世界最大級の車載バッテリー・メーカー「CATL(寧徳時代)」と、中国自動車大手の長安汽車は2026年2月5日、世界初となる量産型ナトリウムイオン電池搭載車を初公開した。
発表の舞台となったのは内モンゴル自治区フルンボイル市ヤクシで、マイナス40度という極寒環境での性能実証も兼ねていた。

披露されたモデルは「長安 啓源(Nevo) A06」で、CATLが開発したの最新ナトリウムイオン電池「Naxtra(ナクストラ)」を搭載。2026年夏頃にも市販を予定しており、EV用電池技術における重要な転換点となる。

CATLは2021年に最初のナトリウムイオン電池を発表し、その後も開発を続けてきており、第3世代として開発された「Naxtra」は、セル単体のエネルギー密度は最大175Wh/kgに達する。これは現在主流となっているリン酸鉄リチウム(LFP)電池に匹敵する水準であり、ナトリウムイオン電池がEV向けで現実的な航続距離を確保できる段階に入ったことを示している。

ナトリウムイオン電池は、充放電を繰り返し使える二次電池の一種で、現在主流のリチウムイオン電池に代わる「ポストリチウム電池」の有力候補のひとつだ。リチウムの代わりに、海水から容易に製造できる食塩(塩化ナトリウム)を使用することで、リチウムより圧倒的に安価で資源量はほぼ無限である。そのナトリウムを電池内の電荷の運び手として使うのが特長だ。

ナトリウムイオンはリチウムイオンよりイオン体積が約2倍、原子量が約3倍と大きいため、リチウム電池で採用されている黒鉛の層間には入り込めず、層間の広いハードカーボンが負極として使用されていた。しかしCATLはこれをブレイクスルーして、「自己形成アノード(負極)技術」、つまり初回充放電時に電極内部でアノードを形成させる方式を開発し、充電の過程でナトリウムイオンが集電体上に析出(せきしゅつ・個体が分離すること)してアノードとして機能する仕組みとしている。
このため、アノード材そのものの体積・重量が削減可能で、 同じサイズ、重量のセルでも蓄電量を増大可能で、重量当たりのエネルギー密度(Wh/kg)が大幅に向上。CATLは約50%増になるとしている。
また、リチウム電池では負極集電体に高価な銅箔が必須だが、ナトリウム電池は安価なアルミ箔を両極で使用できるため、材料コスト削減が可能だ。ただし、ナトリウムイオン電池のエネルギー密度は従来は00~160Wh/kg程度で、リチウムイオン電池に比べて劣るため、EV用途には不向きとされてきた。
しかしCATLは、ナトリウムイオン電池のエネルギー密度を高める技術の開発と量産化技術を可能にし、エネルギー密度は最大175Wh/kgを実現。希少資源であるリチウムへの依存から脱却できることを実証した。
「長安 啓源(Nevo) A06」に搭載される45kWh容量のバッテリーパックにより、CLTC基準(ヨーロッパWLTPとほぼ同一)で航続距離は400km超。将来的には500~600kmへの拡大も予想されている。

CATLの「Naxtra」バッテリーの最大の強みは耐寒性能でマイナス40度Cでも容量90%を維持することができる。したがってリチウムイオン電池のように寒冷地での加熱・保温が不要になるのだ。
ナトリウムイオン電池とリチウムイオン電池の比較では、「Naxtra」はマイナス30度CでLFP電池の約3倍の放電出力があり、マイナス40度Cでも容量保持率90%以上あり、最低はマイナス50度Cまで安定的な放電が可能とされている。
またコスト的な視点では、リチウムイオン電池は希少資源リチウムへの依存、価格変動のリスクがあり、リチウムイオン電池が高コストである理由になっている。一方、ナトリウムは塩を主成分として地球上に豊富に存在しており、価格は極めて安い。CATLは量産が進めば材料コストが大幅に低減し、10ドル/kWh以下、つまりリチウムイオン電池に比べて1/10以下にすることができるとしている。つまりEVの車両価格そのものを大幅に引き下げることができるわけだ。
ナトリウムイオン電池「Naxtra」のもうひとつのメリットは、安全性だ。CATLは、圧壊、穿孔、切断などのテストでも発煙・発火なし、爆発なし、切断後も放電継続という結果を公表しており、3元系リチウムイオン電池に内在する熱暴走リスクの低減が可能となる。
この特性はEV用途だけでなく、定置型蓄電池への展開可能性にも有利である。
さらに「Naxtra」は、充放電サイクルは1万回以上とされ、きわめて耐久信頼性が高いことも特長になっている。

CATLは長安汽車傘下の全ブランドに「Naxtra」を供給する方針を発表した。さらに2026年までに中国140都市で3000ヵ所超のバッテリー交換ステーションを整備し、そのうち600ヵ所以上を北部寒冷地域に配置する計画も打ち出している。
CATLは今後、EV用電池がリチウムイオン電池一択ではなく、今後は高性能・長距離用途として3元系リチウムイオン電池を位置づけ、ナトリウムイオン電池は低コストEV、寒冷地用途に位置づけ、用途別の棲み分けが進むと想定している。
今回の内モンゴル自治区でのCATL、長安汽車の発表は単なる技術デモではなく、量産車投入、すなわち量産化の節目である点が重要だ。世界EV電池市場で約4割のシェアを握るCATLが本格参入することで、ナトリウムイオン電池は一気に現実味を帯びてきた。
なお、CATLは世界No1の電池メーカーとして、全固体電池の開発も進めており、この点でも注目しておく必要がある。













