「氷に効く。永く効く。燃費に効く。」という印象に残るキャッチフレーズの横浜ゴムのスタッドレスタイヤ。前回は、横浜ゴムのスタッドレスタイヤにおける技術的ヒストリーを追ったが、今回はいよいよ最新の「iceGUARD 5 PLUS(アイスガード ファイブ プラス)」のテクノロジーと、性能について迫ってみる。
ヨコハマタイヤの新商品であるアイスガード ファイブ プラスは、2012年に発売したアイスガード ファイブから3年を経て登場した5.5世代と位置付けられるスタッドレスタイヤだ。開発にあたり、アイスガード ファイブ プラスの企画・構想を固めるために、市場・ユーザー調査が行なわれていた。
その調査結果として、氷上でのブレーキ、雪上ブレーキでのさらなる性能向上を求める声がトップ2となった。消費材製品企画部・製品企画2グループの小畑恒平氏は、「この氷上、雪上でのブレーキ性能に対する要求は、以前からのトップ2要件で、これはスタッドレスタイヤに対する声としては変わらないと思います」と語る。
その一方で、効き目の持続性、耐摩耗性、燃費を向上させて欲しいというユーザーの声も少なくない。「弊社のスタッドレスは省燃費性能において、じつは従来からそんなに悪くなかったのです。しかし、実際の使用場面となる寒冷地では、暖機運転が長いとか、発進加速時にタイヤを空転させる、などの実用面での使い方が影響し、一般的にスタッドレスでは燃費が悪くなるいというイメージが定着しているのかと思います」(タイヤ第一設計部・設計2グループリーダー 橋本佳昌氏)
しかしそうは言っても、氷上、雪上性能のさらなる向上と同時に、効き目が永く続く長寿命化と燃費向上への貢献も重要な開発テーマとして掲げられている。このため、アイスガード ファイブ プラスは「氷に効く。永く効く。燃費に効く。」というキャッチフレーズが採用されているわけだ。
◆なぜ氷でも止まるのか?
では、さっそくユーザー要求の高い氷上、雪上で滑らないタイヤというテーマから技術を覗いてみよう。
アイスガード ファイブ プラスは氷上、雪上でのグリップ性能のさらなる向上のために、素材面では新マイクロ吸水バルーンと、エボ吸水ホワイトゲルという2つの技術を投入している。マイクロ吸水バルーンの技術は、これまでも継続的に継承、発展させながら採用してきた技術でもある。一方で2012年のアイスガードファイブの発売より後に開発したのがもう一つの技術、エボ吸水ホワイトゲルだ。
「材料の開発は継続的に新たな素材を研究していますが、さまざまな素材研究の中で優れた素材を見つけ出し、順次タイヤに採用していくわけです」とタイヤ第二材料部 材料1グループ 後藤幹裕氏が言う。そうした日ごろ積み重ねている素材研究の中から、より効率的に水分を吸収するゲル状の素材を見つけ、新素材技術として搭載されていく。
それがエボ吸水ホワイトゲルで、この技術は2013年秋に発売した北海道地区限定の氷上特化型スタッドレスタイヤの「アイスガード エボリューションiG01」に初めて採用されている。その技術をさらに改良したバージョンのエボ吸水ホワイトゲルを2015年の新商品であるアイスガード ファイブ プラスに採用しているのだ。
◆エボ吸水ホワイトゲル
氷に効くスタッドレスタイヤとは、水分を取り除くというのがキーになる技術だ。氷とタイヤとの間にはミクロの水の膜があり、その水が滑る原因となるわけだが、水を除去できればタイヤは氷に密着することができる。そうした機能を持つ「スーパー吸水ゴム」の進化が待ち望まれていると言っていいだろう。
今回採用したエボ吸水ホワイトゲルはまさに、そのスーパー吸水ゴムを進化させるアイテムで、直径が数10ミクロン程度の大きさでゴム全体に分散し、配置されているものだ。これまで採用してきた新マイクロ吸水バルーンとブラックポリマーⅡに加えて、このエボ吸水ホワイトゲルを採用することで、氷への密着効果と吸水効果を補完するため、まさにスーパー吸水ゴムが進化したわけだ。
接地面に露出した新マイクロ吸水バルーンとエボ吸水ホワイトゲルが水分を取り込み、タイヤの回転により水分を排出する。吸水能力ではゲルより新マイクロ吸水バルーンの方が大きいのだが、エボ吸水ホワイトゲルを加えることで、接地面の粗さ、凹凸に一層追従しやすく、水分の吸収性を高めることができる、というわけだ。
従来のアイスガード ファイブは、新マイクロ吸水バルーンとブラックポリマーⅡそして吸水ホワイトゲルで構成されていた。しかし、アイスガード ファイブ プラスは吸水ホワイトゲルが進化したエボ吸水ホワイトゲルを新たに採用することで吸水率が従来品より20%も向上し、その効果で氷上制動性能が従来品比7%も向上している、という違いが歴然なのだ。
このようにアイスガード ファイブ プラスは、より氷の表面に密着し、吸水性能を高め、さらに新マイクロ吸水バルーンの殻が氷面に噛み込む効果も加えることで、アイスバーンでのグリップ性能を一段と高めている。
アイスガード ファイブより継承したこの新マイクロ吸水バルーンは、タマゴの殻をイメージするとわかりやすい。このタマゴの殻が目に見えないほどミクロのサイズでゴム全体に分散し、氷表面地面に接すると噛みこむ効果を生み出すのだ。ミクロレベルでの技術が氷表面に噛みつくエッジ効果をもたらしているというわけだ。
新マイクロ吸水バルーンと組み合わされる新採用のエボ吸水ホワイトゲルによって、ミクロの水膜を吸水するスーパー吸水ゴムへと進化させ、さらにブラックポリマーⅡを配合することで密着効果が高まり、新マイクロ吸水バルーンのエッジ効果が補完されるから氷に効くというわけだ。
◆スタビリティの高いスタッドレス
さらに素材技術ばかりでなく、トレッドにも注目してみたい。アイスガード ファイブ プラスのトレッドパターンは、アイスガード ファイブで採用した非対称パターンを継承している。アウト側は雪上路面やウエット&ドライ路面に対応する一方で、イン側はより大きめの接地面を確保し、サイプも細かく配置することで、アイスバーン路面に対応している。
またトレッドのセンター部のブロックにはトリプルピラミッド ディンプルサイプを採用し、サイプによる吸水性、ブロックのエッジ効果を引き出すとともにブロック剛性を高め、それ以外のブロックにもしっかり感を高めるトリプルピラミッドサイプが採用されている。
トリプルピラミッドサイプは、立体形状のサイプがブロックの倒れ込みを抑制し、優れた接地性と操縦安定性を確保。このため、ドライ路面でもしっかり感のあるハンドリングを実現している。スタッドレスにするとスタビリティの低下を訴えていた人はぜひ、アイスガード ファイブ プラスを試して欲しい。
◆なぜ効果が永く効くのか?
永く効く、という特性はゴムの柔軟性を長期間維持することがポイントだ。そのためアイスガード ファイブ プラスはゴムの柔軟性を引き出すオイル(油分)が減少していくのを抑制している。ゴムに柔軟性を付与するオイルは経年で僅かずつではあるが、揮発などの理由によって次第に減少していってしまうもの。そうするとゴムは硬化が進行し、スタッドレスタイヤとしての性能が低下するのだ。
そのオイルの減少を抑制することで性能が長持ちし、製造後3年間は高い性能を維持する。シミュレーションテストにおけるアイスガード ファイブ プラスの氷上摩擦指数では4年を経過しても高レベルを維持している。従来のアイスガード ファイブと比べ性能低下レベルは1/3以下になっているのだ。
また、走行による摩耗に関しては法規により、溝の深さが50%以上摩耗するとスタッドレスタイヤの性能限度とされてしまう。このスタッドレスタイヤとしての性能限界は、タイヤのサイドウォールに刻まれた矢印マークで示されるプラットホームの露出が指標となるので、ユーザー自身で定期的にチェックしてほしい。
◆なぜ燃費に効くのか?
さて、スタッドレスタイヤに求められる要件の燃費についてだが、アイスガード ファイブ プラスはさらなる省燃費性能向上のために、ヨコハマタイヤの低燃費タイヤとして定評のある「BluEarth」シリーズなどで培われた技術を採用している。
タイヤ表面のトレッドゴムの下層にあたるベース部分のゴムが走行中にひずみ、動くことで発熱し、転がり抵抗が増大し燃費に悪影響を及ぼす。この理論に基づいた対策技術が注ぎこまれていて、ベースゴム部分にエネルギーロスの少ない低発熱ゴムを採用している。発熱を抑えることで転がり抵抗を抑え、タイヤによる燃費への悪影響を低くしているというわけだ。
さらに従来のアイスガード ファイブに引き続き、ミニバン専用低燃費タイヤに採用している左右方向のタイヤのたわみを抑制する「たわみ制御プロファイル」も合わせて採用。このたわみを抑えることでタイヤのゴムのひずみにより発生する発熱=エネルギーロスを小さくし、転がり抵抗を低減するという技術も投入している。また同時に、操縦安定性を向上させる効果も生み出しているのだ。
このような技術を投入することで、従来品より転がり抵抗は7%低減し、この結果、アイスガード ファイブ プラスはサマータイヤで低燃費タイヤの「ECOS ES31」と同等レベルの転がり抵抗係数へと、省燃費性能も大幅に高めているのだ。
アイスガード ファイブ プラスは、アイスバーンでのグリップ性能を高めただけでなく、効きの永持ち、省燃費への貢献を果たし、さらにドライ路面や高速道路での走行安定性も高い次元でバランスさせている。つまり、全方位的に性能の向上を果たしている、と言えるわけだ。このため、冬期のあらゆる地域、走行条件に対応する高次元でバランスされたスタッドレスタイヤとなっているということができる。次回はテストコースではない、一般路での走行テストをレポートしよう。【タイアップ記事】
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