【ポルシェ】SPECIALIST 海外試乗記 パナメーラSハイブリッド by 石井昌道

マニアック評価vol55
ポルシェ初の4ドアGTモデルであるパナメーラのハイブリッド・バージョンの試乗会は、ドイツ南部国境の町ベルヒテスガルテンから、音楽の町として知られるオーストリアのザルツブルグを往復する山岳地帯で開催された。4WDのカイエンのそれより約300kgも軽く、かつ後輪のみを駆動するだけに、その走りっぷりは気になるところだ。

ハイブリッドの最適解を探っている段階

ハイブリッドカーといえばプリウスやフィット・ハイブリッドなど庶民の味方的なイメージが強いが、現在、日本で販売されている輸入ハイブリッドカーはメルセデス・ベンツのSクラス、BMWの7シリーズ、同じくX6、フォルクスワーゲンのトゥアレグ、ポルシェのカイエンなど、どれも大型の高級車ばかりだ。ドイツのメーカーは先進技術をまずフラッグシップモデルに搭載し、徐々に下の方向へと拡げていくことが多いが、ハイブリッドカーでも同じ道を辿っている。

また、ヨーロッパやアメリカでは燃費およびCO2の規制が企業平均で課されるという事情もあるだろう。燃費に不利な大型車からまず手を打つ必要に迫られている。ただし、ドイツメーカーとしては高性能なディーゼルがCO2、燃費削減に威力を発揮しているので、まだそれほどハイブリッド化をあせる必要がなく、コストとメリットのバランス、バッテリーやハイブリッド・システムの最適解を探っているところでもある。BMWとメルセデスなどは、ともにSUVは2モーター式、セダンは1モーター式を採用しており、方向性を定めきっていない。

↑外観ではエンブレム以外、とりたててハイブリッドを主張する違いはない。

パイオニアの誇りを実証する牽引役

そんな中でフォルクスワーゲン、アウディ、ポルシェのグループは、1モーター式ながら2クラッチでEV走行を可能にしたフル・ハイブリッドに的を絞っており、車種展開の加速度も増してきた。中でも2011年6月1日より我が国でも受注開始となった最新のポルシェ・パナメーラSハイブリッドは、燃費とパフォーマンス、ドライブフィールのバランスに優れており、今後の輸入ハイブリッド市場の牽引役になりそうだ。ちなみに、ハイブリッドカーのパイオニアといえばトヨタと思いがちだが、それは量産車の話。世界初のハイブリッドカーは、なんと1900年に発表されたポルシェSemper Vivus(ローナーポルシェ)であり、ポルシェは「我々がハイブリッドカーのパイオニア」と胸を張っている。

↑日本国内でも2011年5月に価格が発表され、6月より受注を開始している。

先に日本導入されているカイエンSハイブリッドとシステムはほとんど同一だが、セダン化にあたって4WDではなくFRとしてきたのが大きな違い。車両重量は約300kgも軽く、燃費は欧州複合モードで14.0km/Lと40%も改善されている(オプションの低転がりタイヤを装着すれば14.7km/L)。ポルシェ史上もっとも低燃費でもっともCO2排出量が少ないモデルだ。

同じセダンのメルセデス・ベンツS400HYBRIDの12.6km/L、BMWアクティブハイブリッド7の10.6km/Lと比較しても秀逸だが、これはモーターのみによるEV走行が可能であり、バッテリー容量やモーターが大型で電気の役割分担が大きいだからだ。

↑バッテリーはニッケル水素電池を搭載する。

回生よりも、勢いを活かすという哲学

走行フィールの基本は、ほぼ同じシステムを持つカイエンSハイブリッドや、トゥアレグ・ハイブリッドと同様だ。停止中にはエンジンも止まっており、発進時もほとんどの場合15〜20km/h程度まではモーターのみのEV走行、低負荷の巡航時なども積極的にEV走行を使う。

↑コクピットの基本デザインは他のパナメーラに準じている。
↑中央のタコメーターの右側がハイブリッド専用となる。

このシステムで特徴的なのは、アクセルをパッと離した時の減速感が薄いことだ。これは“コースティング”と呼ばれ、運動エネルギーをなるべく活かして燃費を稼ごうという考え方によるもの。ある程度減速感があった方がガソリン車の感覚に近くて運転しやすいという声もあるが、実際に燃費を意識した運転をしていると非常に扱いやすい。停止位置に対して早めにアクセルオフしても、「スーッ」と転がってくれるのがなんともお得な気分だからだ。

ハイブリッドカーなのだから積極的に回生させるというのもひとつの方法だが、ある程度以上の減速度を伴うのであれば効果的なものの、しっかり状況を把握して減速コントロールできるのであれば転がしてやった方が効率はいい。ドイツからオーストリアにかけて試乗した際にも燃費を計測してみたが、普通に走って12〜13km/L、エコドライブにチャレンジすると18km/Lほどまで伸びた。車格や重量を考えれば、この数値は驚異的とさえ言えよう。

↑手前がモーター側、奥がクラッチ側でエンジンとつながる。

当然だが、カイエンよりも熟成が進んでいる

感心させられたのは、カイエンやトゥアレグに比べると熟成度が増していることだ。そもそもこのシステムは走行中にエンジンを切り離すために頻繁にクラッチのオン&オフを繰り返し、またATが8速と多段なこともあってビジーになりがちだが、そこについては既存モデルでもかなり緻密にコントロールされている。以前フォルクスワーゲンのエンジニアに聞いたところでは、DSGの担当者に協力してもらってショックを避ける制御を獲得したそうだ。

さらにもうひとつ、パナメーラSハイブリッドで進化が見られたのはブレーキのフィーリングだ。従来は踏力と減速感の変化(いわゆる違和感)が感知されることがままあったが、それが大幅に減ってコンベンショナルなガソリン車に近くなっている。

↑荷室容量は335Lで、リヤシートを倒すと1153Lとなる。

新鮮かつ強力な加速はポルシェに相応しい

また、走りの楽しさはポルシェの名に相応しいレベルにある。アウディ開発の3.0LV6エンジンは、まあソコソコといったところだが、電気モーターによってブーストがかかった時の新鮮かつ強力な加速が気分を高めてくれるし、重いバッテリーを後方に搭載したことでノーズの動きが軽快なハンドリングバランスとなっていて意外や楽しめる。低転がり性能を高めたオプションのミシュランタイヤ(19インチ)も、十分なグリップや快適性を持っていた。

↑3LV6のエンジン自体の印象は薄かった。
↑オプションの19インチはフロントが255/40、リヤが285/40サイズ。

もう間もなく日本でも乗れることになるパナメーラSハイブリッドは、パフォーマンスと環境性能のバランスの高さという点でライバルたちに対して頭ひとつ抜けた存在だと言えるだろう。今しばらくは、その座を揺るがされることはなさそうだ。

↑試乗時はあいにくの空模様だったが、ご覧のようにウエットも試すことができた。


■ポルシェ パナメーラSハイブリッド欧州仕様(FR/8AT)主要諸元

●ディメンション 全長×全幅×全高=4970×1931×1418mm/ホイールベース=2920mm/車両重量=1980kg ●エンジン V6DOHC直噴スーパーチャージャー/排気量=2995cc/最高出力=245kW(333ps)/5500〜6500rpm/最大トルク=440Nm(44.9kgm)/3300〜5250rpm ●モーター出力/トルク=34kW(47ps)/300Nm(30.6kgm) ●システム合計出力/トルク=279 kW(380ps)/580Nm(59.2kgm)●トランスミッション =8速オートマチック ●標準タイヤサイズ(前・後)=245/50ZR18・275/45ZR18 ●乗車定員=4名●車両本体価格=1483.0万円(消費税込み)

文:石井昌道

写真:ポルシェジャパン

ポルシェジャパン公式ウェブ

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