進化する自動運転技術。ドライバー支援システムから完全自動運転に一歩近づく

Safety System

ドライバー支援システム、プリクラッシュセーフティ(予防安全)と言われるシステムの歴史を紐解くと、2008年にボルボは、衝突回避・被害軽減ブレーキ(自動減速ブレーキ・停止しない)の「シティセーフティ」を世界で初めて導入した。このときから、いろんな車種展開が始まった経緯があり、(国内導入は2010年)半自動運転を身近に感じることができるようになった。

■クルマに対する行政の取り組み方の違い
スウェーデンでは交通事故の研究を、政府や警察、大学の研究室、企業がコンソーシアムを組織し、長期的に交通安全について研究されていた背景がある。

その研究の中から、ボルボのプリクラッシュセーフティは生まれた。多くの交通事故の研究の結果、衝突事故件数のうち約75%が時速30km以下で発生していること、すなわち市街地での発生事例が多いことで、その約半数がドライバーの不注意、よそ見や他のことの気をとられているなどによって、衝突する瞬間まで全くブレーキを踏んでいない、ということがわかった。

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2010年に日本に導入されたボルボXC60が初の緊急自動ブレーキ「シティセーフティ」を搭載

こうしたことを受け、ボルボはドライバーが不注意の状態で前走車や歩行者に対して、ブレーキを踏まない状態で接近している時に、警報、さらには自動緊急停止ブレーキを作動させる「シティセーフティ」を開発したのだ。日本には2010年春にXC60に装備して導入している。

しかし当時の法的な規制(日本では国交省の規制)により、自動で停止するブレーキ機能は許されず、最大で0.4Gの自動減速ブレーキのみに限定されていた。システムとしてはミリ波レーダー、またはレーザーレーダー、カメラを採用したものがほとんどで、前走車に対する追突を軽減するという発想である。

国交省は、プリクラッシュセーフティ、つまり衝突を回避する技術の中で、ミリ波レーダーやレーダーレーザーを使用した追突防止のための自動緊急停止ブレーキは、「自動操縦化」になりかねないため否定的で、減速目的の自動減速ブレーキに限定してきた。つまり停止するためにはドライバーのブレーキ操作を必須として考えていたのだ。

しかしボルボは、30km/h以下での事故回避のための自動緊急停止ブレーキの有効性、必要性をについて国交省と交渉を重ね、2010年になって、ついに規制が改定され、30km/h以下の条件で自動緊急停止ブレーキが許可されることになったのだ。このためボルボはシティセーフティを装備したXC60を登場させることができたわけだ。なお30km/h以下でのみ作動という条件はその後に撤廃されている。

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マイナーチェンジしたレガシィに搭載されたステレオカメラ式の「アイサイトver2」

そして2010年5月、ボルボXC60登場の約1ヶ月後にマイナーチェンジしたスバル・レガシィは、国交省の規制変更に対応したアイサイトver2を装備して発表した。このシステムは10万円という、当時の常識を破る価格に設定したことで大いに注目を浴びることになる。

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スバル「アイサイト ver3」のステレオカメラによる画像認識と測距

機能的には、30km/h以下での自動緊急停止ブレーキを含むプリクラッシュ・ブレーキアシスト(ブレーキアシストの自動作動)、全車速追従機能付クルーズコントロール、車線逸脱警報、ふらつき警報、先行車発進告知機能、そしてAT誤発進抑制制御が含まれている。なお自動緊急停止ブレーキは、スバルのアイサイトの場合は、ミリ波レーダーが不得意な交差点内の前走車、歩行者、自転車なども認識できるステレオカメラを採用しているのがユニークだった。

■各社のAVSと緊急自動ブレーキ
ここで興味深いのは、ボルボだけではなく多くのメーカーが、これ以前からプリクラッシュセーフティのシステムとして、ミリ波レーダーを使用したアダプティブ・クルーズコントロールを採用していたことだ。追突が想定される走行状態では自動で減速するブレーキ機能もすでに備えていたのだ。

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ドライバー支援システムのためのセンサーの種類と特徴

世界各国では交通事故を抑制、事故被害を低減する技術を「AVS(先進安全システム研究車)」と総称し、研究開発が進められている。メルセデス・ベンツは2002年にプリクラッシュセーフティの概念と、それを具現化したプレセーフを発表。トヨタや日産も少し遅れて同様のシステムを採用した。これらのシステムの特徴は、ミリ波レーダーを装備して前方の車両との距離を測定し、自動減速ブレーキやオート・ベルトプリテンショナー(シートベルトの自動締め上げ)を作動させるものだった。

また、2002年の同年にはホンダ・アコードがC-MOSカメラ、ミリ波レーダーを組み合わせたホンダ・インテリジェントドライバーサポート・システムを市販している。一方のスバルは、1999年にステレオカメラ式のアクティブ・ドライビング・アシスト(ADA)、2003年にADA+ミリ波レーダー式を発売するなど、価格的には高価だったが、技術的なシステムは揃いつつあったのだ。

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2011年時点でのメルセデス、ボルボ、スバルのプリクラッシュ、ドライバー支援システム

またボルボはこれより以前から追突警告機能を装備しており、追突の危険を察知してドライバーに警報を発するが、これはミリ波レーダーとデジタルビデオカメラを組み合わせたシステムだ。ミリ波レーダーは30km /h 以上ではACC (車間距離警報付きアダプティブクルーズ・コントロール)の機能も持っている。

ACCを作動させると前方走行車両との安全な車間距離を保ち、希望の速度と前方走行車両との距離(=秒単位の時間)を選択するだけで、必要に応じて自動的に速度を加減速する。センサーが前方に遅い車を感知すると、自動的に前走車の速度に合わせ、進行に支障がなくなると設定された速度に戻る。車間警報機能はACC搭載車に付加され、時速30km以上の速度で作動し、前走車との適切な距離を保つようドライバーをサポートする。

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ボルボのシティ・セーフティ

また、路上でのクルマの動きを監視し、注意力散漫となったドライバーには注意喚起を促すドライバーアラートを装備している。カメラが車両と車線との距離を計測し、センサーが車両の動きを監視。つまり、通常のドライビング・スタイルから外れた操作、たとえば、車両がふらつくような蛇行運転傾向を察知すると警告音を発し、メーターパネルに休憩を促すメッセージを表示するなどの機能も備えている。こうしたACC関連システムは、他メーカーのクルマにも順次採用された。

■自動運転時代
ボルボXC60、スバルのアイサイトver2の登場以降、ドライバー支援システムは急速に普及し始める。ダイハツは2012年12月に軽自動車のムーヴにレーザーレーダー式のスマートアシストを設定したが、+5万円の価格設定で、ムーヴ購入者の70%がスマートアシスト付きを選択するなど、ユーザーはこうしたドライバー支援システムを積極的に受け入れていることがわかる。

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ボルボの最新のパイロットアシスト

普及ペースの速さでは、日本はアメリカやヨーロッパに比べると突出している。その背景には、日本の交通事故は他国と違って追突事故が極めて多いという実情を、一般のユーザーも直感的に認識しているからだろう。

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高速道路でのスバル「アイサイトver3」による操舵アシスト付きACC走行

また、ドライバー支援システムの大手サプライヤーであるコンチネンタル・オートモーティブ社の世界規模の調査でも、今後登場するであろうレベル3の高度運転支援システム搭載車に対する興味、関心も日本のユーザーがヨーロッパやアメリカのユーザーより遥かに高いと説明する。

このような背景から、ドライバー支援システムの普及は、かつてのABSの普及より速いペースになっているのだ。

The Multi Function Camera with Lidar sensor module integrates a camera and an infrared Lidar into a single compact unit.
日本車のドライバー支援システムにも幅広く採用されているコンチネンタル・オートモーティブ製の単眼カメラ+レーザーレーダー一体ユニット

衝突回避被害低減のためのプリクラッシュ・ブレーキは、現在では衝突の可能性が高い場合、自動緊急停止ブレーキ機能の対象物は、クルマだけではなく、歩行者、自転車、大型動物なども検知できるようになってきている。それはカメラの高精度化と画像認識技術の進化によるところが大きい。またこれまでは、ミリ波レーダーで歩行者の認識は難しいとされていたが、近距離ではそのミリ波レーダーでも歩行者を判別することを実現している。

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セレナに搭載される「プロパイロット」。高精度単眼カメラがメインのセンサー

それに加え、カメラは車線の検知も行ない、車線からの逸脱を防ぐために自動修正操舵を行なうレベル2のシステムも実現している。またミリ波レーダー、ステレオカメラを使用し、前走車に追従、または自動で設定速度での走行、車線維持するアダプティブクルーズ・コントロールも実現し、最近では30km/h以下といった渋滞時の自動追従+自動操舵(トラフィックジャム・アシスト)を採用するクルマも登場している。

従来はACCの作動により、自動追従+自動操舵を行なう場合は、高速道路用のシステムと位置付けられていたため60km/h以上で作動するように制限されてきたが、今ではそうした規制が解除され、渋滞時に30km/h以下でのノロノロ運転で自動追従+自動操舵が実現している。そのため、こうしたトラフィックジャム・アシスト機能を持つACCであれば事実上、郊外路や市街地でも使用が容認されている。

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日産が描く自動運転へのプロセス

これらの機能に加え、斜め後方、側方を走る他車を検知するためのミリ波レーダー、または超音波センサーを組み合わせると、ウインカーレバーの操作だけで自動的にレーンチェンジする機能を搭載したクルマも登場し、高速道路、自動車専用道路でのレベル3の自動運転はもはや目前と言える。つまり、アクセル操作、ブレーキ操作、ハンドル操作のすべてをシステムで走行するレベルだ。

ただし、現時点では高速道路、自動車専用道路での自動運転時での法的な責任の行方はまだ世界的に着地点は決まっていないのも事実。

その一方で、日本政府は2020年の東京オリンピック時にはレベル3の自動運転を、おそらく首都高速で可能にすることが決定している。そのため、2019年頃にはこれを実行できる能力を備えたクルマが登場するはずである。

自動車技術会
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