこうである。南極での充電の基本は風力発電だ。小型の風車を2基持っていく予定である。だが、安定した風がほしいがなんともの部分もある。そこはソーラー発電に期待する。しかし、南極点走破は夏にやるとしても、太陽が水平線ぎりぎりで登り、沈む。アフリカの砂漠のようなソーラー発電は期待できない。

そこで目をつけたのが己の足というわけだった。歩いたり、走ったりできる足は自転車もこげる。ペダルに発電機を取り付けてぐりぐり漕げば、発電できる。そのうえ、体も暖かくなって一石二鳥である。「ガンバレー。鈴本」。寄本は、心の中でそう叫んだ。そして、この人がいなければ、厳冬期北海道EVラリーはやれないとつくづく思った(筆者注・ゴールデンアーム鈴本氏の電気自動車南極点走破の話は、「アイアンバール鈴木」のペンネームでネットに書き込んでいる。ご覧あれ)。

QC旅 小袖海女センターへの道 五丈の滝
小袖海女センターへの道途中には、五丈の滝。EVスーパーセブンを停めて撮影

エッジ天才舘野登場
「そんなことよりラリー白馬、どうしまんねん。ヨーロッパじゃ大規模のEVラリーやってるんでしょ?」

鈴本は、ずっと先の話の厳冬期北海道EVラリーはともかく、「目の前のラリー白馬の準備をはようせや」と急かした。「その件は、エッジ舘野さんがやってますから、訊いてみますよ」

寄本はそういってはみたが、エッジさんのことだ。自分もきっとまきこまれるに違いないと内心、不安になった。ただし、心の片隅で巻き込まれることをひどく喜んでいる自分のいることも知っていた。

QC旅 小袖浜海女センター入り口
小袖海女センターの入り口はこんなところ

エッジ舘野とは、EVの世界では知らない人がいない大物だった。すでに20年近くEVにかかわり、日本EVクラブを設立し、日本EVフェスティバルを開催、電気自動車の航続距離世界一の記録を2つ持っていた。エッジ舘野の人柄と才能に引かれて、EVの世界に飛び込んだ人たちはあまたいる。慕われ、尊敬されていた。EVスーパー・セブン急速充電の旅もエッジ舘野の企画であり、運営だった。

だが、彼に問題がないわけではなかった。20年近くも日本EVクラブを運営しながら、まったく儲けを出さず、いつも自転車操業であった。もっとも非営利の市民団体だから利益は出さずともいいのだが、家賃の支払いは滞るわ、専任の女性のお給料は6ヶ月も未払いだわと、困ったジジイだった。

原因はエッジ舘野の性格上の欠陥だった。資金があるとすべて日本EVクラブの発展とEVの普及活動に注ぎ込んでしまうのであった。人呼んで「金欠エッジ」といわれていた。しかし、壮大で個性的な構想力と人を集める不思議な力をもっていた。彼に頼まれると、だれも断れないのだ。人は、「天才舘野」と呼んで、困ったときに頼りにしていた。彼の裁量でビジネスに成功し、大儲けをした事業家は数知れなかった。だが、その儲けの1円もエッジ舘野の懐には入ってこなかったのであった。ああ。

急速充電旅 八戸再度
再上陸すると、八戸市を上げてのやんやの歓迎である

 

エッジ舘野 ラリー白馬を構想する

エッジ舘野によれば、こうだ。ラリー白馬は、2014年9月6日、7日の両日、白馬村で開催される。北は北海道知床半島から、南は鹿児島の佐多岬からEVに乗って駆けつけると宣言した参加者がもういるという。天才舘野の呪力にかかったのだ。

北海道からの参加者は、すでに日産リーフで北海道1周、2400kmを走破ずみである。夏季であれば「いつでも北海道EVラリーに出てやる」と豪語している。

九州からの参加者は、熊本で自動車整備工場を経営しつつ改造電気自動車を製作している。一度、鹿児島の南端である佐多岬まで行って、そこからラリーをスタートするという。

もっとも近いラリー参加者は、白馬村北城のあぜくら山荘からだ。三菱ミニキャブミーブ(EV)で参加だ。10分も走れば会場のHakuba47スキー場に到着だ。これは少々ずるいか。

ともかく日本全国各地から白馬村をめざしてEVが集まる。エッジ舘野は、5000台からのEVの参加を予想しているのだが、「冗談もいい加減にしろ」と、事務局員たちから叱られていた。そのとおりだ。

9月6日の朝8時から夕方5時までの間に、三々五々、ゴールしていただく。ゴールしたチームから順にミニラリーに出発してもらう。イタリアの壮大なラリーであるミッレミリア(1000km)を模した”100分の1ミッレミリア・イン白馬”的な、10kmほどを走るファミリーラリーだ。白馬村の名所旧跡、観光地、まだ瞼に残る金メダル団体スキージャンプの会場やらのスポーツセンターなどをめぐる。

夜はウエルカムパーティ。電気夜会が開かれる。ヘンリー・フォード夫人は、当時、大人気だった馬車風のEVに乗って夜会にでかけるのが大好きだった、というエピソードに便乗して、Hakuba47の大駐車場で大夜会を繰り広げる。

急ごしらえの舞台上では、EV界の有名人やらモータージャーナリストやらが、ないことないことをしゃべって面白がるのだ。その傍らで、音もなく静寂な電気カートが信じがたいスピードでツインジムカーナ・パシュートを繰り広げ、EVダンスを演じ、白馬の漆黒の闇がEVのヘッドライトで照らされる。

翌日は、EVやPHEVで行く観光のありかたと、観光地のゼロ・エミッションのありかたをめぐるワークショップが開かれる。白馬村、屋久島町、スイスのツェルマットからパネラーが来て、ゼロ・エミッション観光のありかたを討議する。

白眉は、白馬村出身でモーグルの合宿でツェルマットに長い上村愛子さんの、両村からの報告である。詳しいこと、参加方法は日本EVクラブのホームページに載っていると、天才エッジ舘野がいっている。

えっ、ラリー白馬は本当にやるのかってか? それは次回をお楽しみに…。

2020年への旅 スーパーセブンに聞け 第9話
2020年へ旅 スーパーセブンに聞け 第7話

日本EVクラブ公式サイト
既報記事「ジャパンEVラリー白馬参加受付中」

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