BMWグループは2016年に年間200万台体制にもっていくという計画があるが、その実現は2年前倒しで近づいている。BMWドライビング・エクスペリエンスを日本で開始した25年ほど前は60万~70万台規模の自動車メーカーだったのだが、それから毎年生産台数を増やし続け、当時の3倍に近づいた。2013年はBMWグループの世界販売台数は196万3798台だった。2014年は200万台突破はほぼ間違いないだろう。
■2シリーズは1シリーズのクーペモデル
単に同じ車種を大量生産してもどんどん売れるわけはない。そこでBMWは車種を増やしていく戦略を取った。3シリーズはこれまでセダン、ツーリング、クーペ、カブリオレというラインアップだったが、今ではグランツーリスモやxDriveと呼ぶ4WDも加え、エンジンバリエーションも増やした。そしてセダン系は3シリーズ、クーペ系は偶数の4シリーズという呼び名に変わった。
これは1シリーズでも同様で、ハッチバックの1シリーズに対してクーペを2シリーズと呼ぶことになった。今回試乗したモデルはその2シリーズのモデルである。
先代の1シリーズクーペの型式名はE82だったが、2シリーズクーペの型式名はF22と呼ばれる。このあとF23型のカブリオレが登場する予定だし、もしかすると2シリーズ・グランクーペという4ドアクーペも可能性がある。
1シリーズクーペと2シリーズクーペの寸法上の違いは、全長+72mm、全幅+26mm、全高-5mm、ホイールベースは+30mm、フロントトレッド+41mm、リヤトレッド+43mm、ウエイトは変更なしである。ホイールベースは2690mmで現行のF20の1シリーズと同一であることからも、兄弟車種ということが判る。ドイツ本国には218d、220d、225dというディーゼルエンジンと、220i、228iというガソリンエンジンが通常のカタログモデルになる。
今回ラスベガスで行なわれた国際試乗会で試乗したのはM235iクーペである。
BMWは通常のモデルが「BMWオートモビルズ」に分類され、Mモデルは「BMW Mオートモビルズ」となる。そして今回試乗したM235iは「BMW Mパフォーマンスオートモビルズ」に分類され、通常モデルとMモデルの中間という位置づけになる。そして、このBMW Mパフォーマンスオートモビルズは、BMWラインアップのトップグレードをM社がチューニングしたモデルラインで、実質的にM135iハッチバックの後継車と考えて良いだろう。
エンジンはパワーアップしたバージョンのN55B30型と呼ばれる直列6気筒3.0L、直噴、ツインスクロール・シングルターボ、バルブトロニック仕様である。
最高出力は、240kW(326ps)/5800−6000rpm、最大トルクは450Nm/1300−4500rpmを発揮する。6速MTで0−100km/h加速は5.0秒、8速ATでは4.8秒でM135iより0.1秒速くなっている。MT、ATともに最高速はリミッターにより250km/hに制限される。EU基準での混合燃費は8.1L/100km(8速AT)、日本式表示では12.3km/Lとなる。
■オーバル&サーキットで走りを試す
試乗会ではまず、ラスベガスモータースピードウエイの三角おむすび型のオーバルコースを先導車付きで走った。路面に横断勾配が付いていて、どこまでグリップ限界があるのか判りにくいオーバルコースではあるが、M235iクーペのしっかりしたグリップ感は限界付近の滑り出しが判りやすくて、最初から自信を持って走ることができた。タイヤはミシュランのプレミアムスポーツであるパイロットスーパースポーツ☆を履いていた。フロントは225/40ZR18 88Y、リヤは245/35ZR18 92Y XLというサイズである。
次はオーバルコースのインフィールドにあるサーキットに移る。ここはアップダウンがまったくなく、路面カントもほとんどないフラットなサーキットである。さすがに砂漠の真ん中にあるラスベガスらしい。それでもコーナーのイン側には縁石があることでサーキット風になっている。
ここではパドルシフトを使って最初から飛ばしていったが、クルマが非常に安定していた。タイヤのグリップ限界が高く破綻しないのだ。そこで走行しながら横滑りマークを3秒間押してDSCを完全にキャンセルした。コーナーでハンドルを切ってからパワーオンしてもリヤタイヤはしっかりとグリップしていて、なかなか滑り出そうとしない。2速くらいまで落として、クリッピングポイントでハンドルを大きく切り込んだところから急にアクセルペダルを踏み込むと、やっとリヤが流れ出しカウンターが必要になってくる。
もっともパワーオンしたとはいっても、オプションのLSDが装着されていない試乗車は、ドリフトが続くことはなく、リヤタイヤのグリップを取り戻したり滑り出したりするたびにカウンターを修正しなくてはならない。ここまで無理するとスムースな立ち上がりはできなくなるから、こんなときにはLSDが欲しくなる。
基本的にはほとんどの走行状態でアンダーステア傾向になるようにセッティングされているが、これはニュルブルクリンクのノルドシュライフェのようにミューが低いところをハイスピードで走るという状況では、とても安心感があるクルマに感じられるだろう。それでもハンドルが効く範囲は広いので、かなりのところまでオンザレールで走れる。
サーキットを走っているときのタイヤ、サスペンション、ボディなどのフィールは、硬いわけでもなく、柔らかいわけでもなく、表面上は弾性感があるが中身は芯のある硬さを持っている感じだ。サスペンションは良く動いているが、これはこれまでのBMWの感触とは違うフィールである。
■グランドツアラーとしても使える
ラスベガスの市街地も走ることができた。このクルマは、一般道も本当の市街地も乗り心地は快適である。基本的には2人乗りで走ったが、路面の段差を拾うときもガツンという強い振動を伝えてこない。この辺はランフラットタイヤではないミシュランPSS☆の恩恵だろう。長距離ドライブもまったく苦にならなそうだから、グランドツアラーとしても使えそうだ。
市街地走行を終えてサーキットに戻るとアメリカの若手レーシングドライバーであるジョイ・ハンド氏のレーシングタクシーが待っていた。我々が乗ったのと同じM235iクーペを使ってのサーキット同乗走行だ。彼もまたかなりがんばって走っているのだが、リヤはなかなか滑り出さない。レーシングドライバーとM235iとの戦いを間近で見られるとは、なんとも得がたい体験のできたサーキットドライブだった。車内にスマートフォンを持ち込んで撮影した動画は下記にて。
最後になったが、インテリアの質感は3シリーズ並になりこれまでの1シリーズクーペより確実に高まっている。試乗車は本革シートだったが、座り心地もホールド感も良かった。
以前からBMWを知っている人なら、コックピットドリルはまったく不要で、そのまま走り出せる。この2シリーズのM235iは小さめのボディサイズにハイパワーのエンジンを搭載するという、BMWの本来のクルマ造りの王道をゆくマシンである。手頃なボディサイズなので、かなりサイズが大きくなったM3、M4より日本での使い勝手が良いといえるだろう。
■BMW M235i主要諸元