マニアック評価vol124
M6クーペの醍醐味を味わう
地中海に面したスペイン南部のマラガから少し山の方に入っていたところに、オランダ人の富豪がつくったプライベートサーキット、アスカリ・レースリゾート(コーナー数26、1周5425m)がある。
2012年6月、新しいBMW M6の試乗会の1日目は、一般道走行とこのアスカリ・レースリゾートでのサーキット走行をミックスしたものだった。いつものBMW試乗会のセオリー通り、今回も一般道での走行を行い、そのまま試乗車でサーキット走行もこなす。
M5と同じ4.4L・V型8気筒、ツインスクロール・ツインターボにより、412kW(560ps)/6000rpm〜7000rpm 、680Nm/1500rpm〜5750rpmを発揮するエンジンだが、いくら空いた道でも一般道ではアクセルペダルを全開にするチャンスはなかった。軽く流すつもりでも相当速いペースになってしまっている。なにせカーボン(CFRP)ルーフなどで軽量化したM6クーペは0-100km/hが4.2秒、多少重量の重いカブリオレでも4.3秒なのだから。カーボンルーフはもうMモデルのトレードマークになっている。
M5よりホイールベースが短くなっているM6だが、乗り心地は悪くなっていない。ピッチングも目立たないし、シフトレバーの横のドライブモード切り替えスイッチでソフトな乗り味を選択することもできる。それでもノーマルの6シリーズとは別のしっかり感がある。ノーマルの6シリーズのようにリヤのサブフレームのゴムブッシュがなく、M6ではダイレクトにボディに固定されているからだ。ハイグリップタイヤにより大きな力が掛かった場合でもアライメントの変化が起きないようにするためである。
Mモデルは走り味を追求しているから、BMWの他のモデルのようなランフラットタイヤを採用していない。だからリヤサブフレームがボディと直付けでも乗り心地が成り立っているのかもしれない。
シフトレバーの横にあるドライブモードの切り替えスイッチは前から、
DSC(ノーマル、MDM、オフ)
アクセルレスポンス(エフィシェント、スポーツ、スポーツプラス)
ダンパー(コンフォート、スポーツ、スポーツプラス)
ハンドル重さ(コンフォート、スポーツ、スポーツプラス)
以上をそれぞれ選ぶことができる。
ハンドル左側のスポークにあるM1、M2スイッチは、ドライブモードのセッティングをプリセットできるものだ。サーキット走行用、ワインディング用、お客さまを乗せるときなど想定する運転状況に合わせiDriveの設定でプリセットするか、セットした状態でM1、M2スイッチを長押しすればいい。
M6使いの極意とは
M6の試乗でもサーキット走行用にDSCはMDM(Mドライブモード=アクセル制御はドライバー任せになり、横滑り対応のブレーキは遅めに介入するモード)、あとはスポーツプラスにしておいた。3周のペースカーラップが終わってから(これも相当速いペースだった)、6周のフリー走行ができた。最後もう1周クールダウンラップで終了するので、合計10周走行だ。
フリー走行になって数周走って慣れてきたので、DSCスイッチを長押ししてDSCを完全にオフにしてアクセルペダルを踏み込んでみた。ヘアピンの立ち上がりの2速では当然リヤが大きく滑り、大カウンターを当てなくてはならなくなった。さらに3速にシフトアップしても不用意にアクセル全開にするとコーナリング中だとズルズルとリヤが出てくる。数字では確認していたが、実際に凄いパワーだということを実感することになった。
コーナーの立ち上がりではコーナーの大きさとギヤを考えてアクセルペダルを踏み込むと軽いカウンターステアを当てながら立ち上がることができる。これぞFRスポーツを操る歓びとハイパワーマシンの醍醐味といえる。
6700rpmからがイエローゾーン、7200rpmからがレッドゾーンになっているタコメーターを見ながらパドルを使ってシフトアップしていく。パドルを使わなくてもDレンジなら自動シフトアップするが、それでもイエローゾーンに入るまで引っ張っていく。しかしイエローゾーンに入るまで引っ張ってシフトアップした場合と、もっと手前でシフトアップした場合では、次のコーナーの入り口のスピードが異なる。
予想に反してイエローゾーンの手前でシフトアップした方がスピードが速いのだ。198km/hだったのが214km/hまで上がる。これは後からM6 のチーフエンジニアのフライドマン氏に聞いたところ、正解だと言われた。6200rpmでシフトアップするとトルクの一番美味しいところをうまく使えるからだという。
サーキット走行は非常に暑い日で、計器盤の外気温度計は40度を越えていた。この状況でM6を走らせるとトランスミッションのオイルの温度が上がってくるようだ。そしてトランスミッションのオーバーヒートを防ぐためにマニュアルモードでも自動シフトアップするようにプログラムされている。ボクもそれを体験した。
5000rpmに達する前にシフトアップするから何かと思ったが、実はこういうフェールセーフが採用してあったのだ。これもイエローゾーンまで引っ張ることなく、6200rpmでシフトアップしていくと起きにくくなるという。M6 は6200rpmでシフトアップするのが、一番速く走れるし、クルマにも優しいドライビングなのだ。
サーキット走行ではあと少し同じギヤで引っ張ると都合が良いというケースもあるだろう。その場合にはレッドゾーンの手前まで使えるが、サーキット走行でも6200rpmが標準と考えることができるとM6使いになれるだろう。
高性能をオープンで着こなすかっこ良さ
M6 カブリオレは一般道の市街地、高速道路、ワインディングロードで乗ることができた。
現行のBMW6シリーズはカブリオレから登場し、後からクーペが追加された。その理由はオープンをつくってからクーペをつくった方が、両方とも良いボディができるからだという。つまりクーペの屋根を取ってオープンにするとボディ剛性が不足するが、オープンに屋根を付ければ剛性に余裕ができるから、そこから軽量化していけば良いからだ。
M6カブリオレをオープンにして一般道を走るときにも、ボディのしっかり感を感じられたし、ブルブルするような床下の揺れはなかった。路面の凹凸に対しても優しい感じがしたが、クーペはオプションの20インチだったのに対し、カブリオレは19インチタイヤだったせいもあるだろう。
Mモデルだけあって、エンジンサウンドは凝っている。ドライバーに聞かせる音をつくっているのだ。これはエキゾーストノートだけでなく、インテークマニホールドから聞こえる吸気音もアクセルペダルの踏み加減が判るほど明確な音である。オーディオスピーカーから特に排気系のエンジンサウンドの演出をアシストするために音を出しているそうだ。
3000rpmくらいから盛り上がり、5000rpmからさらに盛り上がっていくときのエンジン・サウンドは素晴らしい。それがオープンで走るカブリオレではすごくよく聞こえるのでドライビングの楽しさも倍増する。あえてパドルシフトを使って走ってみたくなるのも、このサウンドチューニングのせいだ。
一般道を走るときのM6のパフォーマンスはクーペもカブリオレもほとんど同じだ。つまりエンジンの全ては使い切れないからだ。
M6をカブリオレで乗るのはとてもおしゃれだと思った。もちろんサーキット走行をメインとするなら、ボディ重量の軽さに加え、フロントスカートの下にチンスポイラーを備え、今回の試乗車はカーボンブレーキを備えるクーペに軍配が上がるが、高性能をオープンでさり気なく使いこなすことができるドライバーのかっこ良さも、もうひとつの価値といえるだろう。