こんにちのSUVムーブメントがここまで盛況となった背景には、ファッション的な要素や実用面での使い勝手の良さ、日本市場ならば同じく背高のミニバンに慣れたユーザーのネクストチョイス、などがあったとみていい。
SUVでも駆けぬける歓びへのこだわり
けれども、もうひとつ大事なことを忘れてはならないと思う。いくら格好良く見えたとしても実際にドライブしてみたら違和感があった、というのでは、SUVがここまで人気を博することなどなかったに違いない。
つまり、それまでクロカン四駆などと呼ばれてきた背の高い4WDワゴンの“ゆらゆら”とした走りが、まるでセダンのように“しゃきっ”となってくれたからこそ、ごく普通の乗用車ユーザーもSUVを選んでくれるようになった。
SUVがサルーンのように走る!特に大型モデルの場合、初代X5登場がその画期だった。SUVでありながら機敏なスラローム走行でさえこなすそのパフォーマンスには、当時、心底驚かされたものだ。間違いなくそこにも“駆けぬける歓び”があった。BMWが特に自社製のSUVのことをSAV(スポーツ・アクティビティ・ビークル)と呼んで、まったく新しいカテゴリーのクルマだと宣言したことにも納得できたものだった。
ゴージャスの極みというオーラ
初代の登場から早20年が経とうとしている。X5もこの新型で第四世代(G05)を迎えることとなり、すべての面でめざましい進化を果たしている。
日本仕様プレスカーの準備が整ったので、早速試してみることに。グレードはX5 xDrive35d Mスポーツだ。当面、日本市場へ導入されるモデルは、3.0L・直6DOHCディーゼルターボ(B57A30A型)を積む35dのみ。
待ち合わせ場所に現れた真っ白な新型X5は、さすがに旧型よりひと回りボディサイズが大きくなったというだけあって、ゴージャスの極み、といったオーラを放っていた。試乗と撮影の都合で山間のパーキングを待ち合わせ場所に選んだが、緑に囲まれた場所よりも都内のラグジュアリィホテルのほうがよっぽどお似合いだ。
なかでもホイールベースの延伸に注目したい。全長の延びが25mmながら、ホイールベースは40mmも延ばされた。これはさぞかし後席も広くなったことだろうとまずはリヤドアを開けてみれば、なるほど乗り込んだ瞬間から広さを感じる。足元も十分に広い。ちなみに室内スペースでいえば前席でもいっそうゆったりとした気分になれる。ラゲッジ容量も旧型より格段に増した。にもかかわらず車両重量に関しては減量できている。“走り”が要のBMWゆえ、燃費性能面もあわせて、そこだけは譲れなかったというわけだろう。
羨ましいポイントはこれ
それにしても、インテリアの豪華さにはエクステリア以上に目を見張るものがあった。実は集合場所まで最新の8シリーズで向かったのだが、ほとんど見劣りしなかった。それもそのはず、新型X5には8シリーズと同様に「BMWオペレーティングシステム7.0」が搭載されており、ダッシュボートまわりを中心としたコクピットの印象がほぼ同じ、だからだ。
それだけじゃない。派手過ぎず、かといって硬派に過ぎず、豪華さを演出しながらもスポーティさを忘れないという絶妙なバランスのデザインと、光り具合、見映え質感ともに上等なマテリアルの組み合わせもめっぽう上手くなったというほかない。特にシートのデザイン紋様がゴージャス!ひょっとすると旧型オーナーが最も羨ましく思う新型X5のポイントは、インテリアの見映えの良さかも知れないとさえ思う。
各種最新装備の搭載も羨ましいはずだ。なかでも運転支援システム(ADAS)に関しては、BMWが現在揃えているアイテムを惜しみなく積み込んだ。もろもろあるメニューのなかで、個人的に最も“使ってみたい”、というか“これは助けられそう”だと思ったのが、3シリーズで話題になったリバース・アシスト機能だ。車両がその直前に前進した最大50m分のルートを記憶しており、正確にバックで辿り返すことができるというもので、突き当たり路地の多い京都(筆者の自宅がある)では、大きなクルマゆえ重宝しそうだ。
とはいえ、BMWの魅力といえば、皆さんもご存知の通り、“乗ってナンボ”。ちょうど頃合いのワインディングルートもあったので駆け抜けてみることに。
ワインディングでの驚き
35d MスポーツにはX系で初となる四輪アダプティブエアサスペンションを組み合わせている。まずはコンフォートモードで一般道へと繰り出す。“快適”というだけあって、さすがにクルマのサイズをめいっぱい楽しむといったドライブフィールだ。実におおらかで、気分もゆったり。その上、車内は至って静かだから、ディーゼル車に乗っていることなど速攻で忘れてしまった。そして次第に見下ろす世界(実際まわりのほとんどのクルマを見下ろしている)の忙しさを鼻で笑えるような気持ちになっていく。落ち着いて、ゆっくり進みたいときにこそ選びたい。
峠道が近づいてきたので、スポーツモードに切り替えてみた。するとどうだ。まるでアスリートの筋肉が盛り上がりをみせたかのように、車体が引き締まったじゃないか。それはもうはっきりと、隅々まで力が漲ったという感覚がある。そうなれば俄然、積極的なドライビングを楽しみたくなるというのがBMW好き的人情だ。
上りのワインディングロードをぐんぐん駆け上ってゆく。6気筒ディーゼルの魅力は何といってもその加速のスムースさと力強さにある。トルクの波にのっていく感覚もさることながら、エンジンフィールだってクルマ運転好き好みで悪くない。
アクセルペダルの踏み込みに巨体が弾かれたかのように反応する様子も素晴らしい。速度がある程度のってくれば、もうボディサイズや重量のことなどすっかり忘れてしまえる。否、ひとサイズ小さなSUVを操っている感覚にさえなった。
前輪を思い通りの場所に常にもっていける、という操縦感覚は、最新BMWに共通する美点だ。ステアリングホイールを握った手からフロントタイヤまでがよどみなく繋がっているというフィールが頼もしい、どころか清々しい。もちろん、そこからの旋回は自ら望んだラインを正確になぞっていくもので、これぞ“駆けぬける歓び”というものだろう。
ドライバーズカーを味わう
撮影を終えて、こんどは高速道路を使って都心に向かった。最新の運転支援ADASの各機能はとても頼もしく、加減速の滑らかさやレーンキープ力の気持ちよさは正に日進月歩。新しいモデルであればあるほどに上手になっていく。もちろん、アシストなどに頼らずとも道をクルマがよく知るかの如く乗り手をリラックスさせながら突き進む様は、やはり一流のドライバーズカーであった。
オフロード?その楽しみはオーナーのシアワセのためにとっておこう。<文:西川淳/Jun Nishikawa 写真:小河原認/Mitomu Kogahara>
【価格(税込)】
- BMW X5 xDrive35d Standard:920万円
- BMW X5 xDrive35d M Sport:999万円(試乗車)
【試乗車諸元】
- エンジン:3.0L・直列6気筒ディーゼル・エンジン(B57A30A型)
- トランスミッション:8速AT
- 最高出力:265ps/4000rpm
- 最大トルク:620Nm/2000-2500rpm、0-100km/h加速:6.5秒
- 燃費:WLTCモードで11.7km/L
- ボディサイズ:全長4935mm×全幅2005mm×全高1770mm×ホイール・ベース2975mm
- 車両重量:2190kg