内閣府がリードする「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」の重要なプログラムの一つである「自動運転」が、いよいよ公道での実証実験段階に突入する。2019年9月5日に、SIP・自動運転が主導する「東京臨海部実証実験」の概要がメディア向けに説明会を開催し、東京の羽田地区、台場などの公道での実証実験の内容が明らかにされた。
自動運転はSIPの重要なテーマ
「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」は、日本経済再生と持続的経済成長を実現するに科学技術イノベーションが不可欠という政策的な判断により、内閣府総合科学技術・イノベーション会議が司令塔となり、府省庁の枠や旧来の分野を超えたマネジメントにより、科学技術イノベーション実現のために創設した国家プロジェクトだ。
国民にとって重要な社会的課題や、日本経済再生に寄与できるような世界を先導する重要なテーマを上げ、それぞれの課題に取り組むこととし、産学官連携を図り、基礎研究から実用化・事業化までを見据えて研究開発を推進。経済成長の原動力であり、社会を飛躍的に変える科学技術イノベーションを強力に推し進めて行くとしている。2013年にSIPの企画がスタートし、2014年から2018年が第1期SIPとされ、2019年6月から第2期がスタートしている。
「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」で決められた各テーマの中でも「自動走行システム:自動運転」は重視され、第1期でも全国各地での実証実験を含めて展開された。そして第2期では、「自動運転(システムとサービスの拡張)」をテーマにして継続されている。
SIP第2期「自動運転(システムとサービスの拡張)」とは?
2019年6月からスタートしたSIP第2期では、自動運転と社会との関わりが大きなテーマになっている。
このテーマの目標は、自動運転の実用化を高速道路から一般道へ拡張し、自動運転技術を活用した物流・移動サービスを実用化することで交通事故低減、交通渋滞の削減、過疎地等での移動手段の確保や物流業界におけるドライバー不足等の社会的課題解決に貢献することとされている。なおこのプログラムの政府予算は31億円余とSIP第2期の各プログラムの中でも最高になっている。
具体的な目標は、乗用車は2025年頃までに高速道路でのレベル4(完全自動運転)の実現、一般道におけるレベル2以上の高度運転支援システムの実現、移動サービスでは2020年までに限定された地域で無人自動運転(レベル4)の実現、物流サービスでは、2025年以降に高速道路でトラックの完全自動運転(レベル4)の実現を目指すことにしている。
こうした目標を実現するためには、ソサエティ5.0(仮想空間と現実空間を融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する新たな未来社会像)を前提に、ビッグデータ、社会インフラなどを使用した自動運転技術の発展を目指している。
研究・開発の分野では、高精度デジタル・ダイナミックマップ、人工知能などを用いた制御システム、人間とクルマとの協調(HMI)、そして自動運転技術が登場した段階での社会的受容性などだ。また同時に、国際的な協調・標準化、今後の課題である社会的受容性も検証される。
葛巻プログラム・ダイレクターによれば、特に自動運転の実現には不可欠なダイナミックマップ(高精度3次元マップと動的な交通情報など付加的データを重ね合わせた位置情報)の開発や共通ルールの策定を重視しているという。その背景には、こうしたダイナミックマップ技術はヨーロッパのサプライヤーなどが先行し、日本では立ち遅れているからというのが理由だ。
もうひとつ大きなテーマは、インフラ協調型の自動運転の推進だ。車載センサーでは取得が難しい、信号機やETCゲートからの情報、交通情報などを利用してよりハイレベルの自動運転を実現しようというもので、いわばITS(高度道路交通システム)との連携だ。
2020年に羽田地区・台場地区で走行
2019年10月頃から今回の実証実験の準備が開始され、2020年には東京・臨海副都心地区で本格的な実証実験が開始される。もちろんこのタイミングは、オリンピック、パラリンピック開催に合わせ、世界に発信するという狙いもある。
このプロジェクトには内外の自動車メーカー、内外のサプライヤー、ベンチャー企業、大学など28機関が参加し、実際に実証実験で走行する車両は自動運転車、高度運転支援車など合計100台ほどになる見込みだ。また、この実証実験に合わせ、フィードバック付き信号機、合流のためのETCゲート支援情報。車線別の交通情報などのインフラが該当地区に整備され、高精度3次元マップも使用される。
東京の台場、有明、青海地区では32ヶ所の交差点に信号情報や信号切替情報が発信できるITS無線通信式の信号機が設置される。実験車は、無線通信により信号情報が取得でき、さらに信号の青から赤などの切り替えタイミング情報を取得することで、毎度赤信号で止まらなくて済むように速度調整を自動で行ない、青信号で連続的に走行することが可能になる。
首都高速では空港西-汐留間、空港中央-臨海副都心間でも自動運転、高度運転支援車の走行が行なわれ、これに合わせて本線の走行車両の車線ごとの通行情報が、合流部に入る自動運転車に提供されるシステムも採用。またETCゲート部は本線を走行する車両の情報最適なETCレーン情報などを自動運転車に送信し、円滑な本線合流を目指す。
こうした乗用車を前提にした自動運転の実証実験に加え、羽田空港(国際線ターミナル-天空橋)では、自動運転技術を搭載したバスの公道実証実験も行なわれる。これは様々な車両が走行する混流交通の一般道で、自動運転バスが効率的に、円滑に運用できるか、バス停に正確に停止できるかなどが試される。この自動運転(インフラ協調型のレベル4)バスの実証実験にはトヨタ、ジェイテクトが参加する。
このように首都高速、羽田地区、台場、有明、青海地区で、公道を使用し一般車両との混合状態での実証実験であり、非自動運転の一般車両とどのように両立できるか、一般車両は走行中の自動運転車両をどう認識するか、という社会的な受容性についても貴重なデータが得られるはずである。
またこうした大規模なプロジェクトをより一般的に認知してもらうために、新たにWEBサイトを開設したり、2020年7月には1週間をかけて合計7000人規模の体験試乗会も実施するとしている。
東京臨海部実証実験の実施について SIP「自動運転(システムとサービスの拡張)
内閣府 戦略的イノベーション創造プログラム