2016年5月26日、警察庁は各メーカー、サプライヤーがすでに実施しているプロトタイプ車による公道での自動運転実証実験について、ガイドラインを公表した。このガイドラインでは、交通の安全と円滑を図るために、「適正かつ安全な公道実証実験」を進めるために決められた。
■警察庁が目指す自動運転車の公道実証実験の内容
このガイドラインは、独自の方法で行なう公道実証実験を禁止するわけではなく、実施しているメーカーにとって有用な情報を提供し、その取り組を支援することを意図している。つまり、関係法令や自動走行システムに関する公道実証実験についての調査検討結果を踏まえての判断ということになる。また、このガイドラインに適合しない公道実証実験を行なう場合には、十分な時間的余裕を持って、実施場所を管轄する警察に事前相談をして欲しいとしている。
ガイドラインでは、法的には以下の条件を満たせば、場所や時間にかかわらず公道実証実験を行なうことができる。
・走行実験車両が道路運送車両の保安基準の規定に適合していること。
・ドライバーが実験車両の運転席に乗車し、常に周囲の道路交通状況や車両の状態を監視(モニター)し、緊急時等には、他人に危害を及ぼさないよう安全を確保するために必要な操作を行なうこと。
・道路交通法を始めとする関係法令を遵守して走行すること。
これはドライバーが緊急時に必要な操作、つまりオーバーライドができる自動走行システムであることが前提であり、無人の完全自動運転車は想定の対象となっていない。
一般の道路利用者が利用する公道で、まだ実用化されていない自動走行システムを用いて自動車を走行させることは、交通の安全と円滑の確保に支障をおよぼす場合があり得ることを認識し、メーカーは十分な安全確保措置を講ずる必要があるとガイドラインは定めている。
■ガイドライン
またガイドラインでは、メーカーは公道における実証実験を行なう前に、テストコース、サーキット、公的試験設備などで様々な条件や事態を想定した走行を十分に行ない、実験車両が、自動走行システムを用いて安全に公道を走行が可能であることを確認するべきとしている。
クローズドコースでのテストで確認を終えてから当分の間は、想定外の事態が生じにくいと考えられる交通量の少ない道路や自動車専用道路や高速道路などで公道実証実験を行なう。そして、十分にその安全性が確認されてから、徐々に公道実証実験の環境を変えるなど、安全性を確認しながら段階的に実施されるべきだとしている。
またガイドラインでは、メーカーはすでに公道実証実験で一定の安全性が確認されている自動走行システムに新たな機能を付加する場合には、自動走行システムの機能や実施しようとする実験内容に応じて、改めてクローズドコースで確認から始めるべきだとしている。
ガイドラインで重視されている点は、実施しようとする公道の道路交通環境を事前にメーカーが確認し、公道実証実験の目的や内容、そして走行する公道の状況に応じて適切な安全確保措置を講ずるべきとなっている。
具体的には、テストドライバーに加え、テストドライバー以外の者が実験車両に同乗し、自動走行システムの状況を監視(モニター)すること。つまり、周囲の道路交通状況を監視(モニター)するテストドライバーとの役割分担を行なうことが望ましいとしている。それ以外では実験車両と併走するなどして安全を確保する車両も用意することなども推奨されている。
さらに実験車両本体に自動運転に関する公道実証実験中である旨を表示したり、地域住民や道路利用者に対し、チラシ、看板等により公道実証実験の実施日時、実施区間を事前に広報するといったことが求められている。
■テストドライバーには
次はテストドライバーに求められる義務について。
テストドライバーは、運転免許を保有し、常に道路交通法を始めとする関係法令における運転者としての義務を負い、仮に交通事故や交通違反が発生した場合には、テストドライバーが常に運転者としての責任を負うことが前提とされている。
したがってテストドライバーは、相当の運転経験を持ち、運転技術に優れていること、実験車両の自動走行システムの仕組みや特性を十分に理解していること、公道実証実験の実施前に、実験施設等において、自ら実験車両の自動走行システムを用いて運転し、緊急時の操作に習熟していることが求められる。
またメーカーは自動走行システムの実用化に向けた検証のため、テストドライバーの要件を満たさない一般的なドライバーが搭乗する場合には、熟練したテストドライバーにより十分に実験車両の自動走行システムが公道において安全に機能することを確認すること、公道実証実験の実施前に、ドライバーに対し、システムの特性、想定される緊急時等における具体的な対応要領などの説明を行なってこれを理解させる、テストドライバー以外のシステムの仕組みや特性を十分に理解した者が実験車両に同乗し、緊急時等に必要な操作を補助するなどが求められる。
ガイドラインによれば、自動運転での走行中はテストドライバーは必ずしもハンドルなど操作装置を保持している必要はないが、常に周囲の道路交通状況や車両の状態を監視(モニター)し、緊急時等に直ちに必要な操作を行なうことができるようにすることが求められる。
したがって、見通しが良い交通量が少ない場所や、緊急時の操作を行なう可能性が低い場所では、アームレストや膝の上に手を置くなど、リラックスした態勢でも差し支えないとされるが、見通しの悪い場所や交通量が多い場所など、緊急時の操作を行なうことが想定される場合は、ハンドルを把持する、または瞬時に操作できるよう手を操作装置の至近距離の位置に保つことが求められる。
ガイドラインの要旨は、自動走行の実験車両はテストドライバーが緊急時等に安全を確保するために必要な操作を行うことができるものでなければならず、したがってGoogle Carが提案しているようなステアリングやペダルのない車両は認められないわけだ。
さらにガイドラインでは、公道実証実験に用いる自動走行システムは、自動走行を開始、あるいは終了する場合に警報音を発するなどテストドライバーへ明確に警報し、実験車両の操作の権限の委譲が適切に行なわれるようなものとすべきとしている。
それに加えメーカーはサイバーセキュリティを踏まえ、公道実証実験を安全に行なうために、適切なサイバーセキュリティの確保に努めなければならないとされる。また公道実証実験中に発生した交通事故、交通違反の事後検証を行なうことができるように、ドライブレコーダーやイベントデータレコーダー等を搭載することが求められる。
またメーカーは、より新しい技術を採用した自動走行システムに関する公道実証実験や大規模な公道実証実験を実施する場合は、その内容に応じて実験車両、自動走行システムの機能、実施場所における交通状況、道路上の工事の予定、道路環境・道路構造などを踏まえた助言等を受けるため、実施場所を管轄する警察、道路管理者、地方運輸局に公道実証実験の計画について事前に連絡するべきとガイドラインは定めている。
■なぜ自動運転の公道実験は加速しているのか?
自動運転の実現に向けて実は、アベノミクスの第3の矢「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」のひとつと位置付けられ、内閣府がとりまとめを行ない、経済産業省、国土交通省が両輪となって動いている。国家目標としては交通事故の低減、ITSと連携した自動走行の実現、東京オリンピック・パラリンピックを一里塚として、東京都と連携し開発・実現を目指すことが目標とされている。
自動運転車が公道で実験走行を行なうためには実験車はナンバーの取得が必要となるが、「戦略的イノベーション創造プログラム」の公表を受けて、ナンバーは簡単に得られるようになっている。これまでに日産、コンチネンタル、トヨタ、ホンダなどが実験車のナンバーを取得し、日産、トヨタは自動車専用道路、高速道路だけでなく市街地での走行も行なっている。
そして、公道での走行ではステアリングホイールは手放しは許されるのか、手を添えているべきなのか・・・経産省、国交省の判断は微妙なところがあったが、今回は警察庁が公道でのガイドラインを決定し公表したことで、これが日本での自動運転の公道でのスタンダードになると予想される。