いまさら訊けない!? スタッドレスタイヤの常識


アイスバーンでのグリップ力とは

クルマはタイヤと路面との摩擦力により、走る、曲がる、止まるという運動を行っているが、その摩擦力(正確には摩擦係数)=ミューは、路面によりどの程度の違いがあるのだろうか?
乾燥した舗装路ではミュー=0.7?0.8、雨天時の舗装路面ではミュー=0.5、雪路=0.3?0.5、圧雪路=0.2?0.3、アイスバーン=0.2?0.1以下とされている。
雪路、圧雪路、アイスバーンは、いずれも表面の状態、そのときの気温によりミューは大きく変化するが、氷上=アイスバーンで気温が0度を少し上回る状態ではミューは0.1以下になり、人間がゴム靴などを履いていても歩くのは困難な状態となる。逆にアイスバーンでも気温が0度以下、あるいは-10度といった状態ではミューは増大しグリップ力は大きくなる。
したがってスタッドレスタイヤは、ミュー=0.1以下のきわめて滑りやすいアイスバーンの上でいかにグリップ力を発揮できるかが勝負になる。
いいかえれば、北海道の札幌など都市部でのアイスバーン、ブラックバーンという最も滑りやすい厳しい路面条件をターゲットに、スタッドレスタイヤは開発されている。

 

スタッドレスタイヤの発祥について

スタッドレスタイヤは、1980年代まで北海道・東北地域で主流だったスパイク(スタッド)タイヤに代わるべく開発された冬用タイヤ。金属スタッド(スパイク)をトレッド部に埋め込んだスパイクタイヤはアイスバーンで高い性能を発揮したが、雪や氷が薄い道路の舗装面を損傷させ、大量の有害な粉塵が発生するため、1991年に使用が全面禁止された。
このため、1980年代後半から使用禁止の規制を見越して開発されたスタッドなし(スタッドレス)のタイヤをスタッドレスタイヤと呼ぶ。スタッドレスタイヤはアイスバーンでの性能を従来のスパイクタイヤと代替すべく開発された日本独特のウインタータイヤ。
海外でも同様にパイクタイヤは禁止されたが、海外のほとんどの地域は日本より低温のアイスバーンであり、これに適合させているため日本のような表面に水が浮くアイスバーンには適合しない。
したがって日本のスタッドレスタイヤはアイスバーン、特に昼間に溶け、夜間に凍結する都市部のアイスバーン、いわゆる氷上性能を最重視して開発されている。このため、開発時には主としてスケートリンクやスケートリンクを再現したテストコースが使用される。
アイスバーンでの摩擦=グリップ力を得るために、低温でも弾力を保つゴム、アイスバーン表面の水膜を吸水する構造、さらに接地面積を最大限にするためにスクエアショルダー形状を採用している。
このような特徴があるため、積雪路、ドライ路面、特に高速道路、雨天での性能は高くない。

 

ウインタータイヤ、オールシーズンタイヤとの違い

日本では、現在は冬用タイヤといえばスタッドレスタイヤとされているが、スパイクタイヤの時代はスノータイヤと呼ばれる積雪路用のウインタータイヤも存在した。スノータイヤは文字通り、新雪を含む積雪路、圧雪路に適合するタイヤで、トレッドパターンはトラックタイヤのような大きなラグパターンを持っているのが特徴。新雪を踏み固めながら摩擦力を得るコンセプトである。
ヨーロッパや北米ではウインタータイヤと呼ばれる冬用タイヤが主流となっている。日本のスタッドレスタイヤと比べると低温のアイスバーンを前提とし、ドライ路面での高速性能や耐久性を重視している傾向がある。
またオールシーズンタイヤと呼ばれるカテゴリーがあり、これは主として路面や気象変化の幅が広いアメリカの乗用車用、SUV車に使用され、アメリカではほとんどのクルマの標準装着タイヤとなっている。オールシーズンタイヤは、夏のドライ路面、砂利道、泥濘路、積雪路でも一定のの性能を確保したもので、厳密に言えば冬用のタイヤではないので注意したい。

 

スタッドレスタイヤにもトレンドがある

数年前まで、タイヤメーカー各社はアイス性能を向上させることをスタッドレスタイヤの開発の主軸に置き、アイスバーンの上でのグリップ力の性能を競ってきた。そのことは寒冷地に住むユーザーにとっては切実な願いであり、メーカーはユーザーの声に応えるため技術とコストを惜しみなく投入してきた。これはスパイクタイヤの後継として世に生み出されたスタッドレスタイヤの宿命だったとも言えよう。
いっぽう、近年の急激な地球温暖化により、積雪地区でも雪のない道路を走る機会が増えてきており、そうしたことからドライ路面の走行安定性や省燃費性能をプラスした製品が登場してきた。
さらにSUVやミニバン向きの製品や、アスペクトレシオ40、35という低偏平サイズも充実してきており、ユーザーの幅広いニーズに応えてくれる。
またミシュランやピレリなどの海外メーカーは、ヨーロッパ向けのスタッドレスタイヤが日本の北海道・東北地方の冬季路面に適合しないため、約20年前に開発部隊を札幌に送り込み、日本市場専用のスタッドレスタイヤを開発し、日本メーカーに比肩するアイス性能を実現している。

 

速度記号(スピードレンジ)の落とし穴

速度記号とは規定の条件下でそのタイヤが走行できる最高速度を示す記号のこと。ふつうの夏タイヤでは、速度記号S(180km/h)やH(210km/h)が一般的で、高性能車のなかにはW(270km/h)などという記号も見受けられる。これに対して、スタッドレスタイヤの多くは速度記号Q(160km/h)である。実際に160km/hも出すことはないのでこれで十分と思うかもしれない。最新のスタッドレスタイヤにはT(190km/h)のものもあり、スタッドレスタイヤも夏タイヤと変わらなくなったと思う向きもあろうが、速度記号だけで高速性能を判断するのは御法度。たとえTレンジでも、スタッドレスタイヤは冬タイヤ。夏タイヤと異なる性格を持っていることを忘れずに、余裕を持ったドライビングを心がけたい。
しかし、Q規格はアイス性能専用、T規格はアイス性能とドライ性能の両立を追及したタイヤという識別の手がかりにはなることは知っておきたい。

 

最新のスタッドレスタイヤも万能ではない

スタッドレスタイヤは低温下でも柔軟性を失わないゴムを使い、氷上でグリップするトレッドパターンを有している。また、氷上でのひっかき効果と吸水効果を高めるために、ゴムに気泡や特殊な繊維を配合しているタイプもある。いうまでもなく、これらの技術は冬期の使用を前提としたものだから、路面温度が高い夏場などの使用には適さない。スタッドレスタイヤは年々改良されてきており、雪道以外での性能も向上してきてはいるが、それでも夏タイヤとは剛性、ウエット性能、ドライ路面でのグリップ性能はかなり違う。ウエット路面でのブレーキなどでは、通常の夏タイヤとは制動距離が大きく異なることには特に注意したい。

 

慣らし走行が必要な本当の理由

スタッドレスタイヤを新調したら、ゆっくり丁寧に一定の距離を走る“慣らし走行”が必要だ。その理由のひとつは、夏タイヤと同じで、文字通りタイヤとホイールを慣らすことにある。特にスタッドレスタイヤの場合、慣らし走行にはもうひとつ別の意味がある。スタッドレスタイヤは氷上性能を高めるためにゴムに気泡を入れたり、特殊な繊維を配合したりしているが、これらは慣らし走行をしてゴムがひと皮むけないと露出しない。つまり本来の性能を発揮できないのだ。スタッドレスタイヤは必ず慣らし走行は行いたい。その方法はドライ路面を50km?100kmも走れば十分だ。

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