【考察】氾濫する「自動運転」という言葉を再考してみた

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雑誌に載らない話 vol.293

今では、クルマに興味がない人にまで「自動運転」という言葉が知れ渡っている。「AI」、「人工頭脳」などと同列の、現在社会の最先端技術として、テレビの報道番組や新聞など、マスメディアでもたびたび採り上げられるからだろう。

レクサス 自動運転走行イメージ

盛り上がる自動運転

現在の自動運転ブームのきっかけを作ったのが、自動車メーカーの地道な研究などではなく、自動車とは無縁のGoogle社が自主開発したGoogleカーであったことも理由のひとつかも知れない。

自動車メーカーではなくGoogleやAppleのようなIT会社が未来のクルマを造る・・・といったマスメディアのキャッチフレーズもインパクトが強かったことも事実である。

その一方で、ボルボのシティセーフティやスバルのアイサイトが起爆剤の役割を果たし、ドライバー支援システムも急速に普及した。それらは自動ブレーキや自動操舵の要素を備えており、「ドライバー支援システム」といった直感的に分かりにくい言葉で説明されたが、一般的には、自動運転と同列で理解する人のほうが圧倒的に多いのも事実である。

そして、日本の政府・内閣が主導する経済&技術政策である「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」でも「自動走行システム」がSIPのプログラムに選定され、官民を挙げて自動走行システム=自動運転の技術開発の機運が加速した。その背景には、開発に政府予算が割り当てられることもあって、自動車メーカーだけではなく、幅広い裾野のサプライヤーも自動運転に関連する技術開発に着手しているのが現状だ。

日産 プロパイロット 作動状況モニター画面
日産のプロパイロット

そういうわけで、マスメディアから幅広い自動車関連産業にまで自動運転という、概念と言葉が短時間で普及したが、実際には「自動運転」という概念は、決して明確でわかりやすいものではない。さらには自動車技術の本家本元の自動車メーカー、テスラ社が採用したドライバー支援システムの「オートパイロット(自動運転)」、日産のドライバー支援システムの「自動運転(に繋がる)技術」といった表現も、多分にキャッチコピー的で、本来の自動運転の概念とは違っていることも明らかだ。

自動運転の理解の基本は

もともと自動運転という言葉の概念は幅広いため、定義付けをすることが難しかったが、2016年にアメリカの「Society of Automotive Engineers(SAE:自動車技術会)」が、「自動車用運転自動化システムのレベル分類と定義」を行ない、この定義がグローバルで使用されることになった。

なお「自動車用」というタイトルが付けられているのも興味深い。なぜなら鉄道用や航空機用自動運転技術はすでに確立されており、実用される領域に入っている。そのためこれらと区別するためだ。

テスラ 自動運転走行イメージ

この「自動車用運転自動化システムのレベル分類と定義」は、純粋に技術的な定義付けであり、これは自動運転技術開発に関わるエンジニアの共通の基準になったといえる。しかし、マスメディアを含む社会一般は必ずしもこの定義を理解しているわけではないし、アメリカの運輸省に属する米運輸省道路交通安全局(NHTSA)でも、必ずしもSAEの定義に従っているわけではない。

まして一般社会ではまだまだ、この自動運転という概念は混沌としており、当然ながら定義付けが理解されているわけではない。そこで、改めてレベルの分類とそれらの定義を確認してみたい。

なお、SAEの「自動車用運転自動化システムのレベル分類と定義」は、2018年2月に日本の自動車技術会が日本語訳化したテクニカルペーパーとして公表している。その公表した理由は、「自動運転の今後の普及を考えた場合、様々な場面で統一されていない自動運転に関する認識・用語(レベル)があると社会受容性にも影響がある、ということからSAE J3016の日本語参考訳を発行し、「広く国民に認知させたいとの考えに基づき、JASOテクニカルペーパーとして無償公開することとしました」としている。日本では、自動運転という用語が独り歩きし、混乱を招いていることを懸念していることが理解できる。

レベル分類と定義

改めていうまでもなく、SAEがレベル分け、定義をした自動運転はSAEに従った次のような5段階となっており、内閣府が進める「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」のひとつである「自動走行システム」は、その定義に従うものである。

戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)における自動運転レベルの定義
SIPの定義はSAEに従った内容

ちなみに、政府としては、早急に自動運転の実用化に取り組むとしており、国交省は次のようなロードマップを打ち出している。さらに2020年には、東京オリンピックと並行して東京地区の公道で自動運転を実施する予定となっているのだ。

自動運転普及に向けた国土交通省のロードマップ
国交省のロードマップ

SAEが決定した厳密な自動運転に関するレベル分類は次のようになっている。

SAEが定義した自動運転レベルの分類
SAEによるレベル分類表

また、SAEは自動運転システムが作動中において、すべてのタスクを実行する状態をレベル3以上の自動運転だとしているが、同時にシステムの故障も想定し、その対応もレベルに応じて求められるとしている。

次はレベル3の自動運転における故障の例を示す。

自動運転システム作動中の車両故障と運転者の制御再開事例

自動運転システム作動中のシステムの故障と運転者の制御再開事例

自動運転システム作動中の限定領域からの離脱と運転者の制御再開事例

さらにレベル4の自動運転のケースでは次にようにされている。

自動運転システムレベル4作動中のシステム故障と運転者の制御再開事例

自動運転システムレベル4作動中の限定領域からの離脱と運転者の制御再開事例

このような、システムの喪失、システムの失陥に対してもレベルに応じた対応が組み込まれている必要があるのだ。

レベル0からレベル5に渡るシステムと、システム失陥時の関係をまとめると次のようになる。

運転自動化のレベルをひとつの機能に付与するための簡素化したフローチャート

適切でない用語

またSAEは、自動運転に関する用語として、適切ではない使用が誤解を与えるとして、特に注意喚起がなされている。

その代表は次のようなものだ。
「自律型の、セルフ・ドライビング、運転者なしの、無人の、ロボットの・・・」が、まず挙げられている。これらの用語はシステムやシステム搭載車両に関して整合性がなく、混乱を招く可能性が指摘されている。あくまでも自動運転システムとするべきだとしている。

特に自律型やロボットといった用語は、ロボット技術、AI技術などから流用されているが、自律型とは意思決定をするという一局面を示しているに過ぎず、実際には車両は外部からのデータ受信や通信、協調を行なうことが想定されるので、本来のシステムを指す用語としては不適切であり、ロボットという用語は、厳密に定義されておらず、広い意味では自動化技術=ロボット化技術といえるので、特定のシステムを示すロボットという用語は不適切としている。

レベル3以上の自動運転で使用が想定される高精度3次元マップ
レベル3以上の自動運転で使用されることが想定される高精度3次元マップ

また無人のシステムという表現は、リモートコントロールによる車両も含まれるため、自動運転システムを指すこととしては曖昧とされる。

さらにSAEは、車両を自動化するという表現(自動化車両、自律型車両)は誤りで、人間の運転を自動化することが求められ、レベル1~2は運転自動化システム搭載車両、レベル4~5の場合は自動運転システム搭載車両が適切だとしている。

SAEの定めた分類や定義は、純技術的な要素を前提にしている。しかしながら、実際の場面では、法的な根拠や法的なバックアップが必要であることは言うまでもない。よく知られているように1949年に発効されたジュネーブ道路交通条約では、車両には運転者が乗っていることが必要で、運転者は常に速度を制御するなど、適切に運転する義務があるとされている。

1949年発効のジュネーブ道路交通条約

技術的な定義と、法的な定義をどのように整合させるかについては、まだこれからの課題となっている。

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