クルマ好きの方なら誰でも、モーターショーや自動車ディーラーなどでノベルティをもらった経験があることでしょう。それらのなかには、相当なこだわりと経費をかけてつくられたものや、逆になんの役にも立たないユニーク極まりないアイテムがあったりします。また、自動車メーカーが自ら販売した純正コレクションのなかには、今となっては入手困難なお宝品が含まれていることも。今回はそんな自動車ブランドグッズについて取り上げます。<レポート:北沢剛司/Koji Kitazawa>
▪️貰うと嬉しい自動車メーカーのギブアウェイ
熱心なクルマ好きであればあるほど、週末はクルマのショーやイベントに出かけたり、近所の自動車ディーラーに足を運ぶことが多いでしょう。来場や試乗、アンケート回答などを行なっているうちに自然に増えてくるのが自動車メーカーのギブアウェイ。いわゆるノベルティです。かくいう筆者も、以前は週末になると都内の自動車ショールームや輸入車ディーラーなどをまわって、カタログを集めていました。
先日、何気なく部屋を整理していたところ、モーターショーやディーラーなどで貰った懐かしのノベルティがいくつも発掘されました。そのなかからいくつかをピックアップしてご紹介します。
写真は、筆者が高校生時代に日産プリンス店で入手した7th スカイラインのステッカーセット。左は7th スカイライン GTSの市販モデル、右はスカイライン GTS-Rのレース仕様です。これは、1988年の全日本ツーリングカー選手権第1戦でアンディ・オロフソン/鈴木亜久里ペアがスカイライン GTS-Rに初優勝をもたらしたことを記念して製作されたもの。当時、無地のテレホンカードにこのステッカーを貼って使っていたことを思い出します。
こちらは第2期ホンダ F1の時代につくられたノベルティ。左は1986〜1990年のF1コンストラクターズタイトル獲得を記念して製作されたステッカーシートで、右は1988年シーズンのマクラーレン MP4/4 ホンダのプラスチック製下敷きです。これらは当時存在していたホンダ ベルノ店で貰ったもの。当時は2代目CR-Xを真剣に購入しようと思い、何度もディーラー通いをして見積もりまで作ってもらいました。興味深いのは、下敷きのイラストにタバコロゴがしっかり描かれていること。これもタバコの広告規制が緩かった時代ならでは。30年という時の流れを感じさせます。
ようやく念願の自動車免許を取得し、最初のクルマとして選んだのは、いすゞのPAネロ ハッチバック。当時の北米向け車種「GEO ストーム」と同じセミリトラクタブルヘッドライトを採用し、ピアッツァ・ネロとともにヤナセ系列で販売されたモデルです。写真はヤナセが当時製作した、PAネロのマグカップとカードケース型オペラグラス。オペラグラスは格納式で、セミリトラクタブルヘッドライトを彷彿とさせるアクションに企画担当者の心意気を感じました。
輸入車では今で言う「クラシック・ミニ」に興味があり、ローバー・ミニの限定車が発売されるとディーラーに足を運んでいました。写真は当時のローバージャパンが「Classic Mini graffiti」として製作したノベルティで、往年のミニの写真を木製フレームに収めた質感の高いものでした。このようなノベルティが魅力的に映るのはミニの伝統で、それはBMWグループになった現在にも引き継がれています。
輸入車のニューモデルフェアでは、来場記念品としてパスケースやカードホルダーなどを用意することが少なくありません。なかなか実用的なこともあり、長年愛用させてもらった経験があります。左はフェラーリ 612 スカリエッティの発表時にコーンズが製作したもので、右はポルシェ・カイエンのリリースパーティで参加者に配布したもの。スポーツカーブランドのノベルティは、顧客層に見合った高いクオリティのものが多く見られます。
輸入車らしいセンスとクオリティが感じられるのがこちらの2品。左はポルシェ ケイマン Sのドアミラー、右はBMWのホイールをイメージしたアイテムです。
左のポルシェ ケイマン Sのドアミラーは裏側が手鏡になっていて、そのセンスに脱帽しました。右のBMWホイールは、内部に時計がセットされたもので、メタル製のズシリとした重みとともにクオリティの高さを感じさせます。このような遊びごごろが感じられるアイテムは、貰ったときの驚きも格別。まさに顧客に感動体験を与えることに成功しています。
▪️モーターショーはノベルティの宝庫だ!
世界中のニューモデルが集まる国際モーターショーでは、プロモーションを兼ねたノベルティが大量に製作されます。近年はカタログもなく、QRコードを印刷したカードを配布するだけのメーカーもありますが、以前はいろいろなギブアウェイが製作され、ブースを訪れる来場者を喜ばせていました。
アンケート記入時などにペンをプレゼントするメーカーは現在も少なくありません。定番はプラスチック製のボールペンですが、なかにはブランドロゴ入りの鉛筆を用意しているメーカーもあり、デザインも魅力的です。写真手前のsmartwareブランドの鉛筆は、消しゴムまで黒染めにした精悍さが特徴。さらにランチア・リブラの発表時に配布した鉛筆は、なんと天然の木を鉛筆に加工するという凝りまくったアイテムとなっています。ちなみに写真左の「A」と書かれた木製ミニチュアは、初代メルセデス・ベンツ Aクラスの発表時に配布していたもの。ペンと違って実用性はゼロですが、ブースを訪れた来場者は喜んで持ち帰っていました。
こちらはモーターショー開催記念として製作されたピンズです。日本ではあまり人気はありませんが、海外には熱心なピンズコレクターがいます。特にフランクフルト・モーターショーではメーカーブースの片隅で自分のコレクションを販売しているコレクターがいて、フリーマーケットのようなユルさに驚いたものです。以前はブース内のカウンターでピンズを配布するメーカーがあったため、コレクターがカウンターのスタッフにピンズをリクエストする姿をよく見かけました。そんなピンズコレクターからの要求があまりにも激しかったためか、ついには「NO PINS」と書いたボードをカウンターに掲げるメーカーが現れ、その後ピンズの配布はほとんど見かけなくなりました。「過ぎたるは猶及ばざるが如し」とはまさにこのこと。あまりに過剰な要求をすると、結局は自分に跳ね返るという典型的な例でした。
こちらはランチアがリブラとイプシロンの発表時にそれぞれ配布したフリップブック。いわゆるパラパラ写真です。どちらも表側はクルマの走行シーンですが、裏側はリブラが木の新芽にピントが合っていき、イプシロンは女性が鏡の中の自分にキスをするという斬新なもの。そんなアーティスティックな表現ができるのも、ランチアならではの個性というべきでしょうか。
▪️ブランド好きにはたまらないメーカー純正コレクション
多くの自動車メーカーは、自身のブランドを活用したオリジナルアイテムを純正コレクションとして販売しています。なかには高級車メーカーのように、数十万円から数百万円もする高価なこだわりアイテムをラインアップしているメーカーもあります。
メルセデス・ベンツは「Mercedes-Benz Collection」の名で、昔からさまざまなオリジナルアイテムを販売しています。写真は’90年代に販売していた万能ナイフで、実車のボディカラーに合わせて数種類のカラーが設定されていました。写真は同年代に設定されていたボディカラーの「アルマンダインレッド」を再現したもので、同じボディカラーのメルセデスに乗るオーナーへのプレゼントとしては、ぴったりのアイテムといえるでしょう。
自動車メーカーによっては、接客時に使用するコーヒーカップや皿などにも、自社のブランドマークを入れた専用品を用いる場合があります。この分野で群を抜いているのがドイツのアルピナ。顧客に飲み物を提供するときは、ロゴ入りのコーヒーカップやグラスコースターを使用しています。さらに新型車の発表会などで提供するワインは、同社のワイン部門が取り扱っている限定品。さらにワイングラスもAlpinaのロゴが入った専用品という徹底したこだわりを見せています。
写真はまさにアルピナが使用しているエスプレッソカップセットで、純正アクセサリーとして販売していたもの。シンプルな白い陶器にアルピナロゴが映える素敵なアイテムです。
純正コレクションのひとつの究極が、実車パーツを使った製品。例えばポルシェでは、911 GT3のエグゾーストパーツを使ったサラウンドサウンドシステム、911 GT3 カップのリアウィングを使った棚、911の運転席シートと同形状のオフィスチェアなど、ユニークなアイテムを用意しています。フェラーリでも以前オンラインストアで、実車パーツを使ったメモラビリア(記念品)を販売していました。
写真は2001年にコンストラクターズおよびドライバーズタイトルを獲得したF1マシン、F2001のエンジンバルブをオブジェにしたもの。バルブには綺麗な焼き色がつき、実際に使用したパーツであることがポイント。スクーデリア・フェラーリの証明書も付いています。ほかのF1チームにもパーツをオブジェにしたメモラビリアはありますが、フェラーリのF1エンジンという絶大なブランド力にはかないません。使えるリソースをフル活用して商売に結びつけるフェラーリのセンスには驚かざるを得ません。
純正コレクションを除くノベルティには基本的に商業的価値がないため、大掃除の際に捨ててしまうことが少なくありません。とはいえ、今改めて見るとユニークなアイテムも少なくないので、機会があれば押入れの整理などをしてみてはいかがでしょうか。