【ベントレー】コンチネンタルGT 継ぎ目のないボディは工芸品と呼ぶにふさわしい by九島辰也

マニアック評価vol49

コンチネンタルGTで復活の一途をたどったベントレー。VWのエンジニアリングを得たことで、現代的なモデルとなってわれわれの目の前に現れた。

デビュー当時話題となったのはエンジニアリングやデザインもそうだが、そのプライスだ。2000万円を切るベントレーが発売されるなど、誰も考えなかった。それまでのモデルは4000万円オーバーが基本という価格のクルマ。よって、こいつはバーゲンプライス。「一生に一度ベントレー」を可能とした。そんなこともあって、2006年の日本での登録台数はフェラーリを凌ぐ500台超えを果たした。

もちろんコンチネンタルGTシリーズ以外にも魅力的なモデルはある。今日のミュルザンヌもそうだし、2009年まで販売されていたアルナージやアズールも人気は高かった。アルナージとアズールはロールスロイス傘下時代のイメージを持つが、「これこそベントレー」というファンも多い。事実、伝統的なスクエアなボディはロールスとシャシーフレームを共有することで成り立っていた。それでもロールスとの違いは明白で、高級サルーンながらスポーティな味付けがなされている。モデルによってはターボチャージャーを強調し、ロールスのホットバージョンといった印象を強めていたモデルだ。

ではなぜ、そんな差別化がなされるのか? だが、その答えは1931年のロールスとの合併以前にある。創業者W.O.ベントレー氏はレーシングドライバーとしての経験を活かし、1919年にベントレーモーターズを設立すると、スポーツカー造りに励んだ。そして1924年から31年までの間に、ル・マン24時間耐久レースで4勝もの実績を積む。つまり、「高級車でありながらスポーティ」がベントレーであり、ロールスロイスもそれを認めていたというわけだ。

ちなみに、ベントレーの時代遍歴を語るとき、生産されていた拠点などで呼ぶことがある。ロールスとの合併直後を“ダービー時代”、戦後を“クルー時代”と呼び、合併前は“クリクルウッド時代”、もしくは”W.O.時代“と呼ばれる。

サーキットを賑わせたベントレー・ボーイズ

ベントレーがレースで活躍していた時代のドライバーたちを “ベントレー・ボーイズ”と呼ぶのをご存知だろうか。前述した通り、ベントレーは1920年代から30年代にかけて、積極的にレースに参戦していた。面白いのは、ステアリングを握っていた彼らがみな別の仕事を持っていたことだ。ある者は大学教授、ある者は貿易商、ある者は雑誌の編集者といった肩書きを持っていた。プロドライバーで編成される他のチームじゃ考えられないことだろう。

察するに、富豪の家に育ち名門校を出たといわれるW.O.ベントレー氏は、顔が広くいろいろな分野にネットワークを持っていたのではないだろうか。つまり、当時のインテリ層にベントレーのファンは多く、そういった関係で人々が集ったのではないかと思われる。

そんな毛色の違うチームだけに、実力も含めサーキットで次第に人気となった。そしていつしか彼らを“ベントレー・ボーイズ”と呼ぶようになる。もっと言えば、いまも世界中のベントレーオーナーたちがその呼称を使う。自称ベントレー・ボーイズは世界中にたくさんいるらしい。

こうした話からもわかるように、ベントレーは遊び心を持った大人を触発するナニかを持っている。高級でかつインテリジェンスを感じさせながら、「やるときはやる!」といったパワーをみなぎらせる。もしかしたらこのキャラクターこそ、W.O.ベントレー氏自身かもしれない。英国紳士然とした身なりをしながら、ユニークな発想でとてつもないエンジンを設計する。それがベントレーのコンセプトとなり、それに共感する大人がそのキーを握るのかもしれない。

ベントレーらしい進化をしたコンチネンタルGT

さて、話を冒頭に戻すが、今年、ドル箱的存在であるコンチネンタルGTが7年ぶりにモデルチェンジした。ヒットモデルであることを踏まえたキープコンセプトながら、中身を着実に進化させている。評判のいい部分を残し、改良するべき点に手を入れる、実にスマートなやり方だ。

その特徴だが、まずキラキラしたヘッドライトが目に飛び込んでくる。これはLEDとキセノンの組み合わせで、上級モデルのミュルザンヌと同じ発想で作られた。また、継ぎ目のないアルミのプレス加工技術もミュルザンヌ譲り。500度に熱した高温のアルミパネルを一気に空気圧で成形するスーパーフォーミング技術を採用。ベントレーによると、この新加工技術は50年代の職人が施す複雑で美しいボディライン(当時は熟練工が手でパネルを叩いて成形していた)を再現できるらしい。継ぎ目がないボディは空気抵抗値0.33に多いに貢献する。

スリーサイズは従来型より微妙に拡大されている。特にリヤのトレッドを広げたことで全幅は+125mmとなった。それに伴い50年代のRタイプを意識したリヤフェンダーの膨らみが強調される。このためリヤからの眺めはよりワイド&ローに感じられるが、実際は全高が約14mm上がっているから不思議だ。

インパネ

インテリアでは、シートが新たな構造で作られた。具体的には薄く軽量にしている。今回、こうしたダイエットの積み重ねでトータル65kgも従来型より減らしたそうだ。スーパースポーツでの軽量化プロジェクトのノウハウをこのモデルにも持ち込んでいるのだろう。もちろん、それでも座り心地を損なわないのがベントレー。ソフトレザーの表面だけでなく、しっかりしたクッションも感じられる。それに2ドアクーペでありながら、このサイズのリアシートを2つ並べたのは立派である。

エンジン

エンジンはこれまでの6リッターW12気筒ツインターボを継承しながらコンピューターを一新するなどして、最高出力を15ps、最大トルクを50Nm向上させている。575psも、700Nmも、ため息が出る数値。走行データは318km/hと最高速度こそ変化なしだが、0-100km/h加速は4.6秒とコンマ2秒縮められた。

それじゃパワーアップはどう感じたかというと、正直言ってここでの15psなどわからない。一般道で500psオーバーの世界での微妙な違いを体感するのは難しい。だが、トルクアップとボディの軽量化、それと空気抵抗値の下がった静粛性の高い走りは、このクルマが進化したことをドライバーに伝える。

アクセルの踏み加減によっては出だしから驚異的にドーンと加速するし、ハンドリングに対する軽快なフットワークもさらにステージが上がった。サイズは大きくなったが、走れば小さく感じるからすごい。それと組み合わされる6速ATがこのパワーソースをより引き立てる。2段階のダウンシフトや効果的なブリッピングでMTのような操作感が得られる。さらに、今回は4WDの前後トルク配分が従来の前50:後50から前40:後60と、スーパースポーツと同じになったことで、コーナーの入口から出口までFRっぽさが顔を出す。アンダーステアの抑えられた立ち上がりは実に気持ちがいい。

こうして細部を見ていくと、こいつがスーパースポーツのノウハウを上手く取り入れていることがよくわかる。この領域では軽量化が大きなポイントになるのは明白だ。これぞベントレーらしい進化。ベントレー・ボーイズならずとも、サーキットへ持ち込みたくなる仕上がりだ。

ベントレー コンチネンタル GT

 

■ベントレー コンチネンタルGT(FR/6AT)主要諸元

●ディメンション 全長×全幅×全高=4806×1944×1404mm/ホイールベース=2764mm/車両重量=2320kg ●エンジン W12ツインターボ/排気量=5998cc/最高出力=423kW(575ps)/6000rpm/最大トルク=700Nm/1700rpm ●トランスミッション =ZF製6速オートマチック(クイックシフト、パドルシフト付き) ●タイヤサイズ(前/後)=275/40ZR20(275/35ZR21はオプション) ●乗車定員=4名

●車両本体価格=2415.0万円(消費税込み)

REPORTER’S PROFILE

九島辰也(くしまたつや)

東京・自由が丘出身のモータージャーナリスト。外資系広告会社から転身し、自動車雑誌業界へ。「Car EX」副編集長、「アメリカンSUV/ヨーロピアンSUV&WAGON」編集長などを経てフリーランスへ。その後「LEON」副編集長も経験。趣味はサーフィンとゴルフの“サーフ&ターフ”。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員/2010-2011日本カーオブザイヤー選考委員

九島辰也オフィシャルホームページ

http://www.tatsuyakushima.com/

ベントレー モーターズジャパン公式サイト

http://www.bentleymotors.jp/

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