高級SUVのランドローバーの攻勢が凄まじい勢いだ。イヴォークの登場、そしてレンジローバーのフルモデルチェンジ、そして今度は、レンジローバー・スポーツの出番である。あまり詳しくない人はスポーツはレンジローバーのひとつのグレードに思われるかもしれないが、こいつはまったくの別物。名前こそレンジローバーに準じるが、フレームからそれとは異なる構造を持つ。よって当然性格も別と考えていい。
そのレンジローバー・スポーツがフルモデルチェンジした。プロダクツの正式発表は今年2013年4月のニューヨーク国際オートショー。プレスデー前日のイベントでは、007で名を馳せたダニエル・グレイグが新型に乗って登場し、世界のメディアをあっといわせた。ニューヨークを発表の場としたのは、このクルマがここで高く評価されているから。ニューヨークを中心とした東海岸でレンジローバー・スポーツは売れている。
では新型の概要から話をはじめよう。
まず、従来型は基本骨格をディスカバリーと共有した。なので、全方位的なバランスはいいのだが、その名前通りの高級感を期待すると、正直乗り心地だけはそこに到達していない。まぁ、それだけレンジローバーの乗り心地が別格ということなのだが、今回はレンジローバーがフルアルミ構造となったのと同じように、そのノウハウでスポーツも素材から見直された。つまり、アルミ製モノコックボディ構造を有する。なるほど、それだけでもこれまでのフレーム付きセミモノコック時代とは異なるテイストなのが想像できる。
また今回はさらなるオンロードの走りにもこだわったことで、前後のサスペンションにまで軽量アルミを用いた。フロントにダブルウィッシュボーン、リヤにマルチリンク式を投入しており、BMWをイメージさせるお金の掛け方である。そしてここには、レンジローバーでは5代目に数えられるエアサスペンションが組み込まれる。
詳しい数字は省くが、ハイト幅を広げたことで利便性は高まった。それと同時に、中間でのセッティングを可能とし、高速走行時の安定性もより高いものとしている。その辺はオンロードダイナミクスを高めるための手法といえそうだ。
デザインを手がけたのは、ランドローバーのデザインディレクター兼チーフクリエイティブオフィサーのジェリー・マクガバン氏。イヴォークで世間を驚かせ、新型レンジローバーでセレブたちの心をつかんだ仕掛人だ。今回もそんな彼の自信作。レンジローバーに代表されるDNAをコンテンポラリーなデザインに注入した。注目は低く抑えられたルーフライン。走りを強調したそれは、新型レンジローバーより149mm短く、55mm低くなっている。Cd値0.34はこのクラスとして立派としかいいようがない。
ちなみに、デザイナーにイヴォークのデザインを取り入れたのかと質問したら、そうではないという答えが返ってきた。デザインはほぼ同時で、それぞれに合ったコンテンポラリーデザインを描いたそうだ。また、開発面では新型レンジローバーとほぼ同時だったともいう。もちろん、そうでなくても類似点は多く見られるが、一方75%の部品点数がレンジローバー・スポーツ用オリジナルというのも見逃せない。つまり、これら3モデルは兄弟車であると同時にしっかり独自性も兼ね備えているのだ。
次はパワートレーンに話を移そう。レンジローバー・スポーツの心臓部でもあるエンジンは4種類で、2つのガソリンエンジンと2つのディーゼルエンジンがラインナップされる。ガソリンは340psを発揮する3.0L V6とお馴染みの510psの5.0L V8。ともにスーパーチャージャーで過給される。この新型V6はジャガーXJやXFでも2013年モデルから採用される。そして組み合わされるのはZF製の8速AT。このセットで従来よりも燃費を大幅に稼ぐとともに、二酸化炭素排出量も15%軽減されている。
ではこの新型スポーツを実際に走らせるとどうなのか。今回の試乗はメーカーお膝元のテストコースという、クローズドエリアのみとなった。理由はもちろん発売前ということなのだが、それでもこういった機会をセッティングするということは、相当にメーカーが力を入れていると考えられる。
テストコースは本社機能のあるゲイドンにある。生産ラインのすぐそばに広大なオーバルをメインとした走行コースと、様々な路面を再現した乗り心地と連続するS字でハンドリングを試すコースがある。クルマはV8の5.0Lモデル。ゼブラの目隠しなどはせず、発表されたボディのままの試乗車が用意されていた。
まずは1周、インストラクターの横に乗ってコース説明を聞く。「直線では130マイルくらいまで出していい」と、嬉しい言葉を耳にした。時速130マイル…時速200キロってことか。そしてそこからの急制動。その威力を体感してほしいという意図である。事実、2周目から自らステアリングを握ってみると、インストラクターの言いたいことがしっかり理解できた。従来型の同モデル比較で最大420kg軽くなったというボディは、まさに軽快そのもの。出だしもそうだし、高速域に至ってもそれを感じる。
アクセルに対する反応がすばらしいというか、もはやスポーツカー並みである。そのため、直線ではしっかり130マイルまでメーターの針は到達したし、その直後の制動力も手応えがあった。ボディが重ければブレーキを引きずるように次のコーナーに入っていかなければならないところを、しっかり直線の範疇で制動力を効かせた。しかもフロントにかかる荷重もそれほど強くない。この辺りのボディの強さ、つまりよれたりしないところも、今回のアルミ製モノコックボディの恩恵だろう。フロントとリヤのサブフレームがそれを実現する。
路面のミューを変えたり、段差を付けたりするコースではその快適な乗り心地に納得した。エアサスが効果的に働いてレンジローバー同等の乗り心地を提供する。すべてが足元で行なわれ、キャビンまで振動が伝わってこないのはさすがだ。路面によって多少ゴツゴツした感がなくもなかったが、そこはロープロファイルのタイヤのせいだ。試乗はすべてオプションの21インチが履かされていた。ただ、それも計算尽くの演出的と思える。スポーティな味付けは明らかにレンジローバーよりも色濃くしてあるということだ。
そしてハンドリングは、実は今回一番驚いた部分。スッスッと切れる感覚はもはやSUVではない。それは軽快なサルーン張りで、いうなればジャガーのそれに近い。もしかしたら、ここに関してはジャガーの開発陣もかなり関わったのではと思える。軽快かつ堅牢なフレームがもっとも功を奏するのはここと言えそうだ。
もちろん、アルミ構造のノウハウはジャガーから拝借している。2003年にリリースされたX350以降、彼らはアルミニウムのエキスパートとして開発を進めているのだ。
といった内容だった今回の新型レンジローバー・スポーツのテスト走行。クローズで行われたとはいえ、かなりの手応えを感じた。メーカー側は言葉には出さなかったが、ライバルはポルシェ・カイエンであり、それに十分対抗できる仕上がりをしている。一般道での国際試乗会は7月に予定されている。エンジンの違い、タイヤの違いなどはそこでレポートすることにしよう。