ついに2017年モデルのGT-Rは、マナーと品を身につけて大人になった。まるでアクション俳優ジェイソン・ステイサムが007のダニエル・クレイグに変身したかのようだ。そのビッグマイナーを試すべく、ベルギーのスパ・フランコルシャンF1サーキットで乗ってきた。<レポート:ピーター・ライオン /Peter Lyon>
GT-Rの試乗会は、今までにない新鮮さと驚きがあった。爆発的な加速タイム、ニュルのラップタイムやコーナリングGの話ばかりがすべてではなかったからだ。
スパのピットにたどり着くと、そこには新GT-Rがずらりと並んでいた。第一印象は、「あっ、格好良くなったじゃないか!」 V形のグリル、バンパー、ボンネットが一新されて、ノーズ部分がすっきりした。「この新しい顔のおかげで、200km/h以上の速度域ではダウンフォースや安定性が増す」とGT-Rの開発担当の田村宏氏が言う。当然、デザインし直されたCピラー、リヤウィング、デフューザーもダウンフォースに貢献している。
しかし、今回のアップデートで一番びっくりしたのが、室内の質感や高級感。シート、インパネ、ハンドル、ドアトリムなど、どこを見ても柔らかいナパ・レザーをふんだんに採用し、GT-Rのインテリアのルックスと雰囲気を完全に変えている。
本革の色は黒とクリーム色などいろいろあるけど、僕がお勧めしたいのが、タン・カラーだね。はっきり言うと、この色と触り心地が、フェラーリやマセラティ並みのクオリティに近づいていると言えるだろう。もう一つ印象的だったのが、より静かになったことだ。静粛性が随分と向上して、エンジンの加速音など聞きたい音だけ聞こえてくるのがいい。
センターコンソールもすっかり変わって、スイッチ類が半分に激減してスッキリした。同時に、ステアリングホイールも新しい。でも、変更点の中で一番気にいったのは、なんといっても、コラムポストからステアリングホイールに移動したパドルシフトのレバー。何と気持ちいいことか。コーナリング中にサッとシフトしやすくなっている。何でR35の初代からそうしなかったんだろうね。
ここまで大幅にクルマを新しくすると、やはりエンジンもいじらなければならない。パワーは20ps上がって、570psに達している。そうだよね。20psアップとは言っても、加速性には影響がないと思うでしょう。でも、あるんだ。スロットルのレスポンスが鋭くなったと同時に、高速コーナーで3500rpmから感じる、より太い中速トルクには病みつきになる。またダンパーやバネレートをチューニングすることによって、やっと毎日の使用に耐えられる乗り心地となったんだ。
■このタイミングでMCが意味するものは?
でも、その性能や質感、トリムよりも、僕の関心は、GT-Rが生まれて9年目の今、どうしてこんなに時間とお金をかけて、日産は大幅に改良することにしたのかということだった。
日産の常務取締役でチーフ・クリエーティンブ・オフィサーの中村史郎氏によると、日産にとっては、実はこのビッグマイナーはフルモデルチェンジに近いものだという。「普通のクルマの場合は、だいたい5、6年でモデルチェンジするでしょう。でも、GT-Rは特別。GT-Rにはモデル・サイクルがない」
さらに、「2007年以降で、3回ほどマイナーチェンジを加えているけど、この9年目というタイミングで思い切りアップグレードしようと思った。GT-Rは僕らのショーケースだ。見せ場だね。限界を試すクルマだ。だから今回、エアロ、パワー、乗り心地、そして室内の質感を改良することを決断した」と語る。
「R35の中では一番格好いいでしょう? 僕は自分でも買うおうと考えている」と前向きに言う。話によると、ここまでの大幅なアップグレードはこれが最後で、次期R36が誕生する前までに行なうマイナーチェンジは、もう一回ぐらいあるらしい。
しかし、話をしているうちに思った。R35は日産が造れる最高のスーパーカーだ。次期R36はどうやったら、これを上回れるのだろうか?