タイヤの基本をもっと知る 横力は横からの力ではないのだ

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クルマにとって「タイヤ」はなくてはならない存在だ。加速する、曲がる、止まるというクルマの走りに関する性能は、すべて最終的に路面とタイヤの間に発生する摩擦力に頼っているからだ。しかも、クルマの多くの部品は自動車メーカーが自社生産することが可能だが、タイヤに関しては、タイヤメーカーの開発、製造に依存している点も独特だ。

■クルマとタイヤの関係

クルマがこの世に登場して以来、クルマとタイヤの関係は切ってもきれないのだ。現在のような空気入りタイヤの特許が取得されたのは1845年とされているが、実際に空気入りのゴムタイヤ1888年にジョン・ボイド・ダンロップ氏が製造したのが始まりだ。この時点では、自転車用のタイヤであった。

このことからもわかるように、自動車の歴史より少し先に空気入りのゴムタイヤはこの世に登場している。そして1895年に開催されたフランスのパリ-ボルドー公道レースでミシュラン兄弟の空気入りゴムタイヤ車が完走し、その実力を証明した。ミシュラン兄弟は1890年代に空気入りタイヤの実用化、高性能化に取り組み、有力なタイヤメーカーとなった。

ミシュラン
ミシュラン兄弟がパリ-ボルドー公道レースに空気入りゴムタイヤを使用

同時代のドイツではソリッドゴムタイヤを製造していた「コンチネンタル弾性ゴム・グッタペルヒャ社」は1892年に空気入りゴムタイヤの製造を開始している。またゴム製のタイヤの弾性、強度を高めるための化学処理である硫黄成分を加える「加硫」はアメリカ人のチャールズ・グッドイヤー氏により発明され、その名を冠したアメリカのグッドイヤー社も1900年代始めに自動車用の空気入りタイヤを発売している。

このようにタイヤとクルマは、歴史の歩みをともにしており、クルマにとってタイヤは不可欠な存在であることが分かる。

■タイヤの基本性能 横力は横からの力ではない

タイヤは、クルマの荷重を支える、タイヤと路面との摩擦力を生かして加速・減速する、曲がる。そして空気入りタイヤの特長を生かし振動を吸収するといった役割を持っている。加速や減速などはダイレクトにタイヤのゴムが発生する摩擦力に左右されるが、曲がる、コーナリングする働きは少し複雑だ。

タイヤ力学クルマが微低速であれば、ハンドルを切り、タイヤが向いている方向に転がることで曲がることができることは容易に想像できるが、より車速が高くなり遠心力が発生するようになると、遠心力に釣り合う横向きの力が発生しなければコーナリングができない。

接地面変化
ブレーキ時、コーナリング中のタイヤの接地面の形状

遠心力と釣り合う横向きの力を「横力」と呼ぶ。これはハンドルを切るとタイヤはそれまでの進行方向に対してハンドルを切った分だけ角度が付けられ、それまでの進行方向を向いている接地面は横方向にねじられる。このねじれ力が横力となるのだ。

ねじれ力は遠心力(つまりコーナリング速度)が小さい範囲では路面と粘着したまま横力を生み出すが、よりコーナリング速度が高くなり遠心力が増大すると路面と接地面の間に滑りが発生するようになる。この滑りが発生している状態、実際の進行方向とハンドルによって切られたタイヤ角度には差が生じ、その角度差をスリップ角と呼ぶ。またその時に発生している横力をコーナリングフォースと呼ぶ。

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タイヤの構造

このスリップ角がついた状態で発生した力=コーナリングフォースによりクルマは曲がることができるのだ。また、タイヤが発生するコーナリングフォースは、タイヤにかかる荷重に比例し、スリップ角が5度~10度弱の範囲でコーナリングフォースは最大となる。

もちろん荷重が限界を超える、あるいはスリップ角が10度を超えるような状態になるとコーナリングフォースは急激に低下、つまり横方向のグリップ力は低下する特性を持っている。

■タイヤに求められるもの

タイヤの基本性能に加え、実際には雨天での排水性能、乗り心地、耐荷重や耐速度性能なども重要だ。排水性能は路面上の水分を接地面から排除し、ハイドロプレーニング現象が起きないようにすることで、乗り心地は、路面の凹凸に対してタイヤがたわむことで衝撃を吸収する。

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タイヤに求められる性能

耐荷重性能は、クルマの重さに応じた基本構造で、対速度性能は高速になるほどタイヤにかかる遠心力が増大するため、より強固な構造にする必要がある。このためタイヤは、どのクルマにも適合するわけではなく、車両重量や想定される最高速度に合わせた構造が必要となる。

排水性能はトレッドパターンや排水溝の面積や深さに関係し、溝を太く深くすれば排水性能は高まるが、加速・減速やコーナリングでの性能を考えると溝の面積や深さは浅くしたい・・・といったように背反する性能をどのようにバランスさせるかがポイントになる。

ハイドロ
水たまりを走行中のタイヤを下面がら見た写真

また乗り心地やグリップ性能を高めるためには、タイヤ内の空気量をより多くすることが望ましいが、現在のクルマはより大径のブレーキが必要となり、またタイヤそのものの外径もデザイン、ホイールハウスの大きさの制約から空気量を多くできないという縛りがある。

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路面の突起を乗り越える時に衝撃入力を吸収するタイヤ

結果的に、外径の制約とブレーキサイズの拡大に合わせ、タイヤは偏平化せざるを得ない時代になっている。タイヤの偏平率は長らく82~80偏平が維持されてきたが、1980年代に入ると、70、60と偏平化し、現在の高性能車では40~30偏平のタイヤまで登場している。

タイヤ表示

タイヤの偏平化によりタイヤの空気容量が少なくなり、構造は硬くなり、さらに接地面の形が従来の縦長の楕円形から横長方形へと大きく変化し、タイヤ本来の性能から言えば好ましい傾向とはいえなくなっている。

扁平率
偏平率
ロードインデックス
タイヤのロードインデックス
速度レンジ
タイヤのスピードレンジ

接地面が横長の偏平タイヤは、乗り心地、ワンダリング(わだちでのハンドルの取られ)、コーナリング時の設置面積の変化が急激で、グリップが急に失われるなどの本質的な問題があるが、これを新しい技術で対応しているのが現状なのだ。

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幅の狭い大径タイヤと偏平率の大きなタイヤの接地面形状(フットプリント)の相違

■タイヤの製造

一般的にはタイヤはサイズの違いこそあれ、鯛焼きのように作られていると思われがちだが、実際のタイヤ製造には多くの材料、長い製造ライン、多数の人手、工数を要している。

タイヤ材料
タイヤの材料

またタイヤの目的、対象車種に合わせ、ゴムの材料も異なり、タイヤの部位ごとに最適なゴムになるように多数の材料を混ぜ合わせ、必要な長さに切断。多くのゴム材やスチールワイヤー、繊維などを組み合わせて1本ずつタイヤを組み立て(成形)ている。組み立てられたタイヤを大きな加硫器に入れて加熱・加硫を行ない、ようやくタイヤが完成するのだ。タイヤを組み立てるには人間の手作業を要している。

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もちろん現在では全自動化されたタイヤ製造工程も一部には存在するが、まだ多くにタイヤは人間の手で1本ずつ成形されているのだ。

製造2またこうした製造工程から分かるように、タイヤの材料として何をどのように使うかによってタイヤの性能、性格は全然違ってくる。例えばトレッド部のゴムの性質が、よりグリップ力の高いゴムか、あるいは、より変形しにくい燃費向けのゴムか、または軽量で強靭だが高価なアラミド繊維(ケブラー)を補強材に使用するか・・・などによってタイヤ性能には違いが生じるのだ。

現在のタイヤの多くはオープン価格制度になっているが、当たり前かもしれないが、目安としては高価なタイヤほど高級で高性能な材料が使用され、結果的に高性能ということができる。

■タイヤの種類とポジショニング

現在のタイヤは、大きく分けて2種類ある。ひとつはOEMタイヤ。OEMタイヤは純正装着タイヤと呼ばれ、タイヤメーカーが自動車メーカーに直接納入するタイヤだ。こうしたOEMタイヤは、自動車メーカーがクルマを開発する段階でタイヤメーカーを呼び、クルマのパワーや重量、開発コンセプトに合わせたタイヤの開発を要求する。

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タイヤの製造年月の表示

タイヤメーカーは、要求に合わせた専用のタイヤを開発し、自動車メーカーの試作車でタイヤとクルマの適合性をチェックし熟成される。多くのクルマは複数のタイヤメーカーのタイヤを装着するが、中には1タイヤメーカーの製品に絞られることもある。

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日本・アメリカ・ヨーロッパのタイヤの規格

また、ポルシェ社のように純正装着タイヤではないが、タイヤメーカーが希望すれば純正装着タイヤと同等の性能を持っているかどうかがテストされ、純正装着タイヤと同等と認定されたタイヤには認証を与える、といったやり方もある。逆に言えばポルシェが認証したタイヤ以外のものをユーザーが使用した場合はポルシェ社の保証は受けられないのだ。

ただし、純正装着タイヤはタイヤショップには在庫されておらず、購入することができないのだ。実は純正装着タイヤは、自動車メーカーの純正部品番号が付与されており、自動車ディーラーで購入できるようになっているが、当然ながら割高だ。例外的にコンチネンタルタイヤだけは、タイヤショップで、注文、購入することができる。

このように、クルマの性格により程度の差こそあれ、純正装着されるOEMタイヤは、いわば専用開発されたそのクルマ専用タイヤなのだ。

■市販補修用タイヤとは

こうしたOEMタイヤと反対なのがもう一つのタイヤ、補修用(リプレイス)タイヤと呼ばれる市販タイヤである。いわゆる街のタイヤショップで販売されているのは、この補修用タイヤである。

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純正装着タイヤの性能が年々向上し、それに対応して補修用タイヤの性能を向上させた例(ブリヂストンの純正装着タイヤ「エコピアEP150」と同等性能で発売される「エコピアNH100」

補修用タイヤは、純正装着タイヤと同じサイズであっても、当然ながら構造やゴムの材料などが異なっている。補修用タイヤは、同じタイヤサイズの多くの種類のクルマに装着されるため、タイヤの開発段階ではそのサイズの代表車種でテスト・熟成されることが多いが、当然ながらすべての適合車種でテストをするわけではない。

もうひとつ補修用タイヤがわかりにくいのは、多くのブランドが存在し、同一タイヤメーカーの中でも複数のブランドがあることだ。

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そのため、補修用タイヤはブランドによるポジショニングの違いを理解していないと最適なタイヤを選択するのは難しい。ブランド・ポジショニングは、大別するとスタンダードタイヤ(製造コストを押さえた、より低価格のタイヤ。総合性能も低い)、コンフォート・タイヤ(乗り心地や静粛性に特化したタイヤ)、ハイパフォーマンス・タイヤ(純正装着タイヤよりグリップ力だけでなくウェット性能や操縦性など総合性能が高いタイヤ)、スポーツタイヤ(耐摩耗性、低燃費性能などより加減速やコーナリングのグリップ性能を最重視)、エコタイヤ(純正装着タイヤと同等レベルでより低燃費性能を重視)といった種類がある。価格的には、スポーツタイヤ、ハイパフォーマンス・タイヤは最も高価な設定になっている。

ユーザー側の視点に立てば、補修用タイヤは、自分のクルマに対してどのようなこだわりを持つかによって選択肢は違ってくる。純正装着タイヤと同等以上のタイヤにしたいのか、車検をパスできればよいのか・・・見た目重視なのか、性能重視なのか、オーナーの価値観が問われるのである。

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