【BMW】BMW i3 Specialist海外試乗記 注目のBMWのEV、伸びる加速感とハンドリングの良さが光る レポート:菰田潔

マニアック評価vol211

2013年12月の海外での発売が発表されたi3。日本へは2014年導入予定

2013年の春にライプチッヒのBMW iの工場を訪問したときは、数字と言葉でi3のコンセプトや造り方を聞いただけだったが、いよいよi3の実車に乗れるチャンスが訪れた。試乗車はまだ一部はカモフラージュされたクルマであったが、ほとんど市販されるレベルに仕上がっている最終プロトタイプである。

事前に公表された画像には2ドアタイプもあったが、試乗したのは4ドアだ。市販されるのはこの4ドアのみになるようだ。4ドアといっても観音開きで、フロントドアを開けてからリヤドアを開けるタイプ。MINIクラブマンの右側と同じタイプのドアが左右に装備されている。

観音開きドアが左右に装備されるi3。リヤシートへはフロントシートを前に倒して乗り込む

運転席に乗り込むと同サイズの1シリーズに比べるとアイポイントが高い。もちろん100%電気自動車のパワーソースになるリチウムイオンバッテリーが床下に配置されているからだ。当然ヒップポイントも高く、腰に負担が掛からず乗り降りはしやすい。後席はリヤドアを開け、フロントシートのバックレストを前に倒して乗る。リヤも2人乗りで横幅はゆとりがある。こちらもアイポイントが高く乗用車のリヤシートという落ち着きはないが、ヘッドクリアランスは座高が高い筆者でも余裕があった。

全長4m足らずのボディだが、キャビンは4人が移動するには充分な空間が確保されている。ただしトランクは小さい。RR(リヤモーター、リヤ駆動)だから、ラゲッジスペースが食われているのだ。モーターは左側にレイアウトされ、右側は空間になっているが、希望すればそこに650ccのツインエンジン(BMWのバイクにも使っているものだが水平対向ではない)を搭載し、レンジエクステンダーになる。このエンジンで発電し、バッテリーに充電し航続距離を伸ばす。リチウムイオンバッテリーと合わせて300km走れるようになる。

充電口は右リヤフェンダーにあり、レンジエクステンダー用のガソリン給油口は右フロントフェンダーに配置されている。

■EVらしからぬ伸びの良さがクセになる
運転席に座ると通常のBMWとは異なりダッシュボードの位置が遠い。そのためかスタートストップスイッチはステアリングコラムの右側から生えた太めのバーの中にある。

広さ感のあるインテリア。ステアリング右の太いバーの中にシフトがある

ブレーキペダルを踏み込んでスイッチを押すとスタンバイ状態になり、スイッチの右側のセレクターの表示に「P」のマークが現れる。さらにその右側にあるバー先端のセレクターレバーを前に回すと「D」に入り、ブレーキペダルを放してアクセルペダルを踏むと走り出す。クリープはない。ちなみに「R」はセレクターレバーを後ろに回す。これまでのATセレクターの常識とは違う配列ではあるが、そう戸惑うことなく操作できた。

走り出すとEV特有の走り始めからのトルク感がありとてもスムースな加速をする。アクセルペダルのゲインは落としているようで、日本のEVより低速でのコントロール性はよい。

軽量ボディ、そしてリヤ駆動というレイアウトの恩恵か、伸びのある加速が持ち味

アクセルペダルを深く踏み込めば踏み込むほどに加速力が高まる。EVはスピードが上がるにつれ頭打ち感が出てくるものだが、i3はスルスルッと伸びていく。最高スピードは150km/hである。この伸び感は病み付きになりそうだ。

0−100km/hが7.2秒という加速タイムはもちろんスポーツカーにはかなわないが、並の乗用車なら楽にリードできる。それもほとんど無音での加速だから、乗っていて面白い。

この加速の良さは125kWという出力の電気モーターと車両本体が1200kgに満たない軽量ボディが大きな要因だろう。

日産リーフのモーターは80kW、三菱i-MiEVは47kWだから電気乗用車の中ではi3が力強いモーターを持っていることが判る。そして1200kgという車重だ。リーフは一番軽い仕様でも1700kgを越えるし、iMiEVの47kWモーターを持つGは1110kg。つまりi3というクルマはi-MiEVに近い車重で、リーフの50%増しのモーター出力だから速いのだ。

ボクが2013年の今年、EVレースに参加しているデミオEVもほぼ1200kgという車重だが、モーター出力が75kWなので、i3には適わない。スポーツカーのテスラロードスターのモーターは225kWと強力で、2723ポンド=1235kgという車重だから、このスポーツカーが速いことは数字からも想像できる。

もうひとつ、しっかりした加速感がある理由は後輪駆動ということが大きいと思う。加速が始まると荷重移動して後輪に荷重が乗ってくる。このときにモーターが強い力をだしてもホイールスピンせずに加速力につながるからだ。

ゼロからの発進時やコーナリング中にかなり素早くアクセルペダルを踏み込んでみたが、ドライ路面ではホイールスピンや駆動輪が横滑りすることもなく安定感は高い。iDriveによってDSC(横滑り防止装置)からホイールスピンを許容するTRACTIONモードにして試したが、それでもなかなか滑り出さなかった。ちなみにDSCオフのモードはない。

■ハンドリングも軽快な新時代のクルマ
ミュンヘンの中心から北西に位置するちょっと郊外にある旧空港を改装して作ったBMW MINIドライブ・アカデミー。ここが今回のプロトタイプi3のプレス試乗会の会場だったが、ここにはパイロンスラロームや危険回避のレーンチェンジのコースなどが設定されていた。

高速での切り返しでもふらつきもなく収まりもいい

そんなコースを走ったときにi3のハンドリング性能の素晴らしさを体感した。アルミ製のシャシーにバッテリー、モーター、サスペンションが組み込まれていて、その上にCFRP(カーボンファイバーレインフォースドプラスチック)のボディ骨格、アウタースキンはPP(ポリプロピレン)と、とにかく軽量にできていて、特に上部が軽いから走りが軽快で安定感があるのだ。

スラロームではハンドルを切るだけできれいに予定通りのラインをトレースしていく。70km/hほどで通過するとハンドルをかなり急に切り返す必要があるレーンチェンジでも、リヤの滑りは最小限で収まり、ふらつきが残らず立ち直る。中速で走るコーナーを攻めていったときにタイヤの限界を越えるときでも、とても穏やかな挙動変化で扱いやすい。

注目のタイヤはi3用にブリヂストンが造ったもので、フロントが155/70R19 84Q、リヤが175/60R19 86Qというスペシャルサイズのエコタイヤだ。タイヤの幅は狭いが径が大きいので、グリップ力を生み出す接地面積は縦長にして稼いでいる。この縦長が粘り強くグリップすることに大きく貢献しているのだろう。

タイヤ径が大きいということはハブの位置がその分高くなるが、ちょうど大事なバッテリーを地面から離しダメージを受けにくくすることにも役立っている。ちなみに空気圧は2.2/2.2kgf(重荷重の際は2.5/3.0kgf)である。

BMWの新しいサブブランドとして展開されるiは、電気自動車やPHVというサステイナブルなクルマが主役になる。超軽量なボディを専用開発したのもそこに理由があるわけだが、このボディの造り方はエンジン搭載車にも通用するのではないかと思わせるできの良さだった。

BMW i3の最終プロトタイプに乗った菰田潔氏

BMW i3は本国で2013年12月にデビューする。日本には来年早々に入ってくる予定になっている。大量に売れるクルマではないが、期待できる新しい時代の一台だ。

BMW i3ボディ四面図

BMW i3 主要諸元
全長 3845mm                  動力 モーター
全幅 2011mm                  最高出力 125kW
全高 1537mm                  最大トルク 250Nm
ホイールベース 2570mm           リチウムイオンバッテリー容量 22.0kWh/360V
乗車定員 4名                  最高速 150 km/h
0-100km/h加速 7.2秒
車両重量 1185kg(エンジン付き1250kg)   航続距離 130~160 km
タイヤサイズ 155/70 R19 (前後)      電費 12.9kWh/100km
ホイールサイズ 5Jx19(前後)
充電時間 6時間(200Vによる100%標準充電)1時間(急速充電器による80%充電)
レンジエクステンダー・エンジン 650cc・2気筒 34ps

BMW AG公式サイト

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