2011年5月19日、7代目となるパサートの日本導入が発表された。最大の注目は、メルセデスのCやBMWの3と同じDセグメント車でありながら、ゴルフなどでもおなじみの1.4Lエンジンを搭載してきたこと。車重1.5トン近く、車幅1.8m超のボディがどんな走りを見せてくれるのか? 気鋭の石井昌道レポーターの評価は果たして…
いいクルマではあるものの、どことなく存在感が薄かったパサートだが、今回のフルモデルチェンジでイメージが大きく変わることになりそうだ。数多ある輸入Dセグメントの中でもっとも燃費がよく、最近のフォルクスワーゲンらしく品質も高い。それでいて価格はクラス最安値なのだ。そのスペックを知るだけでも、もう存在感が薄いなんて言わせない説得力がある。
この排気量がDセグ高級セダンに搭載されるとは…
最大の注目ポイントは、1.4Lシングルチャージャー+7速DSGを採用したことだ。すでにゴルフやシロッコでおなじみのもので、排気量から想像するよりもずっとよく走るのは重々承知しているが、さすがにDセグメントは荷が重いのではないかと誰もが思うことだろう。なにせ最高出力は122psしかなく、セダンの車両重量は1430〜1450kg(ヴァリアントは1470〜1500)で、ゴルフより140kg以上も重いのだ。
だが、走らせてみると、なんら不満はない。発進からトルクフルで、街中を普通に走るレベルならば2000rpm程度でスパスパとシフトアップ。あっという間に5速以上の高いギヤに達してしまう。実用上で頼もしさや扱いやすさを感じるのは出力よりもトルクだが、それが低回転域から充実しているTSIエンジンと、多段かつ駆動の途切れがないDSGの特性が如何なく発揮されているのだ。きつい登り区間で全開で加速させるとさすがに小排気量を感じさせることもあるが、それでもイラッとするほど遅くはない。
燃費は10・15モードで18.4km/L。同じパワートレインを搭載するゴルフの16.4km/Lを10%以上も上回っているのだから驚かされる。ゴルフにはないアイドリングストップ・システムとブレーキエネルギー回生システムが燃費改善の要因だが、それでも重量差を補ってあまりあるほどではない。エンジン、トランスミッション以外の部分でも日々進化しているということだろう。
経済性と走りの実力も高い次元で両立
すでにいくつかの取材で燃費計測もしているが、この新型パサートの実際のデータは悪くない。とくに高速道路は立派。飛ばすでもなく抑えるでもなく、ごく普通のペースで走って20km/L近くを記録したから、一般的なBセグメント車並みだ。街中などを合わせても10・15モードの8割を超えていた。ちなみにたいていの日本車は10・15モードに対して実燃費が6〜7割ほどだが、輸入車は8割に達することも珍しくない。
シャシー性能にも不満はない。弟分にあたるゴルフも世界中の自動車メーカーがベンチマークとするほど評価が高いが、その延長線上にあると言える。さすがにDセグメントになるとライバルも強力なので他を圧倒するというわけにはいかないが、メルセデス・ベンツのCクラスやBMWの3シリーズなど、より高価なハイブランド車たちに対しても引けをとってはいない。乗り心地に無用な硬さはなくスムーズ。高速道路では安定感があって姿勢はフラットだ。
ワインディングをそれなりのペースで走らせても、リアがビタリと安定していて実に落ち着いている。それでいてステアリング操作に対する反応が鈍いなんてことはなく、そこそこスポーティ。プラットフォームは従来型からのキャリーオーバーでサスペンション形式にも変更はないが、その分じっくり熟成されているようで、新型なのに最初からバランスがいいのだ。
ただし、ファンtoドライブという面では、FRのCクラスや3シリーズの方が上。前輪が駆動を受け持たないことによる雑味のないステアリングフィールや、姿勢コントロールの自由度の高さなどはどうしてもFRに分がある。その代わりにパワートレインが前部に収まっているFFゆえの、後席やラゲッジルームの広さは魅力だ。後席を頻繁に使う場合、FRではもう1クラス上のモデルが欲しくなるが、FFのパサートならば十分だ。
価格設定も驚くほど戦略的だ
これだけの内容で価格は326万円からと、びっくりするほどリーズナブルなのが嬉しい。日本市場ではある程度の戦略的な価格設定が行われてはいるが、それでも最近のフォルクスワーゲンが断行している徹底したコスト管理の恩恵があるのは間違いないだろう。コストを下げると言っても、パワートレインを共通化したり、生産の効率化を図るなどといったところでの話であり、品質に妥協しないのがポリシー。だからユーザーが悲しい思いをすることはなく、真のリーズナブルが実現されているのだ。
あえて言えばゴルフほどキャラクターが確立されておらず、このクラスを求めるユーザーにとってはもう少し華やかさが欲しいかもしれないが、そういったイメージの部分以外では文句の付けようがない。輸入Dセグメントの勢力図を変えることになっても、まったく不思議がないほどだ。
文:石井昌道