今年も茨城県の筑波サーキットで「メディア対抗ロードスター4時間耐久レース」が開催されました。このイベントは、自動車関連メディアがチームを組み、4時間の耐久レースを通じてクルマの楽しさを伝えるため開催されているもの。
競技車両はマツダ・ロードスターで、市販モデルにレース向け装備を施したワンメイク仕様。もちろん改造は一切禁止で、アライメント調整も不可となっています。ユーノス・ロードスターが発売された1989年の第1回大会から今年で27回目を数え、27チームが参戦しました。<レポート:北沢剛司/Koji Kitazawa>
■ベテランメンバーに加わった、F1を目指す20歳の新星!
第1回大会から参加している「ザ・モーターウィークリー」チームは、今回もカーナンバー01番で参戦。監督は番組のDJである藤本えみりさん。ドライバーは第1回大会からほぼ毎年参戦しているレジェンドドライバー津々見友彦さんとモータージャーナリストの桂伸一さん、GT-R専門店を営む五十嵐光男さん、そしてF1を目指すレーシングドライバー 笹原右京さんの4人です。
笹原右京さんは、2015年に海外のフォーミュラ・ルノー2.0でランキング3位を獲得した注目のレーサーで、まだ20歳の若さ。2016年は日本に帰国して、SRS-Formula(鈴鹿サーキット・レーシングスクール-フォーミュラ)に挑んでいます。一方、1963年に行なわれた第1回日本グランプリの出場経験がある「レジェンド」津々見友彦さんの年齢は74歳。笹原右京さんとの歳の差は実に54歳にもなります。さらに言えば、ダートラのドライバーとして活躍していた笹原右京さんの父と五十嵐光男さんが同い年。桂伸一さんはその2つ上ということで、まさに親子3世代のような家族的なドライバー構成となりました!
チームはレース前日からサーキット入り。桂伸一さんを除く3人のドライバーが、練習用として購入したマツダ・ロードスター NR-Aでスポーツ走行を繰り返します。
特に笹原右京さんは、普段パドルシフトのフォーミュラカーに乗っているため、マニュアル車もハコ車でのレースも初体験。「まるでボートに乗っているみたい」と言いながら、しっかり感覚を掴んでいきます。最初は手探り状態の走りでしたが、経験豊富な桂伸一さんからのアドバイスもあり、ラップタイムがどんどん上がっていきます。
ついにはベテラン勢を脅かすほどのタイムをたたき出し、順応性の速さに驚きました。聞けば、笹原右京さんは幼少時代に「ベストモータリング」などで桂さんの走りを見て育ったとのこと。そんな桂さんと同じチームで走ることになるとは、本当に不思議な縁ですね。
■レース本番を前に、あのヒトがまさかの脱落!?
朝から快晴となった9月3日のレース当日、チームスタッフは朝6時からサーキット入りして参加受付やピット設営などで大忙し。その後ドライバーが合流し、公式車検、ブリーフィングと進んでいきます。そこで今回のレース戦略について藤本えみり監督に話を訊いてみました。
しかし、返ってきた答えは「燃費です」の一言のみ。えみりさんともう少し話をしたかったので詳しく聞き出そうとしたのですが、「これ以上は渡辺さん(総監督)に訊いてください」と逃げられてしまいました。トホホ。
気を取り直して渡辺政彦総監督のところに行ってみると、筑波サーキットの俯瞰図と走行データを映し出すモニターが備え付けてあります。モニターをよく見ると、サーキットの俯瞰図にマシンの現在位置が表示されるのに加えて、ラップタイム、燃料残量、燃費、エンジン回転数などが一覧できるようになっていました。
今回「ザ・モーターウィークリー」チームでは、レース本番に向けてタイヤを温存するべく、練習走行をパスするという作戦を実施しました。前日に自前のロードスター NR-Aで練習走行をみっちり行ったのはまさにこのため。ドライバー交代の練習も終えたマシンにはカバーが被せられます。
そんなゆったりとした雰囲気のなか、マツダの小飼雅道社長が「ザ・モーターウィークリー」チームのピットをご訪問。津々見友彦さんや藤本えみりさんたちと談笑するなど、ピットは一気に和やかな雰囲気となりました。
しかし、公式予選まであと30分という正午前に予想外のハプニングが発生。なんと監督の藤本えみりさんが熱中症になってしまいました!「大丈夫ですっ」と辛うじて笑顔で応えていますが、まったく生気がありません。とりあえず経口補水液の[OS-1]で水分補給を行ない、涼しい場所で休むことになりました。レース本番前に監督が緊急ピットインというまさかの事態に一同ビックリです。
藤本えみり監督は、その後レーシングスーツ姿からベンチレーション効果に優れたワンピースにお色直しして復帰。一同安心したところで、いよいよ公式予選がはじまりました。今回もタイムアタッカーは桂伸一さん。しかし、コース上のトラフィックを避けるため、予選開始後もずっとピットで待機状態です。
10分後にようやくコースインしたと思ったら、わずか4周でタイムアタック終了。これもタイヤを温存するための秘策で、実質2周のタイムアタックにも関わらず27台中12位で予選をクリア。まるでメルセデスF1チームのような効率の良い戦いかたで、完全に決勝を見据えた作戦でした。
■決勝レースでふたりの「右京」が火花を散らす!
今回、我がチームのお隣は、片山右京さんやピーター・ライオンさんたちがドライブする「SAMURAI WHEELS」チーム。ということで「片山右京さんと我がチームの笹原右京さんのインタビューを録りたい!」となった藤本えみり監督は早速取材交渉。めでたくOKとなり、新旧?右京の顔合わせが実現しました!
生後5ヶ月半のとき、鈴鹿で片山右京さんに抱いてもらった経験のある笹原右京さん。それから20年後、まさか隣り同士で同じレースを戦うことになるなんて、何かの縁を感じずにはいられません。「同じヘルメットの人がいて気になっていたんだよね」という片山右京さんからのコメントもいただき、スタッフ一同感謝です!
さまざまなイベントをこなしているうちに、いよいよ決勝レースのときを迎えました。スタートドライバーの津々見友彦さんにすべてを託します。
16時15分、いよいよ4時間耐久レースのスタートが切られました!
12番手からスタートした「ザ・モーターウィークリー」チームは、快調な滑り出しを見せました。しかし6周目には、経験者揃いということでチームに課せられた60秒間のピットストップというハンデを消化するためピットイン。一気に順位を落としてしまいます。しかし、粘りの走りで周回をこなし、第2スティントの笹原右京さんにバトンタッチ。この第2スティントには片山右京さんも走行していて、ふたりの「右京」がコース上で戦いを繰り広げました。
笹原右京さんは前車を次々にパスして、順位は22位から18位に浮上。第3スティントの五十嵐光男さんにバトンタッチする頃には夕暮れとなり、ナイトセクションに突入しました。
■勝利の方程式は、効率と速さの両立
70リッターの燃料で4時間を走るメディア4耐では、速さと燃費の両立を図った効率のよい走りが求められます。「ザ・モーターウィークリー」チームでは、ピットから毎周ドライバーに燃費を知らせることでペースをコントロールしていました。とはいえ、一筋縄ではいかないのがレースの世界。ほぼ同じようなラップタイムでも、状況により燃費がリッターあたり1km近く異なる場合が少なくありません。効率と速さの両立は実に奥が深いのです。
これまでフォーミュラカーのスプリントレースで戦ってきた笹原右京さんにとって、燃費やタイヤを気にしながら走る経験はもちろんはじめて。手探りのまま走行していた第2スティントに対して、第4スティントでは、ついに効率と速さを両立した走りのコツを見出します。
そしてレースも残り1時間を切り、いよいよアンカーの桂伸一さんに交代。燃費が厳しくなってスローダウンするチームが多いなか、1分13秒台のハイペースで追い上げます。
終盤の追い上げに賭けたチームの願いが通じたのか、18位でバトンを受けとった桂伸一さんは着実にポジションアップ。ラップ遅れだったにも関わらずトップを追い抜くシーンもあり、最終的には順位を7つ上げて11位でフィニッシュ。今年も無事に完走を果たしました!
■「メディア4耐」というプラットフォームの魅力とは?
今回、チームは去年とほぼ同じペースで走りましたが、ガス欠でスローダウンするクルマが思いのほか少なく、上位に入賞することができませんでした。しかもトップからは3周遅れ。速く走りながら燃費を稼ぐテクニックを来年までに身につける必要がありそうです。
そんな反省点もありますが、今回のレースを盛り上げてくれたのが、若さでチームを引っ張った笹原右京さんの走り。燃費やタイヤを気にしながら走る経験は今回がはじめて。しかも大先輩と一緒に走ることで学ぶことが多く、終盤には自分なりに手応えを感じたといいます。F1という目標に向けてひた走る「次世代の右京」に目が離せません。
また、74歳の津々見友彦さんは、自分のスティントが終わった後もずっとモニターの前にいて、チームメイトの走りをチェックしていました。常に学ぶ姿勢で速さを追求する姿こそが「レジェンド」たる所以。哲学者のような姿が印象的でした。
今回の「ザ・モーターウィークリー」チームは、上位入賞こそ叶わなかったものの、速さと勝利へのあくなき探究心がとても印象的でした。特に3世代のドライバーがタッグを組んで勝利を目指す姿に、新鮮な感動を覚えたのも事実です。これも「メディア対抗ロードスター4時間耐久レース」というイベントの独自性と多様性が成せること。今回で27回目という継続性も、モータースポーツ文化の継承に貢献していることは間違いありません。レースにかけるそれぞれの情熱とその奥深さに、改めて刺激を受けた1日でした。