【フォルクスワーゲン】Specialist海外試乗 新型ゴルフ7試乗記 イタリア・サルディ-ニャ島からの報告 レポート佐藤久実

マニアック評価vol170
Cセグメントのベンチマークとなって久しいフォルクスワーゲン・ゴルフ。1974年の発売以来、現行で6代目となるが、ゴルフのこれまでのモデルチェンジにおいて「外し」はなかった。そういう歴史もあって、もはや日本においてもゴルフは鉄板のポジションを築き上げたといえるモデルだ。だが、フルモデルチェンジを敢行したのだ。

そもそも現行モデルでも、少なくとも走りの面において不満はない。これ以上、どこに改善の余地があるの? といいたくなるほどだ。にもかかわらず、これまでのモデルスパンより遥かに短い、わずか4年でフルモデルチェンジし、ゴルフ7になるというから驚きであった。とともに、何がどう変わるのか、興味深くもあった。

そんな疑問と期待を抱きつつ、ゴルフ7の国際試乗会が開催される、イタリア・サルディーニャ島へ向かった。

事前に写真で見る限り、そのルックスも限りなくキープコンセプト。しかし、実車を良く見ると、ゴルフ6にはなくてゴルフ7にあるものを発見! ”三角窓”だ! 一見、些細なデザイン変更にも見えるが、実はこれ、ある意味ゴルフ7のキモと言っても良い、新プラットフォームのなせる技であった。

従来よりフロントホイールが43mm前方に出されている。ガソリンエンジンの搭載向きを反対(後方排気)にし、後方に12°傾けることにより、ディーゼルエンジンと搭載位置が同じになり、ドライブシャフトや排気システム、トランスミッションの搭載位置などを共通化することができているのだ。これこそ、プラットフォームのモジュラー化をさらにVWグループ全体に拡大し進化させたコンセプト「MQB」を採用したニューゴルフなのだ。

結果、フロントオーバーハングが短くでき、フロントウィンドウの傾斜もきつくなり、スポーティなスタイリングになるとともに、空力性能、室内の居住空間まで進化している。

「MQBはデザインにとってもギフトをもたらした」とデザイナーは語っている。Cピラーや長いルーフライン、独特なウィンドウラインなどのデザインアイコンがきっちり継承されているため、ひと目でゴルフとわかるが、その中身はドラスティックな変化を遂げていたのだった。

ゴルフ7で着目すべき点は、「軽量化」だ。先代から、最大100Kgのダイエットを果たしたという。細部に至るまでグラム単位での軽量化に取り組んだ結果だが、特筆すべき技術が2つある。ひとつは「熱間成型」鋼材だ。約950℃の高温で成型し、急冷させることで一般的な鋼板の6倍もの強度になるという。この高強度・超高張力鋼板の採用による高強度化と軽量化の両立、それともうひとつは「テーラード・ロール・ブランク」だ。板厚の異なるシートメタルの1枚モノがロール工程で作れるため、部分ごとに必要な肉厚を設定することができる。高張力鋼板の使用率もなんと80%まで高められ、結果、強さと軽さという、ある種、背反する条件をクリアしているのだ。

さて、イタリアの高級リゾートとして有名なサルディーニャだが、試乗日はあいにく雨模様となった。空港からさっそくゴルフ7に乗り込む。

ガソリンエンジンは1.2L、1.4Lがそれぞれ2種類、計4種類がラインナップされる。すべて「直噴」+「過給」でMQBに合わせた新設計となっている。試乗モデルはガソリン最強の140ps仕様の1.4L TSIエンジン+7速DSG搭載のモデル。

インプレッション

試乗スタート後、数100mも走らないうちに、その「静粛性」の高さに舌を巻いた。「BGMがなく、会話もないと、室内の空気がちょっと気まずくなっちゃうほどだね」と同乗者と話すくらい静かなのだ。

新設計とはいえ、走っている時には、エンジンのパワーフィールや特性など、先代から大きな違いは体感できない。ただDSGとのコンビネーションが一段と進化している。トルクバンドから落ちるギリギリの回転数までシフトダウンすることなく粘る。加減速が繰り返されるシーンでは、マメにシフトチェンジするが、インジケーターを見ていなければそれすら認識させない滑らかさだ。例えばこれをマニュアル・トランスミッションでやろうとしたらかなりビジーになるし、6速になるとステップ比も変わるから、ここまでシームレスなフィーリングは得られないだろう。

体感はできないがユーザーメリットとして燃費の向上がある。1.4Lエンジンには、ACTと名付けられている気筒休止システムが装備される。これって、8気筒や10気筒などマルチシリンダーエンジンに採用される技術と思っていたので、4気筒に採用されたのは驚きだった。エンジン回転数が1400〜4000rpm、発生トルクが85Nm以下の範囲で作動して2気筒となるが、かなりきめ細かい制御でマメに切り替わる。「わずかに音が変わるからわかる」という人もいたが、私はインジケーターの表示によって認識できるものの、音やフィーリングからはまったくわからなかった。少なくとも、日常シーンにおいて、そこまでエンジン音に耳を澄ませて乗ることはないだろうから、煩わしさは皆無だ。

走りもさらに洗練されている。ゴルフ7には、「ドライビングプロファイルセレクター」が標準装備される。「エコ」、「スポーツ」、「ノーマル」、「インディビデュアル」の4つのモードが設定され、試乗車はDCC(アダプティブシャシーコントロール)装着車だったので、さらにコンフォートモードが追加される。試乗コースの路面は荒れたところも多かったが、ノーマルモードでもいなしが見事。もはや、プレミアムブランドとの質感の差は感じられない。

モードを切り替えると、ダンパー減衰力やシフトスケジュールのみならずステアリング操舵力も切り替わるため、違いは明らかだ。ワインディングでは迷わずスポーツモードをチョイス。そもそもボディ剛性が上がり、ワイドトレッドになっているためシッカリ感があって接地性が高い印象だが、ステア操作にキッチリとボディが追従する感覚が心地良い。まさに文武両道。あまりに何もかもソツなくこなすため、「スポーツモードにしたら、サウンドももっと官能的にしてくれればいいのに」なんて重箱の隅をつつきたくなってしまうほどだ。

一方エコモードでは、ドライバーがアクセルをオフにするとDSGはクラッチを切り、ニュートラルでの空走状態となる「コースティングモード」が状況に応じて機能する。本当に効率からスポーツまで、守備範囲の広さに感心させられた。

気持ち良いスポーツカーのステアリングを握ると、アドレナリンが出てテンションが上がるというわかりやすさがある。しかし、尖ったところのない実用車の場合、ドライブフィールに感動するというのは珍しい。降りた時にあまり印象に残らないのが褒め言葉だったりもする。しかし。ゴルフ7は静かで快適で角がなく、実用的なのに感動があり、スポーツカーとは異次元の興奮がある。恐るべし!!

走りにおいて、多々驚かされたゴルフ7だが、装備の充実度でも最先端をいく。万一の事故に遭遇した際、自動的に最大0.6Gのブレーキをかけ二次衝突を防止する「マルチコリジョンブレーキシステム」、衝突の際にシートベルトを自動的に巻き上げ、乗員の保護効果を高める「プロアクティブ乗員保護システム」、「アダプティブクルーズコントロール」、「フロントアシスト」、「ドライバー疲労検知システム」、「レーンアシスト」、そしてUp!に装備され話題の「シティエマージェンシーブレーキ」など、従来、上級モデルに搭載されていた安全装備が満載されている。

ひと昔前なら、プラットフォームやパワートレーンの共通化というと、メーカーサイドのコストダウンのためで、あまり良い印象はなかった。もちろん、今回のMQBもフォルクスワーゲングループ全体で適応するものなので、コストダウン効果もあるだろう。しかし、ドライバビリティの向上に留まらず、ドライバー支援装備なども大幅に充実しながら、ドイツでは価格据え置きとなっている。つまり、ユーザーにとっても大いにメリットを享受できるプラットフォームの大改革なのだ。ますますもって、「ゴルフ」の不動の地位は揺るぎないものとなりそうだ。

とはいえ、今年はCセグメントがさらなる激戦区の様相をみせる。すでにメルセデス・ベンツAクラスが発売された。従来からのイメージを一新、スポーティさを前面に打ち出したスタイリングとダイナミクスで登場。しかも、284万円からという戦略的なプライスタグをつけている。

また、すでにモーターショーでハッチバックスタイルを披露しているボルボV40も間もなく日本上陸となる。さらに、ちょっと先になるが、A3も年内には発売されるのでは?というタイミング。そんな中、大本命のゴルフ7は6月日本発売予定となっている。

レポートはモータージャーナリスト&レーシングドライバーの佐藤久実氏

フォルクスワーゲン ゴルフ7 主要諸元表

フォルクスワーゲン 公式サイト

COTY
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