三菱アウトランダーPHEV インタビュー PHEV開発のパイオニアとしての強みを活かしたニューモデル

新型三菱「アウトランダーPHEV」はフルモデルチェンジに匹敵するほど、大幅な改良をしている。中でも走行フィールではEV感が増し、エンジンが稼働しているのかが分からないほどモーターで滑らかに走る。今回は、そうした改良の中心となったPHEVのシステム変更を担当したエンジニアに、モータージャーナリストの鈴木直也氏がインタビューした。

モータージャーナリストの鈴木直也氏がインタビュー
モータージャーナリストの鈴木直也氏がインタビュー

新型アウトランダーPHEVの進化について、三菱自動車のEVパワートレーン技術開発本部マネージャーの半田和功さんにお話を伺った。

鈴木 「半田さんは入社以来ずっとEV畑を歩んできたそうですが、当時の三菱はインホイールモーターEVに熱心でしたよね?」

アウトランダーPHEV制御開発の半田氏
アウトランダーPHEV制御開発の半田氏

半田 「1994年に入社した時に、すぐEV開発グループ配属になりましたが、インホイールモーターEVは私が入社した少し後ですね。実は私は電気関係といっても情報工学専攻だったのですが、三菱が得意としていたヴィークルダイナミクスの制御をやりたくて入社しました。入社時の志望動機に、そういえばと思って「EVにも興味がある」と書いたのでお呼びがかかったようです(笑)」

鈴木 「運命とはわからないものですねぇ。電動パワートレーンに転機が訪れるのはどのタイミングでしょう?」

半田 「最初は先行開発で、シリーズ式ハイブリッドの発電制御、走行制御の開発にあたっていました。そこから、パラレル式ハイブリッドをやったりと、試作が続くのですが、当時は製品化の目途はまったく立たなかったので、このまま穀潰しのまま終わるのかなぁと思っておりました(笑)。しかし、i-MiEV(アイミーブ)が立ち上がった時に、軽自動車の“i”を使って電気自動車をやるぞ、ということになりまして、その制御関係をやることになりました。ですが、アイミーブのシステム設計が仕上がって、さあいよいよ発売というところで「違うクルマをやってくれ」という話があり、転属になりました」

19年モデルのアウトランダーPHEVはEV部分を強くアピール
19年モデルのアウトランダーPHEVはEV部分を強くアピール

 

パイオニアとしての強み

鈴木 「それがアウトランダーPHEV?」

半田 「そうです。ただ、アウトランダーは“i”に比べて大きなクルマなので、EVというわけにはいかない。このクルマにはシリーズハイブリッドをベースに、直結クラッチを持ったシステムが合っているのではということで、システム要件を提案したわけです」

エンジンは2.4Lに排気量アップし静粛性を向上
エンジンは2.4Lに排気量アップし静粛性を向上

鈴木 「最初の試作車はどんな感じだったんでしょう?あの時期にピュアEVの量産化はビジネスとしても、きわめて先鋭的です。ハイブリッドとの二本立てで行こうという考えはなかったんでしょうか?」

半田 「電池はアイミーブのもの、モーターもアイミーブのものを2つ積んで、エンジンは2.4Lでした。試作車なのでかなり荒っぽいクルマなんですが、大きなクルマがEVでぐいぐい走るし、エンジンで発電するとハイブリッド、そして高速では直結と、3段ロケットみたいだねと評判になりました。そして、先行開発をしながら量産化への取り組みが始まったわけです。ハイブリッドとの二本立てに関しては、三菱の規模で考えると、リソースが足りなかったですね。同時並行でやっていたらどっちも共倒れになったと思います」

鈴木 「EVはものにできたからバッテリーやモーター、その他の生産、供給ラインが構築できたと。しかし、モーターにしても電池にしてもパワートランジスタにしても、自動車が要求する耐久レベルは桁外れに高い。その辺はすごく大変だったのでは?」

半田 「はい、ものすごく大変でした。設計要件も耐久要件も前例がないわけですから、全部自分で決めなくちゃいけないわけです、いま思うと、オーバースペックな設定もあったし、ギリギリちょうどいい落とし所に決まったものもありました。本当に答えが出たのはクルマが市場に出てからずっと後ですね」

鈴木 「先行者は苦労するわけですが、逆にパイオニアとしてのメリットはどういう部分になるのでしょうか?」

長年先行開発に携わる半田氏
長年先行開発に携わる半田氏

半田 「モーターや電池は外部から調達しますが、電動化車両というのはいろいろなコンポーネンツをいかに使いこなすか、いわゆる組み合わせノウハウがポイントです。耐久性やスペックの話もそうですが、ハイブリッドではエンジンとモーターの役割分担をどう切り分けて制御するのか。複数の動力源をパズルのように組み合わせてエネルギー効率をどう最適化するか。その辺りがコンポーネンツを買って組み立てるだけの新規参入者にはできない強みだと思います」

ハイブリッドのメリットをシンプルに実現

鈴木 「その中でさらに三菱独自のキャラクターとしてS-AWCなどがあると」

四輪駆動技術も三菱の強みだ
四輪駆動技術も三菱の強みだ

半田 「SUVで悪路走破できるクルマを作るなら、そこを強調した制御があります。また、そのためにはどこを強化する必要があるか、どうやったら耐久性を確保できるか、クルマの特徴づけをしっかりつける組み合わせノウハウを持っているのは大きいですね」

鈴木 「そういう意味では、やっぱりアウトランダーPHEVは三菱の持つ技術の集大成ともいえるクルマといえるわけですね」

基本原理を整理し、特徴を活かした制御をしたのがアウトランダーPHEVだと語る
基本原理を整理し、特徴を活かした制御をしたのがアウトランダーPHEVだと語る

半田 「アウトランダーPHEVのシステムは、エンジンや電池も必要十分なものを載せているし、モーターも前後に2つあって駆動はAWD。エンジン直結の駆動モードもある。システムとしてはかなり欲張っています。ですが、基本原理としてはシンプルだと思ってるんです。その基本原理というのは、ハイブリッドのメリットとして、モーターで走る、エンジンの効率のいいところが使える、減速回生ができる、アイドルストップができる。突き詰めていうと、この4つです。アウトランダーPHEVのシステムは、この4つのメリットをいちばんシンプルに実現しています。他のシステムは8速ATがあったり遊星ギアがあったり、けっこう複雑ですよ。実用上いちばん厄介なのが、エンジンの始動/停止と駆動系との断続で、ここに唯一クラッチを介した不連続要素がある。どのハイブリッドでも、ここの制御はデリケートです。アウトランダーのシステムは、エンジンの始動/停止は常に駆動系と切り離された状態で行なわれるし、エンジン直結モードへの移行は、クラッチの回転差がゼロになるようにジェネレーターを使って合わせに行く。これは駆動モーターが強力だからできる制御です」

EVライクに走らせるための制御工夫

鈴木 「今回のマイナーチェンジはエンジン排気量が拡大されました。これはどういったコンセプトでしょうか」

半田 「最初の試作車のエンジンは2.4Lでしたが、じつは量産化にあたって次に検討したのはもっと小さな排気量だったのです。これでもエネルギーバランス的にはOKなのですが、馬力を回転で稼ぐのでどうしても騒音振動面が不利ということがわかりました。より低回転で必要なトルクが得られると、エンジンで発電しながら走行するときにロードノイズの中にエンジン騒音が紛れるんですね。検討の結果、2.0Lで発売しましたが、その従来モデルは走り出しから20km/hくらいの時に、エンジン回転が必要以上に吹き上がる傾向があったのですが、2.4Lでは、これがかなり抑えられて車速とリニアにエンジン回転が上昇するような特性を作りこみました」

技術系に広い知見を持つ鈴木直也氏
技術系に広い知見を持つ鈴木直也氏

鈴木 「たしかに試乗すると大きな違いを感じます」

半田 「実は内部的にもいろいろ工夫してまして、エンジン回転を抑えているときはバッテリーからの持ち出しを増やして対応しているんです。もちろん、後にエンジンから発電してエネルギー収支を合わせているんですが、そのためにもバッテリーの能力向上が必要だったのです。この辺りが、ノウハウの集大成です。例えて言うと、新型はときどきバッテリーから借金をして静粛な走りを優先し、後でその借金を返すような制御を行なっている。従来型は常に無借金を目指していて、燃費ベスト狙いなら従来型制御の方がやや有利なのですが、ユーザーに聞くともっとEVライクに走りたいという要望が多い。そこで、ユーザー満足度が高い新型の方式を採用しました。」

三菱の技術のフラッグシップがアウトランダーPHEV。システム説明用モデルを前に記念撮影
三菱の技術のフラッグシップがアウトランダーPHEV。システム説明用モデルを前に記念撮影

鈴木 「日本はハイブリッド王国といわれていますが、アウトランダーPHEVはPHEVでも世界の先頭を走っています。先日の北海道の大停電をきっかけに、電動車を利用した電力供給(V2H)が注目されましたが、そういう方向からもPHEVって面白いですよね」

半田 「このクルマの最初の提案は、たった1枚の企画書だったのですが、それがここまで育ったのは感無量です。これからもまだまだ発展性があると思っていますので、どんどん進化させていきますので、楽しみにしていて下さい!」

鈴木 「ルノー・日産・三菱というアライアンスの中での展開も大いに期待しております(笑)」
 
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