アウディ・ジャパンは、A3セダンの試乗会の地を白銀の北海道帯広に設定した。雪とクワトロ(4WD)の威力、そしてA3スポーツバックとの違いを確認すべく、興味津々で向かった。
現地は雪と氷の世界か、と思っていた我々を待ち受けたのは、真っ赤な太陽に照らされたドライ路面だった。さっそくA3セダンの後席に座ってみた。クーペスタイルながら頭上には余裕の空間があり、正統派セダンの資質が感じられた。だが体の横方向、つまり側面はやや壁が迫る印象であり、そこがデザインコンシャスに振った、ルーフに向かうほど上部が狭まるキャビン形状の難点と言える。
A3スポーツバックのリヤをノッチバックにして全長は+140mmの4465mm。トランクスペースはVDA方式で425L、リヤシートバックを倒せば880Lまで拡大する。
試乗はA3セダン1.8 TFSIクワトロ。これにミシュランのスタッドレスタイヤ、X-iceを装着して雪上を行くはずだった…。ところが十勝帯広空港に到着して一歩外に出ると、眩いばかりの日差しを浴びる。好天続きで日陰に残雪はあっても、ほとんどはアスファルトむき出しのドライ路面なのだ。その上をスタッドレスで走行する空しい状況となった。
ステアリングの中立付近は緩慢で、直進状態もなんとなくどちらかに取られるのを修正しながら進む。サマータイヤで味わうアウディの中立の締まった正確な感触とは大きく異なる。これを味わうために北海道まで飛んで来た訳ではないと思いつつ、十勝スピードウエイに向かった。
しかし救いはスピードウエイ内の特設リンクだった。この特設リンクは踏み固められた雪と氷があり、その上に雪が積もっている。ただし走行すれば雪は蹴散らされ、強い日差しで氷の表面が溶け、水分が発生してともかく滑る。しかも有り余るパワー/トルクで空転するため、路面の表面を磨き最も滑りやすいミラーバーン状態に。
この状況でクワトロとX-iceタイヤの威力はどうなのか!? 望んでもなかなか得られないチャンスは逆に嬉しくなった。
こうした路面コンディションで安全に目的地に向かうのであれば、ESC(横滑り防止)は当然ONである。ところがここはコースアウトしても新雪に入るだけの、ダメージ皆無な特設リンク。ESCスイッチを長押しして三角のビックリマークを表示させ機能をOFFにした。
■限界を超えてもリカバリーのしやすさは一級品
A3の基本レイアウトは横置きFWDに、電子制御ハルデックスカップリングを組み合わせた4WDシステムだ。限界を超えるとどう滑るのか? アクセルを深々と踏み込み駆動トルクを与えると、フロントが空転し雪煙を舞い上げながらもクルマは前へ前へと引っ張られ、押し出されもする。前後100:0が最大50:50にまで可変して駆動するのだが、アクセルOFFでコーナーに進入する場面ではステア角どおり素直に曲がり入り込む。リヤのスライドもない。極々まっとうに走行することはすぐに確認できた。
雪上の醍醐味は、パワーなり慣性なりでスライドする姿勢をステアリングとアクセルでどこまでコントロールできるかに尽きる。A3セダンはコーナー進入の姿勢の変わり方からしてほぼFWD状態で旋回を始めている。これはFWD版A3スポーツバックでも味わえるハンドリングの正確さだ。
そのままでは何の挙動変化も起らないため、コーナー進入速度を高め、旋回が始まったところでアクセルを全閉にし、いわゆるタックイン現象を起こしてあえて挙動を乱す。直後にフロントはインに巻込み、リヤはスライドするスピン状態となるが、こうした挙動変化は、過去の経験から言うと、アウディのトルセン式、あるいはクラウンギヤ・センターデフ式のクワトロよりも顕著に起るように思うのだが、直接比較をしていないので断定はできない。
スピン状態からステアリングは進行方向に操作するが、自然にその方向にステア操作しやすい。自動で転舵しているワケではないが、キャスターアクションを含むSAT(ハンドルが戻ろうとする動き)の効果かと思う。
発生したリヤのスライドに対してアクセルを深く踏み込めばパワースライドから4輪ドリフトに変化。弱めにパワーを加えると安定姿勢に戻り、ステア操作してアクセルを全閉にすれば挙動は大きく変わる。この変化の法則が掴めれば雪上・氷上でスライドコントロールは楽しい。
A3セダン・クワトロは一般走行ではもちろん優れた安定性が武器で、一方、限界を超えてもリカバリーのしやすさはこれほどまである、ということが確認できた試乗だった。
■アウディA3価格表