◆スマッシュヒットの予感
2013年11月の東京モーターショーでワールドプレミアとなったポルシェ・マカン。カイエンよりも一回り小さなコンパクトSUVの登場に、誰もがスマッシュヒットを確信したことだろう。
都市部で扱いやすいサイズで普段使いに便利なSUV、そして価格的に手が届きそうなポルシェ。走りのクオリティはそのブランド力を考えればハズすことなどまずないだろうから、写真で一目見てビビッときたら実車に触れずとも購入したっていいぐらいだ。
実際にそう考えた人はかなり大勢のようで、今注文を入れてもデリバリーされるのは約1年後になるという(関連記事・ポルシェ初のコンパクトSUV「マカン」の受注開始)。マカンの生産は、カイエン登場とともに立ち上がったドイツ・ライプツィヒ工場だ。今回、5億ユーロ(約700億円)の投資を行なって生産エリアを3倍に拡張し、最大で年間5万台のマカンが生産可能になったという。
今は立ち上がったばかりなので生産は650台/日ぐらいだが、夏頃までには800台/日のフル稼働までもっていく予定。ポルシェは2013年の年間販売台数が16万5000台で対前年比15%と絶好調だったが、2014年はそれ以上に大幅に伸びることになりそうだ。
開発のベースとなったのはアウディQ5だが2/3はコンポーネントを新しく、もしくは専用にアジャストし、マカンが目指した「コンパクトSUVセグメントにおけるスポーツカー」を実現したという。ラインアップは今のところV6型3.0Lツインターボのマカンs、V6型3.6Lツインターボのマカン・ターボ、V6型3.0ターボ・ディーゼルのマカンSディーゼルの3種類。すぐに直4エンジンを搭載するベーシックなマカンが追加され、ゆくゆくはパフォーマンス追求型のマカン・ターボSなども姿を現すことになるだろう。
今回はマカンSとマカン・ターボSをメインに試乗した。日本導入見込みの薄いディーゼルはオフロード・コース体験でのみ触れることとなった。ショー会場以外で初めて目にするマカンは、意外と上品だなというのが第一印象だった。もちろん、ポルシェらしいスポーティさはもっていて、いかにも走りが良さそうにも感じるのだが、カイエン・ターボ的なグイグイとくる押し出し感がない。サイドウインドウのグラフィックやルーフラインはクーペ風になっているが、これは911からインスピレーションを受けたという。
ドア下のサイドブレードと呼ばれるエレメントは918スパイダーの下部ドアシームを思い起こさせるもの。いろんなところでポルシェっぽさを出しているのだった。ショルダー部が911風となっているリヤは、もうひと味欲しいと思わせるぐらいにシンプルだ。
面白いのはボンネットがヘッドライトを取り囲んでホイールアーチ付近まで一枚物になっていること。継ぎ目がなくツルンとしているのが、クリーンで特有の上品感に繋がっているようにも思える。ちなみに、このボンネット周りは綺麗にヘミング処理(折り返し曲げ加工)が施されている。ボディ造りはやはり凝っているのだ。
ついでにライプツィヒのボディ工場でみたマカンのデータでは、スポット溶接が計6000ヶ所(一般的なクルマは4500カ所ぐらい)、MIG溶接1130mm、レーザー溶接5208mmとあった。その他、ホットスタンプ材や接着材も多用して軽量・高剛性でクオリティの高いボディを実現している。ボンネット、フェンダー、バックドアなどはアルミでボディ単体重量は475kg(塗装込みで490kg)だという。
◆インプレッション
見た目で感じた印象は乗り味にも通じていた。大変に洗練されていて上品なのだ。V6型ガソリン・エンジンはターボの3.6Lも、マカンSの3.0Lがベースでどちらもポルシェ開発。3.0Lは最高出力340ps/5500-6500rpm、最大トルク460Nm/1450-5000rpm、3.6Lは400ps/6000rpm、550Nm/1350-4500rpm。
どちらも低回転から大きなトルクがあって扱いやすくマナーがいい。それも上品だという印象に繋がっているのだが、回していくとさすがはポルシェ。回転が上昇するごとに鋭さが増していき、レブリミットまで嬉々として吹き上がっていく。鋭さだけでいったら、よりショートストロークで小排気量の3.0Lのほうがちょっと上に感じられるが、全体的なパフォーマンスはもちろん3.6Lが優れている。
ターボの自然な効き方やそこから生み出されるトルク特性など余裕があるのだ。3.0Lはたまにターボラグらしきものを感じるが、絶対的なトルクが十分なので気にはならない。アウトバーンでは3.6Lなら250km/h巡航を余裕でこなすが、3.0Lではいっぱいいっぱいという感じだった。ただ、それほど大きな差があるわけではなく、ずいぶんと細かく刻んでくるなという気がしないでもない。
シャシーはコンベンショナル(スチールスプリング+固定ダンパー)、PASM(スチールスプリング+可変ダンパー)、エアサスペンション+PASMと3種類の仕様が用意される。今回試乗したのはマカンSもマカン・ターボもPASM仕様だったが、タイヤは前者が19インチ、後者が20インチと分かれていた。
先に試乗したマカン・ターボは乗り心地がスムーズでロードノイズも低く抑えられていて、高級車としても高い実力を持っていることをうかがわせた。
ところがマカンSのほうはタイヤが小さくなるのにゴツゴツ感があり、ノイズも大きくなる。実は2月後半のドイツはまだ雪がちらつくこともありM+Sのオールシーズンタイヤを履いていたので、これが本来の姿かどうかは分からない(標準装着はサマータイヤ)。そういえば、両車とも全般的には乗り心地がスムーズなものの100km/h付近で路面の凹凸が多い場面では、ユサユサとした上下動が続くこともあった。これもオールシーズンタイヤの影響だったのかもしれない。
◆期待どおりのポルシェらしさ
ライプツィヒ工場にはカスタマーセンターがあり、新車をオーダーしたユーザーはここで出来たてホヤホヤを受け取ることも可能。さらに、専用のサーキット・コース、オフロード・コースも用意されている。サーキットはFIA公認の本格派でラグナセカのコークスクリューなど世界中の名コーナーが採り入れられていたりする。今回、ここを本来のサマータイヤで走行することができたのだが、マカンはSUVということを忘れさせてくれるほどスポーティだった。
インストラクターによる先導走行だったため限界ギリギリというわけにはいかなかったが、ミューの高いサーキット路面でタイヤがスキール音をあげるレベルになってもボディはみしりともいわずガッチリとしている。ステアリングは正確さ、フィードバックともに良好。Q5は電動パワーステアリングのフィーリングがあまり好印象ではなかったが、マカンのそれは911から流用されたというだけあって段違いに良い。
マカンはSUVながら珍しく前後で異なるタイヤサイズを採用しているが(19インチはフロント235/55R19、リヤ255/50R19。20インチはフロント265/45R20、リヤ295/40R20)、これもハンドリングのためだという。細めのフロントは俊敏性と良好なステアリングフィールに貢献し、太めのリヤはトラクションを最大限に引き出しスタビリティを確保するのが狙い。4WDシステムは必要に応じて後輪へトルク配分されるが、サーキットで走らせていると後ろ寄りなことを実感。立ち上がりでアクセルを全開にするとドーンと後ろ足で蹴っていく加速感が気持ちいいのだが、その感覚はRRの911に近いものがあった。まさにコンパクトSUVのなかのスポーツカーと呼ぶに相応しい。
オフロード・コースではモーグルやきつい坂道でヒルディセントアシストなどを体験。悪路走破性もかなり高いことを確認したが、コース内にはカイエンならクリアできるがマカンでは無理なところもあり、なるほどカイエンはカイエンで価値が高いのだということも知った。また、ディーゼルは低速域で微妙に駆動力コントロールをするときに使いやすかった。燃費性能なども考えれば日本導入を願いたいところではあるが、いまのところ予定はないらしい。
速度無制限区間のあるアウトバーンに一般道、サーキットにオフロードとあらゆる場面で試乗することができたマカン。プレミアムSUVとして、静的にも動的にも質感が高く、走りはポルシェに期待されるスポーティさをもっており、全方位的に売れない理由が見当たらない。世界中の市場から引く手あまただろうから、手に入れたいなら一刻も早くオーダーを入れるべきだろう。
■ポルシェ・マカン価格表