ボルボ・カーのCEOであるホーカン・サムエルソンは、2017年7月5日の記者会見で、「2019年以降に発売するすべての車をEVやHVなどの電動車にする」と発表した(日経7月6日)。
理由は、「世界中で厳しさを増す環境規制や消費者のニーズの変化に応える」ためだ。
そして、この発表は、「ガソンエンジンやディーゼル・エンジンなどの内燃機関の時代の終わりを意味する」と加えた。
ちなみに、長期的な計画として内燃機関の生産の停止を発表しているメーカーはあるが(トヨタは2050年めどにエンジン車をほぼゼロにする)、目の前の2019年、今からたった2年後に(素の)エンジン車からすべてをモーター付きの電動車とするといったメーターはボルボ・カーが初めてである。
しかし、彼らの言う「脱内燃機関」宣言は容易ではなかったようだ。ホーカン・サムエルソンCEOは、「わが社にとって非常に重大な決断だった」と述べている。
では、それほど重大な決断を、苦渋の選択をなぜしたのか。それは上記したように、「世界中で厳しさを増す環境規制や消費者のニーズの変化に応える」のためなのだ。
世界で広がる厳しい環境規制について知らない自動車メーカーの経営者はいないだろう。だが、「知り方」に温度差がある。おそらく日本の経営者と政府のほとんどは、知っていても危機感がないか、薄いに違いない。それは、ここにきて日本の自動車メーカーの「電化」が大幅に遅れていることで十分に推測できる。
もっとも米国の経営者は、トランプ新大統領のアメリカン・ファーストの元、パリ協定からの離脱をいいことに「知らない」ことにしているのかもしれないが…。しかし、EVの強制導入法であるZEV規制は州法であり、トランプ政権が圧力をかけて廃止するにはそうとうのエネルギーが必要だ。
それはともかく、かねてよりヨーロッパのユーザーの環境意識は強い。それを象徴するのがパリ協定の批准だ。北欧三国はもとより、ほとんどの国の人々が地球温暖化による気候変動を危惧している。
さらに環境意識を高めたのが、昨今の大気汚染である。ディーゼル車はもとより直噴・ターボ式のガソリン車も、大気汚染の元凶であるPM2.5の排出量が多く、昨今の技術開発では浄化できないことが判明したのだ。それを証明するように、VWを初めとしてルノー、BMW、メルセデス・ベンツといったメーカーの車両にも疑いの目が注がれている。
だからといって、電化に後れを取ることはできない。他メーカーに後れを取れば悲惨な結果が待っている。
2017年7月6日 フランスの決断
7日からドイツでG20が開催される前日、フランス政府は2040年までに国内のガソリン車とディーゼル車の販売を禁止する方針を明らかにした。圧倒的な支持を受けて当選したマクロン新大統領の決断によるところが大きいのではないだろうか。フランスの進むべき道をしっかりと示した方針だ。(編集部注:2022年までに石炭火力発電所を停止し、原発をさらに推進して2050年にカーボンニュートラルを目指すという政策方針)
フランスには、ルノーとグループPSAの2大自動車メーカーがある。グループPSAはプジョーとシトロエン、さらにGMから買い取ったオペルで構成され、ヨーロッパ市場ではVWに次いで第2位のシェアを誇る。
ルノーも、グループPSAも、一部の株をフランス政府が保有する。国有とは言いがたいが、政府の干渉がないわけではなく、紆余曲折があるとしても、40年までにガソリン、ディーゼル車の販売を中止するという政策に従わなければならないだろう。
フランスには自国の自動車メーカーのほかに、メルセデス・ベンツとトヨタの工場がある。ガソリン、ディーゼル車の生産までは禁止されないだろうが、これらの工場で生産されたガソリン、ディーゼル車はフランス国内では販売できない。同様なことは、VWにもBMWにも、トヨタにも、日産にも、台数は少ないがホンダにも生じる。
ちなみに2016年の販売シェアは、フランス国内勢が53.5%、海外勢が46.5%である。海外勢のトツプはVWグループ。シェアは12.8%。BMWグループが4.3%、ダイムラー・グループが3.5%、トヨタ・グループが4.1%、日産・グループが3.6%である。
このようにフランス国内販売の半分近くは国外メーカーの自動車である。上記のフランス政府の方針は、フランス国内メーカーだけではなく、国外メーカーのガソリン車、ディーゼル車の生産・販売戦略にも大きな影響力を持つということだ。日本車も例外ではない。
日本は2400万台をEVにしなければならない
ついでに記せば、ノルウェーやオランダも25年までに内燃機関の販売を禁止する。さらに自動車大国ドイツの上院も30年までに禁止すべきだという決議をしている。おそらくスウェーデンもボルボ・カーの後押しをすべく近々に禁止するのではないだろうか。
こうしたガソリン車、ディーゼル車販売禁止の波はヨーロッパだけではない。アジアにも及ぶ。いまや世界第4位の自動車販売台数を誇るインドも30年までに販売する自動車をすべてEVにするという。中国では、実質的なEV専売に移行している。
地球温暖化防止に後ろ向きなトランプ大統領を擁する米国も、カリフォルニア州を筆頭に10州が実質的なEV強制導入法のZEV規制を強める。20年近傍にはこの10州で販売される自動車の5台に1台から4台に1台がEVになる。
この10州の自動車販売台数は全米のそれのおよそ30%である。2016年の全米の販売台数は1750万台だから、525万台のEV(とわずかなPHEV)が販売されることになる。
ひるがえって日本の自動車産業を見ると、国内でおよそ1000万台、海外で1900万台近い自動車を生産している。計2900万台のうち、国内の販売台数はおよそ500万台だ。たとえ国内ではガソリン車、ディーゼル車の販売が許されても、残りの2400万台のガソリン車、ディーゼル車は海外の販売禁止政策に翻弄される。
政府・自工会が国内のガソリン車、ディーゼル車の販売禁止法に強固に反対しようにも、どうにもならない。2400万台のEVを海外で販売しておいて、国内では500万台のエンジン車を売るのでは、パリ協定順守も形だけで終わるし、倫理上も許せないだろう。いかにEVの開発ができない国内の自動車メーカーの救援策だといっても、世界は許してくれはしない。そうしたことをすれば、日本の自動車産業はガラパゴス化し、崩壊する。
だれが、こんな日本の自動車産業にしてしまったのか。次回は犯人捜しをする。