【自動運転技術】高度運転支援システム、自動運転がもたらす近未来を考える

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ボルボが目指す自動運転のイメージ

クルマの自動運転は、日本では2013年8月に日産自動車から「日産 自動運転への取り組みについて」というプレスリリースが流れたことで、日本の自動車産業界では先進技術のトップテーマとなり、開発の着手をしていなかったメーカーには衝撃を与えた。

そして、日産自動車はカリフォルニア州で開かれた日産が主催するワールド・メディアイベントで、EV車のリーフをベースにした自動運転実験車のデモンストレーションを行ない、さらに10月初旬には、東京で開催されたIT・エレクトロニクスショー「CEATEC JAPAN」でもデモランを行なっている。なお、この実験車は9月に、日本で初めて公道走行用のナンバープレートも取得している。

この日産の動きに、リーマンショック以降は開発が停滞していた他の日本の自動車メーカーはショックを受けたのは間違いない。

もっともこれは日本の中での限定的な話で、世界的に見ると、アメリカのGoogleが自動運転実験車の開発・実験走行を開始したというニュースの方がもっと大きなインパクトを与えた。

Googleは2007年にクルマの自動運転開発の決定を行ない、2009年頃には基本システムを構築したといわれている。これには自動車メーカーのエンジニアも自動車メーカとは無関係なGoogle社が開発を行なっていることに驚かされたという。

このことが「運転の自動化」をテーマに研究開発していたヨーロッパの自動車メーカー、サプライヤーの開発が一斉に加速する契機になったのだ。

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カリフォルニア州の隊列走行実験
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NEDOのトラック隊列走行の実験
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NEDOが実験した隊列走行システム

なお鉱山での大型トラックなどでは決められたコースを無人運転する技術はすでに実用化されている。またITS(高度道路交通システム)の観点から輸送用大型トラックで、先頭車に極めて短い車間距離で複数の後続車が追随し、燃費、安全性を高める自動運転・隊列走行も実験的に日本、ヨーロッパ、アメリカで行なわれている。

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砂漠を走るDARPAグランドチャレンジで好成績を収めたスタンフォード大学/VWトゥアレグ
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アーバンチャレンジでランドローバーで走るマサチューセッツ工科大学チーム

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クルマの自動運転については、Googleカーよりさらに時間をさかのぼると、2004年にアメリカの国防省の研究部署である国防高等研究計画局(DARPA)が主催した「グランドチャレンジ」が自動運転の技術トレンドの発端となったといっていいだろう。

これはモハーヴェ砂漠(カリフォルニア州、ユタ州、 ネバダ州、アリゾナ州にまたがる広大な砂漠)を舞台に、賞金100万ドルをかけて無人の自動運転車が砂漠の荒れ地の中の指定された240kmのコースを走破し、指定された目的地まで到達を競うレースであった。

このイベントではどのチームもゴールには到着できなかったが、翌年(2005年)のレースでは212kmの距離のレースで、5台の自動運転車が走り切り、ゴールに達することができていた。優勝したのはスタンフォード大学チームのフォルクスワーゲン・トゥアレグだった。

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DARPAグランドチャレンジに出場したスタンフォード大学の制御の基本チャート

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砂漠の中の細道を通過する自動運転車が取得したセンサー情報のイメージ

 

2007年には「DARPAアーバンチャレンジ」が開催された。砂漠から舗装路に舞台を移し、地方空港の敷地内を市街地にみたて、指定された96kmのコースを6時間以内に走るレースで、6チームが完走。カーネギーメロン大学が優勝している。こうしたDARPA主催の自動運転レースは、軍事用の無人車を開発するためのデータや知見の収集が目的だったのは言うまでもないが、このような試みは自律型の自動運転の壮大な実験の発端になったといえる。

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プリウス20型を使用したGoogleカー。ルーフ上に360度レーザー測距スキャナーを装備する

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リヤから見たGoogleカー。ネバダ州の公道走行用のナンバープレート付き。

 

Googleはこうした動向の中で、自力で自律型自動運転車を開発することを決め、DARPAチャレンジで自動運転車の開発に関わったエンジニアや研究者が合流。2010年10月にプロジェクトの正式発表を行ない、カリフォルニア州の限られた道路で走行テストを実施しており、自動運転システムを搭載したクルマで延べ22万5000km以上走らせたと発表した。

システムはビデオカメラ、レーダーセンサー、レーザー測距スキャナー(ライダー)を使ってクルマや歩行者の状況を確認しながら、同時にGoogleが収集した詳細な地図データを参照して目的地に進むという自律型である。

もちろんこのシステムの開発のために実験車にはドライバーとエンジニアが同乗しているという。Google社のE.シュミットCEOは「自動車は自動で走行すべきだ。自動車の方がコンピューターより先に発明されたのは間違いだった」と語ったという。もちろん目的は交通事故とCO2の削減である。

 

2012年5月にはGoogle実験車はネバダ州で公道実験用のナンバーを取得し、10数台のテストカーが公道を走っている。2012年半ばで走行距離は48万kmに達しているという。

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2012年12月にネバダ州の公道走行用ナンバーを取得したコンティネンタル社

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コンティネンタル社がネバダ州で実証実験中の高度運転支援システム付きVWパサート

 

また同年の12月にはヨーロッパのサプライヤー、コンティネンタル社が同じく公道での自動運転実験のためにネバダ州でナンバープレートを取得し、実証実験を開始している。なおヨーロッパでは量産車ベースの実験車、未登録の実験車でもナンバープレートが取得できるため、公道での実験は多種多様に実施されているわけだ。

自動運転の実証実験で公道を走るとはいえ、Googleカーとコンティネンタル社ではかなりアプローチが異なっている。

Googleカーは発表された内容を見る限り、完全自律型の自動運転を目指しているのに対し、コンティネンタル社はVWパサートに4 個の短距離レーダー(前後各2個)、1個の長距離レーダー、ステレオカメラを搭載した実験車となっている。つまり現在の量産ユニットを使用したシステムで、高度運転支援システムを構成するというコンセプトだ。

これは主として高速道路で、ドライバーは計器情報や周囲の視界をモニターしながら走行し、ステアリングは車線内をキープする自動操舵になっており、ドライバーはいつでも運転できる状態で乗っているということを意味する。

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コンティネンタル社が描く自動運転へのロードマップ
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コンティネンタル社が目指す自動運転化へのステップ

つまりGoogleカーは、目的地を指定すればクルマが自動的に道路を選んで走る自律型という究極の目標に向かっているのに対し、コンティネンタル社(のみではなく多くの自動車メーカー)は、現在のドライバー支援システムやITS(高度道路交通システム)をベースに、より現在のドライバー支援システムを機能拡張した高度運転支援システムを目指しているのだ。

ただ、日産の実験車は、もう一歩踏み込み、高速道路限定ながら自律型を目指しているのだ。もちろんその背景には、ドライバーがステアリングから手を放して走行するという自動運転の場合は、法的な基盤、枠組みが整備される必要がある。

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国交省が検討している自動運転化へのロードマップ

当然のことながら、クルマの手放し運転、オートパイロットに関しては法律的な取り決めが必要になる。いつ、どのような状態で自動運転が許されるのか、そのような状態で事故が発生した場合、誰が責任を負うのか?などは法的な基準が必要だ。

将来的には必然と考えられる自動運転化に対し、現在はヨーロッパ、アメリカ、日本を極として、自動運転に対するロードマップが模索されており、その内容はほぼ共通である。つまり、2015~2016年頃には運転支援システムとして、高度運転支援システムの普及が始まり、2020~2025年頃には法的な枠組みの成立と自動運転技術の普及が始まるとされているのだ。

現時点で一般メディアでは、先進技術である「自動運転」の意味が一人歩きし、すべてが自律型自動運転だと誤解されているが、実際のロードマップに沿った開発は、「高度運転支援システム」を目指すことが主流であることは間違いない。

これは、現在すでに採用されている、衝突・危険回避のための自動ブレーキやアクティブ・レーンキープアシスト(車線を逸脱すると警報が鳴る、あるいはさらに車線中央に戻すようにステアリングが半自動操舵される)、アダプティブクルーズコントロール(ACC:レーダーやカメラにより前走車に追随・加減速する)といったシステムで、これらをより統合的に制御し、単調な高速道路、自動車専用道路で人間のミスや不注意を防ぎ、高速道路での渋滞走行などのシーンでドライバーを運転から解放し、交通事故を大幅に低減することが狙いになっている。このようなシーンでは、ドライバーはステアリングから短時間の手放し、あるいは軽く手を添えているのみで、操舵や加減速は自動的に行なわれる。

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2014年5月頃に発売が予定されているスバル「LEVORG」が採用する操舵支援システム付きのレーンキープアシスト。65km/h以上で作動させることができる

レーダーやカメラからの情報を使用し、前走車に自動的に追従する「アダプティブクルーズコントロール」はすでに普及を始めている。それは高速道路や自動車専用道路で走行する車線をカメラがモニターし、車線を逸脱しそうになると自動的に操舵トルクを発生させクルマの進路を車線中央に戻すというアクティブ・レーンコントロール機能で、今のところメルセデス・ベンツSクラスに既採用され、2014年に発売されるスバル・レヴォーグ、日産V37型スカイライン、ボルボでも採用することを発表している。
メルセデス・ベンツSクラスに装備されるアダプティブクルーズコントロールは、60km/h以上の場合に自動操舵が行なわれるが、車線を逸脱するようなシーンで自動的にステアリンが動き、車線内にクルマを戻す。ただし、ステアリングから手放しした状態が10秒経過するとこの機能はキャンセルされるようになっている。なおSクラスは、自動操舵時にブレーキ・トルクベクタリングも作動させている。

日産V37型スカイラインは世界初のステアバイワイヤーと、カメラによる車線認識により、車線を逸脱しそうになると自動操舵で車体を車線中央に引き戻す機能がある。2014年発売の新型ボルボXC90もSクラスと同様のシステムと考えられる。ただし、ボルボはより自動運転を指向しており、すでに自動運転を前提とした、レーザースキャナーも搭載した実証実験車でスエーデンの公道を走り始めている。

スバル・レヴォーグは、65km/h以上でアダプティブクルーズコントロールを作動させている場合は車線の逸脱に対して修正するような操舵トルクを発生させるとしている。逆にステアリングから手を放している状態ではこの機能は作動しない。

このように、車線や前走車を認識することで、単に車線からの逸脱を警報するだけではなく、正しい進路に引き戻すような自動操舵は、高精度なカメラを備えているクルマではもはや実現可能なレベルに達しているのだ。

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車両同士、道路と車両が通信することでアダプティブクルーズコントロールにより自動的に車間、車速が制御される「CACC」。後続車は高精度の自動追従走行が可能

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車線を逸脱しないように操舵制御するために不可欠な車線認識用の単眼、またはステレオカメラ

 

ITS技術の一つである車両同士、車両と道路との専用狭域通信(DSRC)を搭載したACC(CACCと呼ぶ)であれば、車両同士の加減速の遅れがなくなり、高速道路のトンネル入り口や登り坂で発生する渋滞を抑制、CO2削減を行なうことも可能になる。
また、交差点や事故が生じやすい道路で、道路に設置されたセンサーから電波で発信された情報を使用したり、車両同士、車両と2輪車、車両と歩行者がそれぞれ発信器を装備すれば、より精度の高い自動運転も期待できる。

こうしたITSを利用した自動運転の発想は、ITSシステムの構築が先行している日本が有利なのだが、ヨーロッパやアメリカではITSのインフラに頼らない自律型が主流と考えられる。

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完全自動運転ぬ不可欠のバレオ IBE製の小型レーザー測距3次元スキャナー(ライダー)

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レクサスの実験車がルーフ上に装着したレーザー測距スキャナー

 

究極の自動運転ともいえる自律型の自動走行を目指す場合は、通常のドライバー支援システム以外に異なるセンサーを搭載する必要がある。一つは正確な自車の位置を検知する高精度なGPSセンサーDifferential GPSを含むであり、もう一つは周囲の地形や障害物を検出するレーザー測距3次元スキャナー(ライダー)だ。

このレーザースキャナーは、出力により異なるが200~300mの範囲の全周をスキャンして、モノや人間、動物の形、地形を判別する役割を果たす。なお現時点では、ヴァレオ/イベオ社製(ドイツのレーザー測距スキャナーメーカーのイベオ社とティア1サプライヤーのヴァレオ社が提携)のレーザー測距スキャナーが主役になっている。

当然ながらこうした画像情報は膨大なデータ量(Googleカーの場合で1秒間に1GBといったビッグデータ)を処理する能力が求められる。さらにGoogleカーはGoogleマップやストリートビューの画像データも加えて使用するため、より多くのデータ処理を行なっているともいわれている。このため、自律型の自動運転では、センサーの精度や能力だけではなく、膨大なデータ量をいかに早く処理できるかというデータ処理能力も求められるのだ。

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ナンバーを取得した日産の実験車。レーザー測距スキャナーを備えている

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ブルーの部分がレーザー測距スキャナー

 

なお現在、開発テストを行なっている自律型の自動運転車の多くは、ルーフ上に回転しながら360度スキャンを行なう円筒状のレーザー測距3次元スキャナーを装備しているが、日産の実験車の場合は前後左右に固定式のスキャナーを装備している。

高度運転支援システムの先に自動運転という新たな次元が開かれるが、逆に自動運転技術の開発から高度運転支援システムにフィードバックされる技術もあるはずで、この二つのカテゴリーの研究・開発は同時並行で行なわれているのが現状だ。

高度運転支援システムや、自動運転システムの目的は、交通事故の大幅な抑制とCO2の削減であることはいうまでもない。また、これらの技術の目的を実現するために日夜世界中で開発が進められており、我々がそれを体験できる時代ははすぐそこまで来ているといえる。

 

国交省 オートパイロット検討会
エネルギー・産業技術総合開発機構 自動運転システム 展望と課題

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