ペダル踏み間違い事故の考察

雑誌に載らない話vol174
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このところ、連日のようにニュースで高齢者によるペダル踏み間違い事故が報じられている。事故報道として取り上げられるくらいだから、悲惨な事故も少なくないが、この流れに乗って、高齢ドライバーのペダル踏み間違いと推測できる物損事故までテレビニュースで流れたりしている。

■高齢ドライバーに事故は多いのか

高齢ドライバーの事故が、いかに多いかを強調する論調が増えている。さらに、警視庁を筆頭に高齢者の運転免許証を自主返納する運動まで。だがいうまでもなく、核家族化した上に、公共交通機関が乏しい地方では、それは現実的に無理な話である。つまり、高齢者ドライバー、事故、地方のインフラなどは個別に問題を抱えており、それぞれについて議論が必要だということだ。

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そこで、まずは誤操作による事故の代表例となっている、高齢ドライバーがよく引き起こすとされるペダル踏み間違え事故について考えてみる。ここでいうペダルの踏み間違いとは、もちろんアクセルとブレーキのペダル踏み間違えのことだ。

まず公益財団法人・交通事故総合分析センターの平成16年~25年における、年齢別のハンドル操作やペダル不適切操作による四輪自動車による人身事故のデータを見ると、24歳以下と75歳以上にピークがあることが分かる。

年齢別操作関連事故

つまり、高齢者だけではなく運転経験が少ない若年層も不適切な操作により事故を起こしていることが分かる。なお、このデータは人身事故を対象としたデータであり、ペダル踏み間違いなど不適切な操作による物損事故は、このデータの10倍以上と想定される。

原因別

■やはりペダル踏み間違いは高齢者に多い

その一方で、操作不適切による事故は、この10年間のデータでは年々減少傾向にあるとされる。ただし、ハンドル操作不適切や、その他の操作不適切による事故は減少傾向にあるが、ペダル踏み間違い事故は、ほぼ横ばい、ブレーキ不適切操作事故は増加傾向にある。

速度別

そして年齢別では、ハンドル操作に関する事故は若年層と75歳以上で多く、ブレーキ操作に関する事故は若年層に多い。またペダル踏み間違い事故は75歳以上で多くなる傾向があり他の年齢層に比べ2~5倍となっている。

結果として不適切操作による事故は若年層と高齢者層に多いが、ペダルの踏み間違いによる事故だけは高齢者層に多いと言うことができる。

■事故は低速、道路外で発生

次に人身事故の中で、操作不適切による事故の発生速度域を見ると、ハンドル操作不適切による事故は47%が40km/h以上で発生しており、他の操作不適切事故よりはるかにスピード域が高い特徴がある。それに比べ、ブレーキ不適切操作や、ペダルの踏み間違いによる事故は70%以上が20km/h以下で発生している点も注目される。

操作・場所別ペダル踏み間違い

ペダル踏み間違い事故に焦点を絞ってみると、どの年齢層でも「発進時」に発生しており、「バック時」は75歳以上だけが突出している。また事故現場は、道路以外、つまり駐車場などでの事故が多いことがわかり、75歳以上の年齢層は特別に多いことがわかる。

ブレーキの不適切操作による事故は、積雪路、凍結路での事故がどの年齢層でも圧倒的に多く、この事故形態に関しては若年層の割合が多いという特徴がある。これは、若年層は経験、スキルが不足しているからだと考えられる。

また不適切操作による事故を起こしたドライバーからの聞き取り調査で、ドライバーとしての原因を分析したデータでは、ドライバーは、「慌てた」「パニックになった」と自己分析している例が圧倒的だ。言い換えると、ドライバーのほとんどは危険が差し迫っていることを認識し、その危険を回避しようとして操作しているものの、パニック状態になり適切に操作できなかったということになる。

■ペダル踏み間違い事故に迫る

このようにデータを見ると、75歳以上のドライバーは確かにペダルの踏み間違い事故が多く、その事故状況は、道路外の駐車場などで発生する例が多い。また、発進時やバック時にも発生しやすいということがわかる。

そして、ペダル踏み間違いが発生した時に、ドライバーはパニック状態になり、修正操作ができないというのも現実だろう。次に実際のペダル踏み間違いの事故シナリオを検討してみる。

1. 発進時やバック時に発生しやすいということは、まず最初のカギはギヤシフトのポジション間違いから始まる。前進するつもりだがギヤポジションが「R」に、あるいはバックしようとする時にギヤポジションが「D」に入っているわけだ。
2. アクセルを踏んでクルマが動き出した時、ギヤポジションが間違っていたことに気付く。この段階ですでにパニック状態になるドライバーが多いはずだ。パニックにならなければ、この段階でいったんブレーキを踏み、ギヤポジションを正しくすれば事なきを得る。
3. パニック状態になる、あるいは錯誤によりこのブレーキを踏むという操作ができず、現在踏んでいるアクセルペダルを、ブレーキペダルと錯覚して踏む。ただし、駐車場などでの前進、バックの場合は、アクセルペダルの踏み込みも、ブレーキもごく軽い、わずかな踏み込みで済むはずだ。
4. 最終段階として、ドライバーは、実際はアクセルペダルを踏んでいるにもかかわらず、本人はブレーキペダルを踏んでいると思い込み、それにもかかわらず停止できないのでより強くブレーキを踏む。だが、実際にはアクセルをより踏み込むことになるのだ。これによって暴走が発生するわけである。

心理行動

これが典型的なシナリオだが、もちろん前進、バックといったギヤポジションの選択のときだけに発生するわけではなく、単純に駐車場内での微低速での前進、あるいはバックするといった微小なアクセルペダルのコントロールを行なう場面でも、アクセルペダルからブレーキペダルに踏み変える時に、踏み変えができず、そのままアクセルを踏んでしまうというケースもある。

こうしたヒューマンエラーに対して、現在販売されている多くのクルマは、ドライバー支援機能のひとつとして誤発進抑制制御システムが搭載されており、微低速で間違ってアクセルを大きく踏み込んでも急加速しないようになっている。少なくともこのシステムが装備されていれば、悲惨な事故は防げるのだ。

■ドライバーとクルマの関係

しかし、そもそもなぜペダルの踏み間違いを起こしてしまうのか?という研究は十分とはいえない。それはペダル配置の問題なのか、それ以外の要素があるのか、である。もちろんペダル配置、アクセルペダルとブレーキペダルの位置関係はクルマごとに微妙に違っているので、急にクルマを乗り換えたような場合には高齢ドライバーでなくてもペダルの位置に戸惑うことはありえる。

さらにアクセルペダル、ブレーキペダルの踏み方も、運転に慣れている場合は右足のかかとを支点にしてつま先を振ることで、つまり右足をペダルごとに踏み変えることなく操作するが、クルマによっては、この右足のかかとでの支点を取りづらいケースもある。

警視庁分析

また盲点としてシートの造りも意外とペダル位置を錯誤しやすいかも知れない。座面がフラットでクッションが柔らかいといったシートの場合はドライバーの着座位置はルーズになり、必ずしもクルマの進行方向に正対していないことが考えられ、体が斜めの状態で足をペダル方向に伸ばすと、ペダルの誤操作をしやすくなる。

これはバック時にも当てはまり、体をひねって後方を見る場合にドライバーの着座位置がずれ、ペダルの位置を誤ることも考えられる。体の柔軟性が低下している高齢者にバック時にペダルの踏み間違いが多いのは、こうしたケースが考えられる。

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ペダル踏み間違いの事故は、最新の技術により事故としては抑制することが可能であることはいうまでもない。しかしそれは事故として発生しないというだけで、ペダルの踏み間違いをどのようにして発生を抑えるのかは、また別の問題だ。ドライバーとシート、ぺダルの関係など、運転操作に関わる最も基本的なインターフェースは、クルマを運転するための一丁目一番地であり、より深い研究が求められると思う。

データ出典元:公益財団法人・交通事故総合分析センター

COTY
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